戦う理由の見つけかた
──監獄競売場
一定の期間で買い手が現れなかった亜人 値がつかなかった擬人 或いは競売が本番開催されるまでの座興として獣人を一族ごと公開処刑という名目で虐殺
今まで多くの亜人種達の血を啜ってきた舞台が今宵も赤く染まっていた
今まで一滴も垂れ落ちる事のなかった人類種の朱によって
「 ──── 」「 ─── 」「─────」
首があらぬ方向に曲がりながらも一糸乱れず俊敏に看守達の波が仮面男に襲い掛かるが 動きの単調さもあってか仮面男も迎撃に手馴れ始めた
「あんのォ…流石に部下達にも手心を加えて欲しいのですっがねェ、この戦術は士気が下がってしょうがないわけっで」
眼下に拡がる惨状に看守達が 次は自分の番では と、恐々とし。戦意が挫け始めた空気を感じてカッツァが調子よく演奏を続けるジックに意見する
「なに言ってるの 意思がある状態なら 肉を少し削られただけで動けなくなって次を投入しなくちゃいけなくなる でも【誘糸の行進】なら身体が粉々にされる限界まで戦い続けられるんだ 人的被害はむしろ減ってる 感謝して」
「あん!人情よりも効率優先のジェネレーションギャップ!でも大局的に間違ってないから強く否定できまっせん!」
くきき…!とハンカチを噛む獄長だったが『ピピ!ピピ!』と電子音と共に胸ポケットが点滅すると それまでのふざけた表情が一変した
「おや……?むぁッ!」
カッツァは急ぎ椅子から立ち上がって胸から呼び出し音を繰り返す端末を取り出し 今まで自分が腰掛けていた椅子に恭しく設置するとスイッチをONにする
『やあ 相変わらず丁重な扱い ありがとうカッツァ』
端末に表示された気さくな挨拶にカッツァは平伏する その態度を見てジックと看守達に衝撃が走る 亜擬の収監と管理、売買を取り仕切る≪大きな葛籠≫獄長の座は伊達ではなく誰かに一方的に頭を垂れる事は まず無い
──唯一、それをする相手は
「天上人様 御身を騙る愚者を始末する此度の任、完遂は未だならず。卑賤なる我が身の至らなさを恥じ入るばかりでございます。」
『そう畏まらないで これは遊びさ。簡単に終わったらツマらないからね ジックもお疲れ様、あぁ!演奏は中断しなくて構わないよ』
「はっ…ハイ!天上人様!ん!んんぅ……んんっ!!」
白けた顔で演奏していたジックに喜色が混じり瞳に輝きが宿る チラチラと端末を気にしながらも『演奏を中断するな』の命に準じる為 地団太を踏んで天上人に畏敬の言葉を捧げる欲を堪えている
看守達もザワザワと天上人の通達が来たことを耳打ちし合い お通夜ムードが漂っていた空気が様変わりし さざめきのように戦意高揚が波及していく
『今回のお祭りは録画で済ませようと思ったんだけどね 少し介入したくなって連絡したわけさ』
「ははぁーーっ!なんなりと!お申し付け下さいませ!このカッツァ身命を賭して…!」
『すまない 考えた戦略を早く試したくて気が急いているんだ ご機嫌伺いは簡略していいよ』
「はっ!お気に召すままにっ!」
『うん、じゃあカッツァの送転箱に本を送っておいたから確認してくれるかな?封は解かないでね』
「はっ!では失礼致しまして……」
カッツァは端末の表面を撫でて画面をスワイプしリボンが巻かれた箱のアイコンをタップすると端末から粒子が噴き出し やがて収束した光が辞典ほどの厚さの本に形成された
「これは…天上人様、このカッツァめに使用方法を尋ねる愚をお許しください」
『ソレはね、簡単に言えば特効アイテムだ 覆面レスラーくんに対しての、ね』
「おぉ…!おぉっ!!素晴らしいッ!改めて感服の極みにございます!」
『褒めなくていいって言ったのに…w ジック 操っている者に本の内容を詠唱させることは出来るかな?』
「──!!!はっ…ははハイッ!可能です!!」
