姉妹の約束
夕食の時間は、夢のように楽しかった。
この日は特別に、屋敷の使用人たちも食卓を囲むことを許されていた。
広間にはいくつもの料理が並び、いつもは静かな屋敷が、今夜ばかりは笑い声で満たされていた。
何より、皆が公爵夫人となったリリアの話を聞きたがっていた。
「リリア様、お持ちくださったお菓子、本当に美味しかったです!」
「私もいただきました! あんなに美味しいお菓子、初めてです!」
「みんなで、『さすが公爵家の料理人だ』って話していたんですよ!」
口々にそう言われ、リリアは嬉しそうに微笑んだ。
「まあ。そう? 良かったわ。
エルヴィン様にも、皆さんが喜んでくださったとお伝えするわね」
あのお菓子は、父アンドレアスに母のことを尋ねたいと伝えた際、エルヴィンが厨房へ命じて持たせてくれたものだった。
「はいっ! どうぞよろしくお伝えください!」
「公爵様は、本当にお優しい方なのですね」
誰かがそう言うと、リリアは少し照れたように笑った。
「ええ……とても」
その一言に込められた想いを、誰もが微笑ましく受け取った。
皆の顔を見ていると、不思議なほど心が軽くなる。
公爵夫人として過ごす日々とはまた違う。
幼い頃から知っている人々に囲まれ、昔と変わらぬ温もりに包まれている。
心の奥までゆっくりと解けていくようだった。
――帰ってきたんだなぁ。
そんな実感が、静かに胸へ広がっていった。
*
楽しい時間は、いつだって早い。
やがて食事が終わる頃には、窓の外にはすっかり夜の帳が下りていた。
「はぁ……楽しかったな」
自室へ向かう廊下を、セシリアと並んで歩きながら、リリアは小さく呟いた。
こんなふうに笑ったのは、いつ以来だろう。
「ふふ。みんな、あなたのことが大好きなのよ」
「そう?」
「そうよ」
姉妹で笑い合う。
けれど、自室まであと少しというところで、セシリアがふいに足を止めた。
そして、そっとリリアの手を取る。
「リリア」
「はい?」
「少し、外の風に当たらない?」
その声は、いつもより静かだった。
「……え? お姉さま?」
セシリアは答えず、妹の手を引いてバルコニーへ向かった。
夜風が頬を撫でる。
空には淡い月が浮かび、庭園の木々が静かに揺れていた。
しばらく、二人は何も言わなかった。
やがてセシリアが、妹の手を包んだまま、静かに口を開く。
「……リリア。
私に隠していることがあるわね?」
リリアは、はっと息を呑んだ。
「……お姉さま」
セシリアはただ、妹を案じる姉の目で見つめている。
「ここへ来たときのリリアは、とても思い詰めた顔をしていたわ」
「……」
セシリアは、まっすぐに妹を見つめる。
「話して、リリア。お願い」
その真摯な声に、リリアはしばらく黙っていた。




