森の声に導かれて2
森の奥へ進んだリリアたちが辿り着いたのは、木々に囲まれた小さな泉だった。
「……この辺りです」
リリアが馬を降りる。
その瞬間――
「……キュ……」
かすかな鳴き声が聞こえた。
リリアは息を止めた。
泉の脇に生い茂った草をかき分ける。
すると、その奥に小さな影があった。
「……!」
そこにいたのは、幼いドラゴンだった。
まだ成体にはほど遠い。
淡い銀灰色の鱗に覆われた身体は、リリアが両腕を回せば抱きしめられそうなほど小さい。
小さな翼はまだ薄く、飛ぶには頼りない。
その後ろ脚には、古びた罠が深く食い込んでいた。
「……ドラゴンの、子……?」
リリアの声が震えた。
幼いドラゴンは、こちらに気づくと怯えたように身を縮めた。
逃げようと身体を動かす。
「ギャ……ッ」
罠が軋み、痛みに小さな身体が震えた。
「動いちゃだめ!」
リリアはすぐに駆け寄ろうとした。
「リリア!」
エルヴィンが制止する。
「待て。まだ警戒している」
「でも……!」
リリアは足を止めた。
確かに、幼いドラゴンは怯えきった瞳でこちらを見つめている。
小さな口から、かすかな炎が漏れる。
けれど、その瞳に浮かんでいるのは敵意ではなかった。
ただ、痛みと恐怖。
そして――助けを求めるような、かすかな願い。
リリアはゆっくりと膝をついた。
「大丈夫……」
できるだけ優しい声で語りかける。
「怖くないよ。あなたを傷つけたりしないから」
ドラゴンの金色の瞳が、じっとリリアを見つめる。
その周囲を、先ほどの精霊たちが心配そうに飛び回っている。
リリアは、穏やかに語りかけた。
「痛かったね。ひとりで、ずっと我慢していたのね」
ドラゴンはしばらく警戒していた。
だが、リリアの言葉が通じたのか、やがて、小さな身体から少しずつ力が抜けていく。
精霊たちも、リリアの周りで静かに光を揺らしていた。
ヴィリディアの言葉が、胸の奥に蘇る。
『命に、耳を澄ませなさい』
(――はい。ヴィリディア様)
リリアは微笑んだ。
「もう、ひとりじゃないよ」
すると幼いドラゴンは、警戒しながらも、ゆっくりとリリアの手へ鼻先を近づけた。
そして――
そっと、その指先へ触れた。
「……!」
温かな感触が、指先から伝わってくる。
その瞬間、リリアの胸の奥に、かすかな声が響いた。
――いたい。
――こわい。
リリアは目を見開いた。
「……聞こえる」
「何が?」
「この子の……声が」
エルヴィンの表情が変わる。
リリアは幼いドラゴンを見つめた。
「痛いって……怖いって」
その瞳から、ひと筋の涙がこぼれた。
ドラゴンの子もまた、どこか安心したように目を細める。
リリアは、その小さな頭へそっと手を添えた。
「もう大丈夫だから」
森を風が渡っていく。
淡い光を放つ精霊たちが、二人を包むように舞った。
その瞬間、ドラゴンの瞳がわずかに揺れた。
リリアの指輪が、淡い緑の光を帯びる。
リリアはゆっくりと手を差し出した。
「……もう少しだけ、触れてもいい?」