『よかった じゃあお願いできるかな?魔力適正があって理解力に乏しくて感性が鈍い者が適任なんだけど じゃないと最後の節まで詠唱できないからね』
「フムフム、そうなりますると吾輩の部下で誰か居りましたかっな……、っと!」
顎に手をやり適格者の覚えを記憶から手繰るカッツァだったが、符合する人物に思い当たった
「ジック殿、あの先走ったクソ間抜け!アレを使いましょう!」
「…チッ!あんなカスと間接的に繋がるのなんてマウスピースを噛む演奏者より嫌だけど……」
カッツァの提案に渋る素振りを一瞬だけ見せたジックだったが端末に目を向けると
「天上人様たってのリクエストだ、すぐに調律する」
銀の笛の旋律が変わると血溜まりの中に大の字で転がっていたチャラ男がビクビクと身体を痙攣させ 手を使わず踵だけで直立に起き上がり 生気がなかった瞳に色が戻り始めたチャラ男に分厚い本が二階席から投げ渡される
「おがッ!?はれ?な、なんだ!?俺…って!わぁッ!!なんだ!重っ!!」
「え~っと名前なんでしたっけっね…… あぁそうだそうだ!ギシャンく~ん!その本は極めて重要な物です 心して中身を拝読した上で詠唱するように」
「えっ?えっ?はぁ?なんスかコレ…重要って、まさかッ!!天上人様関連スかッ!?!?」
「ばっか……!」
目を瞬かせて驚嘆の声を上げるチャラ男に カッツァは頭を抱えた ヤツに天上人様の降臨を悟られてしまう、と
ーーーーーー
反射的に大声を出して反応するチャラ男の声が場内に響き渡り 辺りが一瞬、完全な無音になる 「んくっ……」と観客の誰かが唾を飲み込む音がやけに大きく聴こえると同時に
───その場に存在する全ての生命体の背筋が凍り付いた
「そこに……」
メキメキッと鈍い音を立て 首だけが歪に曲がり 敵の居所を見据えている 鈍色の仮面
「そこに居たかあアあァァァぁぁっッッッッ!!!!天上人ォぉッッ!!!」
肩を怒らせた衝撃だけで取り付いた看守を吹き飛ばし 右拳を握り込んだ正拳が貴賓席のカッツァに向けて打ち放たれ
「イアをォぉぉ…返せェぇぇァッッ!!!!」
耳を劈く衝撃と音が監獄全体を大きく揺らしたが
「ぬふ♪」
カッツァが冷や汗を垂らしたのも束の間 吼えるケモノを眼前に見据えカッツァの口角が余裕に持ち上がる
バチィッッ!!と炸裂音と光が鳴り渡り 巻き上がった土煙が不可視の壁の姿を詳らかにした
「あ”ぁ”ッ!?」
「ふっ!ほほほほほ!甘い甘い甘すぎる!観客席を剝き出しにしておく訳がないでしょう!考えが足りなさ過ぎ!その仮面の中にはな~んにも詰まってないんじゃ…」
バッヂヂヂィィィッッッ!!!!勝ち誇ったカッツァの言葉を障壁の悲鳴が遮る
俺は話を全く聞かずに障壁を破ろうと空拳を打ち込み続ける
「お、愚か!蒙昧!何をしようと電磁障壁は衝撃を吸収……」
───メリィ…ッ
青く炸裂する光の壁が呻くように軋み 光が濃くなった一点にヒビが走ったのを見て観客達の顔から血の気が引く
「お、おい…おい!」「いやあああああああああああッ!!」「ここの守りは完全じゃないのか!?」「なんという怠慢だ!我々の身の安全は保障されるとあったから金を落としてやっていたんだぞ!!」
まだ障壁には指先ほどの穴しか開いていないのに観客達は阿鼻叫喚の様相だった
手荷物を搔き集めて席を立ち 近くの看守に詰め寄り 出口を探してパニックを起こす観衆を余所に仮面の奥の瞳は大仰な椅子に立てかけられた手のひらサイズの端末を凝視していた
「……それか。機械か?それとも…」
『ふむ 心外だね 私は確かに』
「あに?遠いし小せぇし見えねぇよタコ」
『・。、。・。、。・。・。、。・。』
軽い挨拶代わりに暴言を吐かれた端末は暫し句点が乱雑に表示されると沈黙し 数秒経って懐から『ピピ!ピピ!』と電子音が聞こえた
