探索
その夜。
夕食を終えたリリアの部屋には、クラリーチェが淹れてくれた紅茶の香りが漂っていた。
リリアがカップを手に取ったところで、エルヴィンが静かに口を開く。
「リリア。
やはり、王家の書庫へ行く必要がありそうだ」
「そう、ですか……」
「封印区域に入ることになる。
許可が下りるまで、少し時間がかかるだろう」
エルヴィンは妻を見つめた。
「……君も一緒に来てくれるか?」
リリアは迷うことなく頷いた。
「はい。もちろんです」
だが、リリアはそこで表情を曇らせると、視線を伏せた。
「あ……あの……エルヴィン様」
「どうした?」
「……私……。
謝らなければならないことがあるのです」
エルヴィンだけでなく、傍に控えていたクラウスとクラリーチェも、その声音に顔を上げた。
「姉に……話しました」
一瞬、部屋の空気が止まった。
「リリ、ア……?」
エルヴィンの声に、驚きが滲む。
リリアは慌てて続けた。
「あ、あの、詳しいことまでは話していません。
ただ……『吸血鬼の末裔』という噂が本当だったら、と。それだけです」
そして、少し俯く。
「姉は、それだけで何も聞かずに受け止め、全てを察してくれました」
少し間を置き、静かに続ける。
「姉は博学で、数か国語の読み書きができます。
古文献にも心当たりがあると言って……調べてくれるそうです」
「そうか……」
リリアは肩を落とした。膝の上で手を握りしめる。
「独断で、勝手にこのようなことを……本当に、本当に申し訳ありません」
消え入りそうな声だった。
するとエルヴィンは、何も言わずに手を伸ばした。
隣に座るリリアの手を、ぽん、ぽん、と優しく叩くと、そのまま包み込むように握る。
「それが君の判断なら、私は何も言わない」
「エルヴィン様……」
「いや」
エルヴィンは穏やかに頷いた。
「むしろ……心強いかもしれないな」
その言葉に、リリアの目が潤んだ。
「……ありがとうございます」
握られた手から伝わる温もりに、リリアは静かに微笑んだ。
*
それから数週間後。
王宮の奥深く。幾重もの封印を施された王家の禁書庫。
閉ざされた扉の向こうには、数百年もの時を眠り続けた、古文献が眠っている。
その重々しい扉の前に、四人の人影があった。
エルヴィン、リリア、クラウス。
そして――セシリア。
リリアは姉を見つめた。
二人の視線が重なる。
セシリアは、いつもの優しい笑顔を浮かべて頷く。
その瞳には、静かな決意が浮かんでいた。
やがて、エルヴィンが扉へ手を伸ばす。
長い夜の先にある答えを求めて。
今、彼らの探索が始まろうとしていた。




