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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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過去へ続く道

馬車はノワール領を離れ、北へ向かう街道を順調に進んでいた。

窓の外を流れていく景色は、少しずつ見慣れないものへと変わっていく。


豊かな畑が広がる土地を抜ければ、なだらかな丘陵が続き、その先には見たことのない木々が並んでいた。


リリアは、そんな景色を飽きることなく眺めていた。


「まあ……あれは何でしょう?」


「薬草の一種だろうな。北の地方ではよく使われる」


「そうなのですね!」


エルヴィンが答えるたび、リリアは嬉しそうに頷く。


今回の旅は、リリアにとって初めて見るもの、初めて口にするものの連続だった。

途中で立ち寄った町では、その土地ならではの焼き菓子を買い、街道沿いの店で珍しい果物を見つければ、目を輝かせた。


「エルヴィン様、これ、とても美味しいです!」


「そうか。気に入ったなら買っていこう」


「本当ですか?」


「もちろん」


「では……こちらも」


「……それもか?」


「はい」


「ふふ」


クラリーチェが後方から、くすくすと笑う。


「リリア様、本当に楽しそうでいらっしゃいますね」


「だって、初めて見るものばかりなんですもの!

こんな味も、こんな景色もあるのだと思うと、とても楽しいです!」


リリアは頬を緩めた。


旅には、不安もある。

これから向かう先に、何が待っているのかも分からない。


それでも、こうして皆と一緒に見知らぬ土地を巡る時間は、不思議なほど心を弾ませてくれた。


クラリーチェは笑顔で頷いた。


「では、これからも見つけたものはどんどん試してみましょう。

さらに北へ行けば、また違ったものがあるかもしれませんよ」


「ふふ。ワクワクしますね!」


「ええ。旅の楽しみでございますもの」


そんな穏やかな時間を重ねながら、一行は北へ進んだ。


やがて空が茜色に染まり始める。

この先の街までは、まだ距離があった。


無理をする必要もない。

クラウスが手綱を緩め、一行は街道沿いの町で一夜を過ごすことになった。



夜。


食事を終え、リリアたちは宿の一室に集まっていた。

クラリーチェが淹れてくれた温かな茶を前に、リリアはほっと息を吐いた。


「今日は楽しかったですね」


「そうだな」


暖炉の炎が静かに揺れている。

しばらく沈黙が続いたあと、エルヴィンが口を開いた。


「……リリア」


「はい?」


「これは……提案なのだが」


いつになく重々しい声音だった。

リリアは手にしていたカップを置き、振り返る。


「……何でしょう?」


エルヴィンは、珍しく言葉を選ぶように黙り込んだ。

そして、ゆっくりと口を開く。


「君は……君自身のルーツを知りたいと言っていたね」


「え? あ……はい」


リリアは目を瞬かせる。


「ならば……」


エルヴィンは、一度視線を落とした。


「幼い君がフェルト伯爵に託されたという……森の民の地へ、行ってみないか?」


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