「なんだ?ん…あぁ~、そういや拾ったな こんなもん」
外套の内側から椅子に据えられたものと同じ端末を取り出した。世界獣の龍から得た討伐報酬だ。
現実世界でも流通していた端末機器に近しいサイズと手触りに懐かしむように画面をタップすると 画面に文字が羅列される
『第一印象は最悪だねキミは礼儀というものを弁えない人なんですか?いきなり人をタコ呼ばわりなんて教養が無い証拠です 育ちが悪く学も修めていない惨めな自己紹介をしたって事を理解していますか?落ち着いて相手と対話を試みる努力を怠るなんて猿以下の知能wそれでさっきからなぜ無言なんですか?反論ができませんか?こういう時は謝罪をするのが正しい対応ですよひょっとして社会に出た経験がない?で、さっきから喋らない理由を聞いているんですけど?もしもーし!効きすぎちゃいましたk』
「おいっしょォぉぉぉぉッッッ!!!」
画面を眺め無言を貫いていたが 腰を起点に身体を捻り 全身投球の要領で端末を明後日の方向へ投擲した
遠くの方でカッシャァァ……ンと端末が虚しく転がった
「もう一度言う。なに言ってるかわかんねぇ、ここに来て直接言ってみろ腰抜けの引きこもり」
椅子に置かれた方の端末がウゾウゾとスクロールし大量の文字を表示しているが
「この場に来れねぇ癖に戯言垂れてんじゃねぇよ中途半端野郎が でも、1つ完全に理解したぜ、天上人は現実の人間だってな」
端末を鼻で笑って更に障壁を破り壊そうと右腕を振りかぶると
「【 星の忌み者 除外の祝詞をここに奉じん 落涙せよ 星の逢瀬 離別の時 来たれり 碧の海に汝の寝所なし 緑の大地に汝の食卓なし 汝、翠の空を纏うこと許さじ 腕を消失 瞳を封印 昏睡に揺蕩い 光年の帰路を往け 】」
──ぞわりと背筋が総毛立つ チャラ男が本を開き やけに耳に障る呪い言葉を放つ 呟き程度の声量だが なぜか頭蓋に纏わり付くように反響する
「【───死封の法】」
言葉が紡がれ終わると チャラ男の前の空気が凝り固まり螺旋を描きながら加速度的に迫り来る
「くぉんの…ッ!!」
咄嗟に身を伏せて呪いの塊を避ける 文字通り音速で頭上を吹き抜けて行った
あの本に頼って魔術を行使したのは明白 両の手に異能を流して氷の剣を形取り おざなりに投げた端末の時とは違い満身の力を込めて投擲した 果たして電話帳の如く厚い魔術書は貫かれた
≪キィ…キキキ………キェア”ア”ァァァッッ!!!!!≫
本の表紙に皺が寄り人の顔のように歪むと苦悶の絶叫を上げた 表紙からはドス黒い血が滴り落ち やがて欠損部分から焦げるように黒が拡がり煤のように中空に消えた
「ふぅ!ちと焦ったな、冷や汗で手がべちゃべちゃだ…なんだあの魔法は」
「封印の魔術。ですっな!」
独り言で呟いた疑問に律儀に解答を寄越したのは 掲げるように端末を両手で持ち上げたカッツァだった
「はぁ、教えてくれて どうもさん」
「ふざけるなぁッ!恐れ多くも天上人様の御言葉を拒絶する不敬者に伝えるべく 吾輩が代弁を仰せつかったのですっよ!心して拝聴なさい!コホン!『通話の切断、ブロック、ブラウザバックは逃亡と見なしそれ即ち敗北に紐づけられる馬鹿で無能な暇人』」
「あーはいはい、よっぽど言い返したかったんだな 最後にレスした奴が勝ち派閥の人か?」
今となっては懐かしきSNS交流サイトでよく見かけた生態の人間 しかし 故郷を思い起こさせる人間との交流に 望郷の念は湧かず 胸に去来したのは 相手の否定とマウント取りでしか他者と会話できない者と遭遇してしまったという虚脱感だ
(天上人を問い詰めるか?いや、時間の無駄だな 安全圏から好き放題言うヤツの情報に精度は期待できない ならばやはり監獄を完全に制圧して亜人の解放を優先して動く!)
