過去へ続く道
馬車はノワール領を離れ、北へ向かう街道を順調に進んでいた。
窓の外を流れていく景色は、少しずつ見慣れないものへと変わっていく。
豊かな畑が広がる土地を抜ければ、なだらかな丘陵が続き、その先には見たことのない木々が並んでいた。
リリアは、そんな景色を飽きることなく眺めていた。
「まあ……あれは何でしょう?」
「薬草の一種だろうな。北の地方ではよく使われる」
「そうなのですね!」
エルヴィンが答えるたび、リリアは嬉しそうに頷く。
今回の旅は、リリアにとって初めて見るもの、初めて口にするものの連続だった。
途中で立ち寄った町では、その土地ならではの焼き菓子を買い、街道沿いの店で珍しい果物を見つければ、目を輝かせた。
「エルヴィン様、これ、とても美味しいです!」
「そうか。気に入ったなら買っていこう」
「本当ですか?」
「もちろん」
「では……こちらも」
「……それもか?」
「はい」
「ふふ」
クラリーチェが後方から、くすくすと笑う。
「リリア様、本当に楽しそうでいらっしゃいますね」
「だって、初めて見るものばかりなんですもの!
こんな味も、こんな景色もあるのだと思うと、とても楽しいです!」
リリアは頬を緩めた。
旅には、不安もある。
これから向かう先に、何が待っているのかも分からない。
それでも、こうして皆と一緒に見知らぬ土地を巡る時間は、不思議なほど心を弾ませてくれた。
クラリーチェは笑顔で頷いた。
「では、これからも見つけたものはどんどん試してみましょう。
さらに北へ行けば、また違ったものがあるかもしれませんよ」
「ふふ。ワクワクしますね!」
「ええ。旅の楽しみでございますもの」
そんな穏やかな時間を重ねながら、一行は北へ進んだ。
やがて空が茜色に染まり始める。
この先の街までは、まだ距離があった。
無理をする必要もない。
クラウスが手綱を緩め、一行は街道沿いの町で一夜を過ごすことになった。
*
夜。
食事を終え、リリアたちは宿の一室に集まっていた。
クラリーチェが淹れてくれた温かな茶を前に、リリアはほっと息を吐いた。
「今日は楽しかったですね」
「そうだな」
暖炉の炎が静かに揺れている。
しばらく沈黙が続いたあと、エルヴィンが口を開いた。
「……リリア」
「はい?」
「これは……提案なのだが」
いつになく重々しい声音だった。
リリアは手にしていたカップを置き、振り返る。
「……何でしょう?」
エルヴィンは、珍しく言葉を選ぶように黙り込んだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「君は……君自身のルーツを知りたいと言っていたね」
「え? あ……はい」
リリアは目を瞬かせる。
「ならば……」
エルヴィンは、一度視線を落とした。
「幼い君がフェルト伯爵に託されたという……森の民の地へ、行ってみないか?」




