その歩みの先で4
短い沈黙のあと、フィリーナはすっと背筋を伸ばした。
そして、その場に跪く。
「公爵様。リリア様」
深く頭を垂れた。
「無礼は……重々承知しております。
お二人の……いえ、皆様の旅に、私も同行させて頂けないでしょうか……っ」
その声は、強く、真っ直ぐな決意が込められていた。
「どうか、どうか……!
皆様の護衛として……お連れくださいませ。
お願いいたします……っ」
エルヴィンはしばらくフィリーナを見つめていたが、やがて穏やかに口を開く。
「……顔を上げろ、フィリーナ。
話は分かった」
そして、隣にいるリリアへ視線を向ける。
「リリア。君はどう思う?」
「え……? わ、私、ですか?」
リリアは、目を見開いた。
エルヴィンは、あえて自分に判断を委ねてくれたのだ。
そのことが、嬉しかった。
胸が温かくなる。
リリアは微笑むと、フィリーナへ向き直った。
「私は……フィリーナさんとご一緒したいです」
「……リリア様……っ」
「だって」
リリアは、少しだけいたずらっぽく笑った。
「何しろ、お一人でならず者を返り討ちにされたくらいですし」
「え、あ……」
フィリーナが、ほんの少しだけ目を泳がせる。
「ふふっ」
リリアは微笑んで立ち上がると、彼女へ手を差し出した。
「ですから――よろしくお願いします、フィリーナさん。
一緒に来てくださるなら、とても心強いです」
フィリーナは差し出された手を見つめた。
やがて、その手をそっと両手で包む。
「……ありがとうございます、リリア様」
立ち上がった彼女の顔には、晴れやかな笑みが浮かんでいた。
深く頭を下げる。
「この身に代えましても、皆様をお守りすることを誓います」
その後、フィリーナはクラウス、クラリーチェとも改めて挨拶を交わす。
こうして、新たな仲間が一人、旅の輪に加わったのだった。
*
――そして、その夜。
アシュレイト領に、激しい地響きが轟いた。
「……な、なに?!」
館の窓が、びりびりと震える。
眠りにつこうとしていたリリアは、飛び起きると窓の外へ顔を向けた。
遠くで、何かが崩れるような音がした。
続いて、領内のあちこちから赤い光が立ち上る。
「火……?」
リリアが立ち上がった、そのときだった。
館の扉が勢いよく開かれる。
息を切らした領民が、転がり込むように駆け込んできた。
「た、大変だ!」
その顔は恐怖に青ざめている。
「魔獣の暴走だ!」
「魔獣の森から溢れている!!」
その叫び声が重なった瞬間。
リリアの背筋を、冷たいものが走り抜けた。
震える指先を胸元で握りしめる。
窓の外で、また地面が大きく揺れる。
そして遠く――闇の向こうから、無数の咆哮が重なって響いた。