クラウチングスタートの如く両手を地につき 獣がそうするように 飛び掛かる体勢と呼吸を整える時間は
──与えられなかった
毒にも薬にもならない天上人の煽りと勝利宣言を読み上げるカッツァが最後に結んだ言葉は
「『もしかして何か言い返したかい?私は暇じゃなくて少し席を外していてね今見たから気づけなかったよまたダンマリ?逃げととるよ?それに気づいてないようだけど───生憎まだ詠唱された呪は霧散していない』」
その言葉を聞き、悠長に構えていた自分が失態を犯したことに気付いた
(今までのは俺の意識を逸らす時間稼ぎだったッ!!)
「天上人様の御言葉を聞かない不敬者がぁッ!!」
今まで全く声を張らなかったジックの狂を発したような絶叫と共に 上空に召喚されたU字型の棒が後方の壁に沿って多数 突き立った
「あの形…」
奇妙な形の金属棒 直感的に最悪な予感がし四つん這いの体勢から宙に逃れようと四肢に力を込めるが
「──ッ!?はぁ!?」
そこら中に倒れ伏していた筈の看守の骸に飛び付かれバランスを崩す
「【蓄積 共鳴 増幅】」
ジックが指揮棒を回すように振るうと
≪ィン…ィン…イ”ン”……!イ”ィ”ン”!!≫と金属が微振動を繰り返し次第に音が大きくなっていく
「やっぱり音叉かよッ!!」
俺の予想が当たっているなら あの音叉に蓄積されている音は
「【──反響】」
ジックが引き金となる言葉を放ち指揮棒を俺に向かって振り下ろすと
≪ヴィ”ギィ”ィ”ィィィッッ……≫
音叉が放つ金切り音が臨界点に達し
≪ドッッ!!!≫ ≪ドォッッッ!!!!!≫
爆音と衝撃が不連続して2度 音叉から放たれた音が 自身の加速で音の壁を超え 衝撃波を巻き起こす
「どアホッ!音速超えとかっ!ざっけてんのかッ!」
音叉群の位置は距離にして約10メートル後方 音が鼓膜を叩いた時には既に遅く手足に纏わり付く看守達ごと回避行動に専念するが 毒の影響で歪んでいた右の視界が更に滲み一手反応が遅れた
「づぅ”ぁっッ!?」
右手の甲に何かが触れた 否、なにか冷たい手に握られた感触がすると
「指が…違う、腕が動かねぇ……」
右手首から先の 感覚の一切合切が消失する
「現場に出ても来れないカス相手にこれって我ながら……マジか」
「『ざまあぁぁぁぁっ!www お前が使ってる異能の正体は割れてんだよ!魔術原本の写本のさらに偽典でガチ効きしててウケる事この上ないんですどぉぉっ!!!www』」
「まったく、好き放題ぬかしてくれるぜ……」
「『多少は溜飲が下がったよ さて、ここからはカッツァ キミにも向けての言葉だ』…? は!ははぁっ!このカッツァ=リーラ!全霊を持ちまして拝聴致します!」
カッツァは端末を掲げながら器用に頭を下げて続きの文を読み上げる
「『皆は拙い演技に騙されたようだが彼には人質が効く』…そ、そうなのですか!?…っと!『奴隷を解放して英雄に担がれるのが目的だろう?不利な状況に転じても未練がましく此処から撤退しないのが証拠 そこでカッツァ、キミの出番だ』」
「委細、承知しましたぞ!!吾輩の能力にて監獄内 全ての亜擬を葬って差し上げましょう」
最悪、そうとしか言えなかった 式は的外れの癖に肝心の答えだけは合っている
「馬鹿がッ!!精々無駄な労力を使うんだなっ」
「構いませんとも!そろそろ亜擬を総取り替えする時期だとも思っていたところでっす!全ては天上人様の御為に!!」
(駄目だ、妄信する天上人直々の御達しとあっちゃ俺の言う事なんざ聞かんか、どうすれば……!)
カッツァは再び端末を丁重に椅子へ据え置き 準備運動のつもりなのだろう 両手を組み合わせ グイグイと手首を回して解しながら己の能力の説明を始めた
「吾輩の能力【屠殺遊戯】は刻印を施したものを瞬時に抹殺する も・ち・ろ・ん!収監の際 全ての亜擬に刻印は施し済みですのっで!ここは文字通り血の海と化すでっしょう!!あー大変、モップと雑巾の手配をしておかねっば!」
鼻高々に能力の解説を終えたカッツァと正反対に俺の心持ちは最悪だった
(刻印したものを殺害だと?じゃああの時の首切りジェスチャーは看守への指示じゃなくそのまま執行だったってのか……!)
