↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/76

森の入り口2

ベアリートの言葉に、部屋の空気が止まった。


クラウスの表情が変わる。

クラリーチェも息を呑んだ。


エルヴィンの目が鋭くなる。


「……なぜだ?」


低い声だった。

ベアリートは動じることなく、リリアの右手を見つめた。


「リリア様のお手にある指輪……」


そこには、母から受け継いだ、白銀と緑の指輪があった。


「それは、森の民の中でも、高位の方が身につけられるものです」


リリアが目を見開く。


「……!」


「その指輪を見れば、分かります」


ベアリートは静かに微笑んだ。


「リリア様は……森の民ゆかりのお方なのですね」


*


ベアリートは暖炉の火へ目を向けると、静かに語り始めた。


「……本当に、悲しい事件でございました……」


その声には、遠い過去を悼むような響きがあった。


「森の民の里が、人の手によって襲われたあの日……」


リリアは黙って耳を傾ける。


炎に包まれた森。

逃げ惑う人々。

焼け落ちる家々。


「私たちは、できる限り彼らを匿いました」


ベアリートの瞳に、深い悲しみが浮かぶ。


「今は、ここにはおりません。

彼らは皆、新しい大地を求めて、散っていきました」


そして、隣に立つフィリーナへ視線を向けた。


「シスター・フィリーナ。

彼女は、半分、森の民の血を引いております」


リリアは驚いてフィリーナを見る。

ベアリートが静かに続けた。


「ですね、フィリーナ」


フィリーナは頷くと小さく微笑んだ。


「はい。これは……院長先生だけがご存じなのですが。

私は、人と森の民との間に生まれた子なのです」


「……そうだったの……ですね」


リリアの声が、かすかに震えた。

ベアリートは穏やかに微笑む。


「この子が、森をご案内いたします」


「フィリーナが……?」


エルヴィンが尋ねる。


「はい。森は、誰にでも道を見せてくれるわけではありませんから。

この子なら、森の奥へご案内できます」


その言葉に、一行は静かに頷いた。


*


馬車を修道院へ預け、一行は馬へ乗り換え、森の中へ入っていく。


先頭をフィリーナ。

その後ろをクラリーチェ。

続いてエルヴィンとリリア。

最後尾をクラウスが務める。


リリアはエルヴィンと同じ馬に乗っていた。

背後から回されたエルヴィンの腕に、すっぽりと包まれている。


「大丈夫か?」


「はい」


背中越しに聞こえるエルヴィンの声に、リリアは微笑む。


「とても……安心します」


エルヴィンは何も言わず、彼女の身体を支える腕に少しだけ力を込めた。


木々の間を、馬がゆっくりと進んでいく。


森の中は驚くほど静かだった。


鳥の声。

葉擦れの音。

蹄が柔らかな土を踏む音。


木々の間から差し込む光は淡く、鳥の声さえどこか遠い。

けれど、不思議と怖くはなかった。


むしろ――懐かしい。


リリアがそう感じた、その時だった。

前方を進んでいたフィリーナが、ふいに馬を止めた。


「……この先です。もう着きます」


「え?」


リリアは顔を上げる。

木々の向こうから、光が差し込んでいた。


一行が森を抜ける。

そして、目の前に広がった光景に――リリアは、息を呑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。