表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/47

禁書庫

王家の禁書庫に足を踏み入れてから、どれほどの時間が過ぎたのか。

四人には、もう分からなくなっていた。


昼も夜も関係なく、ひたすらに古文献を探し続ける。


王家の禁書庫は、想像していた以上に広大だった。


天井まで届く書架が幾重にも連なり、その奥にはさらに別の書架が続いている。

古い紙と乾いた木の匂いが漂い、時折、どこからともなく魔力の揺らめきが感じられた。


ただ読むだけなら、まだよかった。


禁書庫に収められているのは、長い年月の間に封じられた危険な文献も多い。

不用意に手を伸ばせば、本そのものが魔力を帯びて襲いかかってくることさえあった。


「――っ!」


一冊の古書が突然宙へ浮かび、鋭い風の刃を放つ。

エルヴィンが瞬時に魔力の壁を展開すると、風刃が結界へぶつかり、乾いた音を立てて消えた。


クラウスも周囲を警戒しながら、書架から一冊の本を抜き取る。

文字が黒い影となって浮かび上がり、指先へ絡みつこうとする。


「……こちらも違います。

吸血鬼に関する記述はありますが……呪いとの関連性がない」


「分かった。次を探そう」


それでも、誰も弱音を吐かなかった。

薄く防御の魔力を身に纏いながら、膨大な文献を一冊ずつ調べていく。


エルヴィンは黙々と頁をめくり、クラウスは古い記録を整理し、セシリアは複数の言語を読み比べながら、手がかりを探している。


そしてリリアもまた、一冊、一冊と書物を調べ続けていた。


――絶対に、見つける。


指先に力を込める。


――エルヴィン様の呪いを解く手がかりを、絶対に。


胸元へそっと手を当てる。

その時だった。


「……あれ……?」


リリアの目が、一冊の本に留まった。


書棚の奥。

ほとんど光の届かない場所に、それはひっそりと収められていた。


古びた装丁。

他の文献と大きく変わるところはない。


けれど――なぜだろう。


目が離せない。

胸の奥にある何かが、その本を見つけた瞬間に、小さく震えた。

それはまるで、向こうから呼ばれているような感覚。


リリアはゆっくりと、その本へ近づいていく。


「リリア?」


セシリアの声が遠く聞こえた。

けれど、リリアの意識は、その本だけに向かっていた。


一歩。

また一歩。


さらに奥へ。


その瞬間。

ぞくり、と空気が変わった。


黒い霧のような魔力。

濃密で、冷たく、禍々しい。


エルヴィンが息を呑む。


「……っ! 

これは……吸血鬼の魔力……!」


その瞬間、彼は駆け出す。


「リリア! 待て! そちらは危険だ!」


「リリア様っ?!」


クラウスが後を追う。


「リリアっ! 危ない!」


セシリアの悲鳴が響いた。



――リリアの指先が、文献の表紙に触れた瞬間。

右手の指輪が、淡く輝いた。


「……え……?」


白銀の指輪から、緑色の光が静かに溢れ出す。


森の中に差し込む、朝の光のように。

柔らかく、穏やかに。


ふわり。


柔らかな魔力が、リリアの指先から広がり、本全体を包み込んでいく。

激しく渦巻いていた吸血鬼の魔力が、触れたところから静かにほどけていくのが見えた。


対していた黒い魔力が、大きく揺らめく。

それは、波を鎮めていくように広がり、荒々しかった魔力が、眠りにつくように穏やかになっていく。


禁書庫に、静寂が戻った。


「……これは……」


エルヴィンは、リリアに手を伸ばしたまま立ち止まる。

セシリアも、クラウスも声を失っていた。


リリアは、驚いたように自分の手を見つめた。

指輪は、まだ淡い緑の光を宿している。


指から伝わる温もりが、今も胸の奥へ流れ込んでくる。

それはまるで――母が、自分の背中をそっと押してくれているような感覚。


リリアはゆっくりと手を伸ばし、その本を持ち上げた。

先ほどまで本に纏わりついていた攻撃的な魔力は、もうどこにもない。


ただ静かに、リリアの手の中に収まっている。

ずしり、とした重みが腕に伝わる。

それは、リリアの手の中で大人しく身を委ねているようだった。


「……こ、れは……」


クラウスが呆然と呟く。

セシリアも目を見開いていた。


「本の魔力が……消えたわけじゃない……」


「……ええ」


エルヴィンが静かに頷いた。


「リリアの力によって、鎮められたのか……」


三人の視線が、リリアへ集まる。

リリアはしばらく本を見つめていた。


そして、ゆっくりと胸元へ抱く。

その瞳には、確かな光が宿っていた。


「……きっと」


リリアは本を胸元へ抱く。


「きっと、この《《子》》が鍵になると思います」


エルヴィンは、何も言わずに妻を見つめた。

やがてリリアのもとへ歩み寄り、その手元の本へ視線を落とす。


やがて、その目元がわずかに緩む。


「……そうだな」


その声は静かだった。

だが、その声に滲むのは、確かな希望。


リリアはそっと表紙を撫でた。


「エルヴィン様……」


「……ああ」


長い間、閉ざされていた扉。

その向こうに、ようやく一筋の光が差し込んだような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