──どうする、どうする……?あの程度の動作で執行が可能?
この位置から飛び掛かっても間に合わない オマケに利き腕が動かないときた
右手に喰らいついた呪いは浸食をしている 最初は手 肘 今は二の腕付近まで感覚がない
ものの数分も経てば胴体にまで喰い込んでくるだろう
(そうなったらもう為す術は、無い)
自己治癒は可能だがこれほどの呪病を追い出すには身体を動かす全ての機能を治癒に費やさねばならない
カッツァが腕を上げた
(仮にこのまま全開でトバして防壁を突破しカッツァの首をへし折るまでに何人が殺される?いや何人の犠牲で済む?)
全てが上手くいった仮定でも残るのは半数…いや2割が精々だろうか
カッツァが親指を立てる
ここは治癒に専念して態勢を立て直すべきだ。
幸い 例の魔導書は燃え消えた 次の本を出して来ても目を通す前に読み手ごと焼き尽くせばいい
ここで俺が再起不能になれば今後救える人達が───
ここに降りてくる途中で優男に問われた言葉が突如 脳裏に浮かび上がった
『僕はただ、その…あ、貴方の理念を知りたくて!!』
(知るか!生まれも育ちも比較的平和な法治国家で凡人が理念なんか持つかよ!なぜ助けるのかって?そんなの俺が知りたいわ!助けたいの規模がデカくなりすぎてんだよ!イアとシャル、俺が関わった人達を死なせたくないってはずだったのに なんでこんなことになってんだ!?)
『どうして…どうしてッ!亜人達の側に立つんですか?』
(うるせぇな…誰かの味方をするのにそこまでの理由が必要なのか?死んじまうのは良くない事だろ!損じゃないか!だって…だって……)
──損?
≪ザザッ……≫
思考にノイズが走る
★クエストをクリア ★60秒以内にクエストをクリア ★1人も犠牲者を出さないでクリア
(あれ?)
それは 根底にあった ソシャゲーマーにとっての
───理由
★クエストをクリア ★60秒以内にクエストをクリア ☆1人も犠牲者を出さないでクリア
(………まさか、コレか?俺が犠牲を嫌う理由はコレしかないのか?正義でも博愛でも恩着せですらなくって自己満足?最高記録のための!?)
「…うぅ、くく……くぁはっ!ははっ!ハッハッハッハッハ!!………はぁ」
見つけてしまった自分の答えに対する自嘲が監獄内に轟いた
「認めたくないが しっくりくるのはコレしかない 被害なしの星を……落とさないため?はっ!我ながら最悪な答えだなオイ!」
「窮して、おかしくなられたのですかな?言っている意味を汲み取れませんが」
「これはな、お前らが天上ってとこのヤツにしかわからない理屈だよ。石がなにより大事 すり抜けが大嫌い 大切な記念日は自分の誕生日よりサービス開始半年とサービス本開始日…そうだな世界が回り始めた日とその半年後の日付のお祭りが大事 そこの天上人も同意してくれるさ、なあ?」
左手で端末を指差す 画面では文字が蠢いているが何を呟いているのかまでは見えなかった
「驕るな!お前を天上人様と同じなどと!誰が認めるかぁァ!!」
「まぁたしかに、こんな考えに行き着くのは俺しか居ないかもな」
ジックの侮蔑を含んだ怒声にも あっけなく同意する あまりに歪な答えに辿り着いたせいで いっそ開き直って肩の荷が下りたくらいだ
先程よりも幾分醒めた思考で次に打たなければいけない手を考える
カッツァの手は既に自身の首元にまで伸びている
「大勢を一斉に能力の対象にするための刻印……俺には?」
自分の身体を見回しても刻印は付与されていない
「くそ!」
悪態をつき周囲を見ると出口大門の前で まだユンとソフィナが逃げずにその場に居た
「あいつら、いい加減に…ん?」
ソフィナを見て閃くものがあった 先程のカッツァのセリフ
『収監の際、全ての亜擬に刻印済みですのっで!』
