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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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過去へ続く道2

「……!」


エルヴィンの言葉に、リリアは、思わず手を口元へ当てた。


「エルヴィン様……」


森の民の地。

迫害を受け、血に塗れた母が、必死に父、フェルト伯爵に幼い自分を託してくれた場所。

自分に、その土地の記憶はない。

ただ、そこには確かに――自分の知らない過去が眠っている。


エルヴィンは、そんなリリアを見つめながら続けた。


「……これは、ずっと考えていたんだ」


穏やかな声だった。


「君を、その地へ連れて行ったほうが良いのではないかと」


「……」


「ただ……」


エルヴィンは少しだけ苦しそうに眉を寄せる。


「君はまだ幼く、その時の記憶がないとしても……辛い出来事であったことに変わりはない」


エルヴィンの瞳に、深い気遣いが浮かぶ。


「だから……なかなか言い出せずにいたんだ」


その言葉を聞いた瞬間。

リリアの胸が、じんと温かくなった。


自分のために。

自分が傷つかないように。

エルヴィンは、ずっと考えていてくれたのだ。


「……エルヴィン様」


リリアは、柔らかく微笑んだ。


「お気遣いくださって、ありがとうございます」


そして、ゆっくりと頷く。


「もし……できるのでしたら、ぜひお願いしたいです」


「……分かった」


エルヴィンは、ほっとしたように頷いた。


「クラウス」


「はい」


「行程はどうだ?」


問われたクラウスは、少し考えてから答えた。


「問題ございません。

その地へ向かうことは可能です」


「そうか」


その時、クラリーチェが心配そうにリリアを見た。

その肩に、そっとショールをかけてくれる。


「リリア様……本当に、大丈夫でございますか?」


リリアは優しく微笑む。


「ありがとうございます、クラリーチェさん」


そして、自分の胸元へそっと手を置いた。


「私は……自分が何者なのか知りたいのです。

そして、呪いを解くための手がかりになるのなら、どんなことにも向き合ってみたいのです」


迷いのない言葉だった。


過去が怖くないわけではない。

何が待っているのかも分からない。


それでも、知りたい。


母のことも。

自分の血のことも。

そして――エルヴィンの呪いを終わらせるために必要なことも。


リリアの瞳に宿る強い意志を見つめ、クラリーチェはやがて微笑んだ。


「……承知いたしました。

リリア様なら、きっと大丈夫でございますね。

それでは、私も精一杯お支えいたします」


「ふふ。

ありがとうございます、クラリーチェさん」


リリアは微笑む。


暖炉の炎が揺れた。

窓の外には、静かな夜が広がっている。


まだ見ぬ北の大地。

そして、自分の記憶の奥に眠る場所。


リリアの過去へ続く道が、ひとつ、またひとつと開かれていく。


リリアはそっと右手の指輪へ触れる。

白と緑の光が、月明かりの中で淡く揺れた。


それはまるで――遠い故郷が、彼女を待っているかのように。

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