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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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森の声に導かれて3

――この子を、助けたい。

そう強く願った瞬間だった。


右手の指輪が、ふわりと翠色の光を帯びる。


「……っ!」


指先から溢れた光は細い糸のように広がり、意思を持つように幼いドラゴンの身体を包み込んでいった。


「これは……!」


エルヴィンが息を呑む。


ぱきん。

乾いた音が響いた。


罠に食い込んでいた鉄が、淡い光に触れた瞬間、音もなく砕け散った。

同時に、傷ついていた身体が、みるみるうちに癒えていく。


「……え?」


リリアが目を見開く。

幼いドラゴンの身体から、もう一度、強い翠の光が放たれた。


その光が消えたとき。

そこにいたのは、先ほどまで震えていた小さな姿ではなかった。


傷はすっかり癒え、銀灰色の鱗は陽の光を受けて美しく輝いている。

小さかった翼も大きく広がり、まだ幼さを残しながらも、その姿には確かな力が戻っていた。


ドラゴンは嬉しそうに身を起こすと、ぐい、と、その大きな頭をリリアの身体へ擦りつけた。


『ああ……ありがとう! 君のお陰で助かった!』


「ふふ……良かった!」


リリアは笑いながら、その首へ両腕を回した。


「元気になったのね」


『うん! もう全然痛くないよ!』


その声が、リリアの心へ直接響く。

リリアは嬉しそうに笑うと、小さな身体をそっと抱きしめた。


「君の言葉……ちゃんと分かるよ」


ドラゴンが、ぱちりと目を瞬く。


『え?』


「助けて、っていう声が聞こえたから。

それに……痛い、怖い、っていう声も」


ドラゴンはしばらくリリアを見つめ、それから嬉しそうに目を細めた。


『そう、なんだ……』


その様子を少し離れた場所から見ていたエルヴィンが、ふと問いかける。


「しかし、ドラゴンの谷は遥か向こうだろう? 

なぜ、こんな森に来たんだ?」


リリアはドラゴンを振り返る。


『人間の暮らしが見たくて……こっそり飛んできたんだ』


ドラゴンは少しだけ気まずそうに目を逸らした。


『だけど……森に降りたら、罠に嵌まっちゃって……』


「なるほど」


エルヴィンは小さく笑った。


「好奇心旺盛なのはいいことだ。

だが、次からは気をつけて来るんだぞ?」


『うん! ありがとう!』


ドラゴンは元気よく頷くと、思い出したように自分の首元へ小さな手を伸ばし、一枚の鱗を、そっと剥がした。


「え……?」


驚くリリアの手のひらに、それを乗せる。


淡い銀色の鱗は、不思議なことにほんのりと温かい。


『これは、僕からのお礼』


ドラゴンが胸を張る。


『困ったことがあったら呼んで。

きっと力になるから』


「ありがとう……」


リリアは大切そうに鱗を握ると、胸に抱きしめた。


「あ、そうだ。私はリリア。こちらはエルヴィン様。

あなたのお名前は?」


『僕?』


ドラゴンは嬉しそうに笑った。


『僕は、レヴァフレア!』


「レヴァフレア……」


リリアがその名を口にすると、ドラゴンは嬉しそうに翼を広げた。


『じゃあ、またね! リリア! エルヴィン!』


「うん。またね、レヴァフレア!」


レヴァフレアは大きく翼を羽ばたかせた。

巻き起こった風に木々の葉が舞い上がる。


そして一度だけ振り返ると、空高く舞い上がっていった。

その姿が青空の向こうへ消えるまで、リリアはずっと見送っていた。


「……素敵な子でしたね」


「ああ」


エルヴィンも空を見上げる。


リリアは、自分の手のひらに残された鱗を見つめた。

胸の奥に、小さな光が灯ったような気がした。


*


二人がクロードの領主館へ戻ると、玄関前にはクラウスとクラリーチェが立っていた。


「「お帰りなさいませ。公爵様、リリア様」」


「ただいま戻りました」


リリアが笑顔で答える。


「出迎えなどしなくてもよいのだぞ?」


エルヴィンは苦笑した。


「ここは公爵邸ではないのだからな」


「そういうわけにはまいりません」


クラウスはいつもの真面目な顔で答える。

すると、隣にいたクラリーチェが、いたずらっぽく目を細めた。


「それよりも……お二人にお会いしたいというお客様が、お見えになっています」


「客人?」


エルヴィンが眉を上げる。


「我々にか?」


「はい」


クラウスが静かに頷いた。


「サロンでお待ちです」


エルヴィンとリリアは、顔を見合わせた。

いったい、誰が――。


二人は並んで、屋敷の中へ足を踏み入れた。

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