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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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旅立ちの決意2

今度はクラリーチェが、少しだけ頬を膨らませるようにして言った。


「まさか、公爵様。

この私たちに『屋敷で留守番をしていろ』などと仰るおつもりではありませんよね?」


「……」


エルヴィンが黙る。

クラリーチェはにこりと笑った。


「ご安心くださいませ。

この屋敷を任せられる、信頼できる者たちは、すでに育てております」


クラリーチェは胸を張った。


「長い旅になるかもしれないのでしょう? でしたら、なおさらです。

リリア様のお傍には、私がいたほうがよろしいでしょう?」


「クラリーチェさん……」


リリアは目を潤ませた。


自分のために、そこまで言ってくれる。

それが嬉しくて、胸が温かくなる。


クラリーチェはそんなリリアへ、いつもの優しい笑顔を向けた。


「それに……」


少しだけ声を落とす。


「私は、リリア様のお世話をするのが好きなのです」


「まあ……」


リリアが思わず笑う。

重かった空気が、ほんの少しだけ和らいだ。



胸を張るクラリーチェの隣で、クラウスも頷く。


「我々が不在の間も、領地と屋敷が滞りなく回るよう、手配は可能です」


「どうか……」


クラリーチェが一歩近づく。


「私たちも、お連れくださいませ」


その言葉に、リリアは胸が温かくなるのを感じた。


自分たちだけではない。

共に歩いてくれる人がいる。


未知の土地へ向かう旅。

そこにどんな危険が待っているのか、まだ誰にも分からない。


それでも――


彼らが共に来てくれるということが、こんなにも心強い。


エルヴィンは二人を見つめ、やがてふっと笑った。


「ははは……そうか」


肩の力を抜くように息を吐く。


「それは……とても頼もしいな」


クラウスが静かに頭を下げる。


「お任せください」


「分かった」


エルヴィンは頷いた。


「では、数日のうちに出発したいと思う。準備を」


エルヴィンの言葉に、クラウスの表情が引き締まる。


「はっ!」


「かしこまりました!」


クラリーチェも深く頭を下げた。


やがて二人が部屋を出ていく。

扉が閉じると、執務室には再び静けさが戻った。


リリアは窓の外へ目を向ける。


ノワール領の夜。

見慣れた景色も、数日後には遠く離れることになる。


遠い彼方には、雪を抱いた山々が連なっている。

その先に、彼らが向かう森がある。


リリアは窓辺に立ち、静かに夜空を見上げた。


「……いよいよですね」


「ああ」


エルヴィンが答える。


「怖いか?」


リリアは少しだけ考えた。

そして、彼の手を握る。


「……怖くない、と言えば嘘になります」


素直な言葉だった。


「でも」


リリアは微笑む。


「エルヴィン様と一緒なら、大丈夫です。

きっと、答えはあると思います」


エルヴィンはその手を、もう一度強く握り返した。


「そうか……そうだな。

二人で見つけよう」


「はい」


二人の間に、静かな温もりが満ちる。


遠い北の果て。

まだ誰も知らない森へ。


過去に置き去りにされた真実を求めて――

そこに待つものが希望なのか、さらなる試練なのか――まだ誰にも分からない。

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