「収監までいかなくてもアイツは拘束された…もしかしてっ!」
「おいッ!あ~…そ、そぉ~…そふぃな?だったな!こっちに来てくれ!!」
「はぁ!?な、なに言ってるの!馬鹿じゃないの!どうしてお前の言うことなんか」
ソフィナは目を険にして反発するが ある程度の予想はしていたので こちらも引き下がらない
「頼むッ!説明の時間がないッ!これに賭けるしかないんだッ!!早くッ!!!」
鬼気迫る声に察するものを感じてくれたのかソフィナは逡巡して
「あーーっ!!もうッ!!わかったわよ!!」
「ソフィナ!?」
後ろから手を伸ばすユンに軽く振り返ったソフィナは
「ごめん もう私達は目を付けられた 逃げる為に走るより立ち向かう為に走りたい だから、待っていて」
「ぁ………」
後ろで足を動かせないでいるユンに軽く拳を上げて こちらへ駆けてくる
「気安く呼びつけて!なにを企んでるのっ!?下らない理由だったら微塵斬り、に…ちょっと!!なにすんのよ!!」
動く左手だけでソフィナの腕や首などを検める
「どこかに刻印は無いか!?身体に違和感を感じるところはっ!?アイツの能力の目印にされている筈なんだ!」
「違和感って…左の胸が少し、痛むような」
「ここかッ!?」
「ぎゃあッ!!!助平!!ドアホッ!!」
衣服の襟首をずらすと 確かに左胸の上部 心臓に近い箇所に濃い紫の紋様が浮かんでいる
「見つけたッ!ちょっと悪いな!」
「ばッばばばばばばっかじゃないのッ!?信じた私も馬鹿だったしお前が一番馬鹿!!」
そのままの勢いで動かない右手を左手で持ち上げて ソフィナの紋様に宛がうと案の定ソフィナが騒ぐが 今は火急の事態 謝罪は後に回すしかない
「悪いと思ってるよ!恋人持ちにこんな事する非常識はわかってるが我慢してくれ!これしか思いつかん!」
「こ、恋人ってべ!別に!そんな!て、お前…本当になにをする気なの…?」
こちらに何か考えあっての事だと思い至ってくれたのかソフィナが抵抗をやめる
「殺させやしないよ、俺の独りよがりな理由の為にだけどな」
「ふ、ふふ!!ふ、不埒な!不敬な!不遜な!不潔な!天上人様の御前でなんというゲスな戯れをッ!レッツ!!万死!!」
俺の奇行に処刑の手を止めていたカッツァが顔を真っ赤にして憤慨し 無慈悲に立てた親指で首斬りのサインを実行した
「ふぅぅ”……」
今から自分がするべきことを想像し 全身に走る震えを深い呼吸と共に追い出す
──方法はこれしか思いつかなかった
「【千匹の漆黒き生贄の仔山羊】!!」
付与した刻印で死の呪いを発動するのなら その回路に割り込んで俺が全てを受けてしまえばいい どれほどの人数が収監されているかすらも把握できない状況では
「なんでも出来るんだろ!?この程度の無茶くらいっ!やってみせろよなァ!オレの身体ぁッ!!」
紋様に充てた手から衝撃が走り 喉が≪ビィ…≫と こじ開けられるようにゆっくりと裂け生温い液体が流れ落ちるのを感じた
「ぐぅ”……!」
次いで左胸に鋭い痛みが刺し込み激痛に身を屈めると 気道に突如として水が滾々と湧きだし呼吸を阻害する
「がばぁ”っ!!ぐ…ばあ”ぁ……」
血と水を吐きだそうと仮面のフェイスを開けても喉に魔術で象られたロープが絡みつき 水の逃げ場を閉ざす
「ちょっと!ねぇ!なにを…なにをしてんのよ!まさか!お前ッ!」
俺が何をしたのか理解したのか ソフィナが顔面を青くして俺の胸に手を当て首のロープを切ろうとする
首を斬り落とす、なんて言っていた奴が泣きそうな顔をして悪戦苦闘している姿が 少し可笑しくて朦朧とする意識の中で笑ってしまった
「えぇい!えぇい!何が起きている!!?看守!亜擬共はッ!?」
「い、異変は…確認できずッ!依然として全頭健在ですッ!!」
