森に残された祈り2
「リリアっ!?」
エルヴィンが慌てて追いかける。
「リリア様っ!」
クラリーチェとクラウスも後を追う。
けれど、リリアは振り返らなかった。
不思議と怖くはなかった。
むしろ、ずっと探していた場所へようやく辿り着いたような、不思議な安心感。
足を止めてはいけないような気がした。
木々の間を抜ける。
苔むした岩を越え、小さな小川を渡る。
そして、森のさらに奥へ進んだところで――リリアの足が、ぴたりと止まった。
そこには、一際大きな木が立っていた。
森の中心に根を張る、巨大な大樹。
幹は何人もの大人が手を繋いでも届かないほど太く、枝は天を覆うように広がっている。
長い年月を生きてきたことを示すように、幹には深い皺が刻まれていた。
葉の一枚一枚が淡い翠の光を宿し、風もないのに、静かに揺れている。
指輪が、ひときわ強く輝く。
ここだ。
リリアには分かった。
誰にも壊させまいと、森が必死に守った場所。
「リリア!」
エルヴィンの声が背後から聞こえる。
けれどリリアは、もう迷わなかった。
そして――。
そっと、大樹の幹へ手を触れた。
瞬間。
翠の光が、一気に迸った。
大地が、かすかに震える。
「――っ!」
眩い光が森を満たす。
木々がざわめき、花々が一斉に光を放った。
リリアの指輪も呼応するように輝き、二つの翠の光が重なっていく。
エルヴィンは思わず目を細めた。
「リリア……!」
光は温かく、優しく。
まるで、長い間待ち続けていた誰かを、ようやく見つけたことを喜んでいるように。
大樹の枝が大きく揺れる。
その中心から、一筋の光が降りてきた。
光は、ゆっくりと人の姿を形作っていく。
透き通るような身体。
長く流れる髪。
そして背には、月明かりを溶かしたような、美しい羽があった。
一柱の精霊が、淡い翠の光を纏いながら、静かに宙に浮かんでいる。
その精霊は、ゆっくりとリリアへ顔を向ける。
そして――。
慈しむように、微笑んだ。
『……ようやく、帰ってきたのですね』
その声を聞いた瞬間。
リリアの胸に、温かな涙が込み上げた。
自分でも理由は分からない。
ただ、その言葉がどうしようもなく懐かしかった。
エルヴィンは息を呑み、クラリーチェもクラウスも言葉を失っている。
フィリーナだけが、震える声で呟いた。
「ま、さか……。
伝承の……森の……女王……様?」
森の女王。
森のすべてを見守ってきた、古き森の精霊王。
リリアの指輪が、ひときわ強く翠に輝いた。
森を包む光が、そっと揺れた。




