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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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旅立ち2

「エリ、ス……?!」


あまりにも強い抱擁だった。

リリアは、その腕に込められたものに気付く。


心配で。

寂しくて。


そして――どうか無事で帰ってきてほしいという、言葉では到底伝えきれない願い。


エリスは、リリアの背にそっと手を添えたまま、しばらく離れなかった。

その抱擁には、これまで共に過ごした日々のすべてが詰まっていた。


リリアもまた、エリスの背に腕を回し、目を閉じる。

肩越しに伝わる温もりが、胸の奥へと沁みていく。


しばらくして、エリスはようやく身体を離した。

その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。


目元を潤ませながら、それでもエリスは微笑んだ。

ただ、リリアの手を両手で包み込む。


「……リリア様。どうか……」


声が震えた。


「お身体に、お気をつけくださいませ……」


そして、深く頭を下げる。


「お帰りを、心よりお待ちしております」


リリアは胸がいっぱいになり、微笑んだ。


「……ありがとう、エリス」


その言葉以上に、伝えたいことはたくさんあった。

けれど今は、それだけで十分だった。


「必ず、帰ってきます」


リリアは、エリスの手を優しく握り返した。


「皆さんの待つ、この場所へ」



翌朝。

空は、澄み渡っていた。


屋敷の前には、一台の馬車が停まっている。

荷物を積み終え、クラウスが御者席へ腰を下ろす。


「準備は整っております」


「……そうか。いよいよ、だな」


エルヴィンが答え、馬車へ乗り込む。

続いてリリアも、その手を借りながら乗り込んだ。


そのすぐ傍らには、馬車に寄り添うように、クラリーチェが馬に跨っている。


「では、参りましょう」


クラウスが手綱を握る。

馬車が、ゆっくりと動き始めた。


「リリア様!」


後方から声が飛ぶ。


振り返ると、エリスをはじめとした使用人たちが、皆でこちらを見送っていた。


「お気をつけて!」


「必ずお戻りください!」


「いってらっしゃいませ!」


次々に届く声。

リリアは窓から身を乗り出すようにして、何度も手を振った。


「皆さんも、どうかお元気で!」


エルヴィンもまた、静かに手を上げる。


「留守を頼む」


「お任せください、公爵様!」


声が重なる。


馬車は少しずつ速度を上げていく。

車輪が石畳を踏み、少しずつ屋敷から遠ざかっていく。


リリアは窓から、いつまでも皆の姿を見つめていた。

エリスもまた、ずっと手を振り続けている。


やがて、屋敷が小さくなった。

リリアはそっと胸元へ手を置く。


胸の奥に、温かなものが広がっていく。


帰る場所がある。

待っていてくれる人がいる。

だから――どんな遠い場所へ行っても、きっと大丈夫。


森の民の指輪が、朝の光を受けて淡く輝いた。


「……行きましょう、エルヴィン様」


「ああ。

我らの――答えを探しに」


エルヴィンが、隣で静かに妻の手を取った。

リリアはその手を握り返す。


馬車は、北へ。

遥か遠く――氷と影に覆われた地へ。


失われた歴史と、自分たちのルーツを求めて。

長い旅が、今、始まった。

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