「なるほどぉ?泣かせる自己犠牲じゃありませんっか!!それならいいでしょう!全ての亜擬の死を肩代わりしてみせなっさい!!」
カッツァの宣言通り 全身に刺突打撃斬撃焦熱流水電撃重圧牽引 この世の痛みが全て身に降りかかったような永遠にも感じる数分だった
「か…はぁ…っ!!ぉ”…ぅ”ぐ」
刻印への呪殺の波が静まると膝から倒れ伏しそうになるが
「大丈夫なのっ!?生きてる!?あ…だめ!動かないで!傷…傷がっ!」
「無事ぃっ…か?はぁ”っ」
「私は大丈夫よっ!なんとも…なんともない…お前の……お陰、で」
「は、ははっ!がぁ”っ…ざまみ”ろ”ってんだ なにが天上人だっづの、が…はぁ”、な”ぁ?」
「喋らないで!喉の傷が深すぎる…血が止まらない……私の手じゃ足りない…っ!ユン!ユン!こっちへ!」
必死に止血を試みるソフィナがユンに呼びかけるがユンは尻もちをついて立ち上がれずにいた
元より当てにしていなかった俺は尚も止血の為に強く押し付けられるソフィナの手をそっと手で制し
「みぎ…う”でだげで受げる筈だっだのに…計算がぐる”った まだ効果が残っでるうちに…や”らな”きゃな”……」
左腕を驚愕した表情のカッツァに向け、手の平を翳し
「障壁の奥に”引っ込んでよ”うが俺に攻撃じてくれたがらな…捕捉したぞ」
「その手……まさか!やめっ」
「【悪意の応報】!!」
どんな障害物に身を隠そうとも どこまで逃げようとも 手の平を通して敵の位置が完全に追跡できる
己に攻撃したという結果に基づいて執拗に相手を狙い続ける執念の汚泥
「吾輩っ!吾輩が!ごぼっ!こんなぁところぉでぇぇぇ……うぶっ!死んでいいはずっが!ばはっ!なぁぁぁいぃぃぃ………」
カッツァの身体に黒い泡が弾けて拡がり やがて のたうちながら泥の塊に溶け消えた
「五月蠅い奴が片付いだ ごれで…やっど勝ちの目途がつき始めだ……な」
だが 息を吐く間もなく ≪ガコッ≫と重音が響き 続いて
「皆の者ォッ!!士気を落とすなッ!天上人様がご覧になられているのだ!これは獄長殿の弔い合戦であるッ!照準いいかッ!!………ってぇ!!」
「はァ”!?」
壁からせり出した砲塔が大口を開けてこちらを睨み 火を噴いた
ーーーーー
仮面の男を襲った壮絶な呪いの波濤に ユンは腰が抜け ソフィナの呼びかけにも立ち上がれぬままだった
そうして呆然としていると獄長の凄惨な死を目の当たりにし 涙を流し 帽子を脱ぎ哀悼を示す者も数人居たが その動揺を振り切って看守が慌ただしく対亜擬制圧兵器の運用を開始し
≪キュドッッッ≫
目の前で想い人諸共 仮面の男の姿が粉塵に消えた
轟音を立てて弾を発射した砲塔から煙が立ち上り 着弾地点が爆発で土を蹴立てて砂煙が晴れ止まぬ内に看守は油断なく次弾を装填し発射準備に入る
「照準そのままッ!!いいか!?いいかぁ!?………ってェ!!!」
再び発射指示の激が飛ぶと
≪ドォッッッ!!!!≫
空気を揺るがす号砲が轟いた
「……ッ」
思わず目を瞑ってしまった
跡形も、いや多少の形を留めてしまったソフィナを見たくなかったから
しかし いつまで経っても着弾音は聴こえなかった
あの弾速ならとっくに着弾しているはず、それとも耳がおかしくなってしまったのだろうか
恐る恐る目を開けると
初弾で巻き上がった砂煙が晴れ
1人の人影が現れた
多くの傷で今は辛うじてそれとわかる外套をはためかせた仮面の男と
足下には真っ二つに両断された砲弾が転がっている
───男の左手には一振りの刀が握られていた
ユンにはそれがなんなのか直感的に理解った
「───ソフィナ……」
ここまでお読みくださった貴方に感謝を 次回の更新をお待ち下されば幸いです
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