天との話しかた
「天上人、って・・・じゃあ貴方が?」
建造の淑女に聞いた話の中で登場した この世界を根幹から変えた人物
人類の信仰を一身に受け人類以外の種族を全て下等と分類し 新たな秩序を築いた現実世界の人間
モニターに表記された文字にイアが驚きを隠せないでいるとグイ!と後髪を強く捻り上げられる
「キャアッ!い、痛・・ッ!!ヤっ!やめて下さい!」
イアの背後には先程まで茫洋とキセルを燻らせていた女が顔を怒らせてイアの髪をギリギリと引っ張る
「小便臭い小娘がぁッ!天上人様だろぉおがぁあ!!しかも貴方だとぉ!?軽々しく呼びつけているんじゃあないよッ!!!」
「う、あぁあ・・・イタいッ!!」
激怒する女に一方的に髪を掴まれ頭を揺さぶられる 体勢的にも力でも抵抗が出来ないでいるとカタカタとタイピング音が鳴りモニターの文字が更新される
『構わない 彼女は特別な存在だからね 慣習を知らなかったんだ 赦してあげなさい。』
モニターに表示された文字を見ると女は弾くようにイアから手を離して直立し
「なんて寛大な御心でしょう!感涙を流す許可をどうか私に!」
『いいよ』
「あぁ、感謝いたします!天上人様!」
女はオイオイと胸元から取り出したハンカチを目元に添え泣き声を発する ハンカチで拭いきれなかった涙が頬を伝って鼻水を啜っている事から天上人に媚びる為のおべっかではなく心底から号泣しているようだ
『さぁ 神子も慣れないだろうから今、この場では言葉遣いについては無礼講としよう いいね?』
「なんという懐の深きご裁量でしょう!このウィズレー・ソクマアバ、全精神力を費やして小娘の不敬を赦すよう努めます!」
『うん さて、待たせたね 階の底にて現人招きし扉の神子』
「扉・・・を知っているという事は貴方は本当に・・」
貴方呼びに再び隣で憤怒を浮かべる女、ウィズレーだが天上人直々の達しもあって今回は表情を変えるだけに止まった
『私が召喚ばれた時に扉の間で神子、キミを見かけました』
確かに、ダイスと行動を共にするまでイアはオブザーバーが≪ソーシャルゲームに時間、資金を費やして依存、傾倒している≫という基準で選定した人間を仮想世界群へと導く扉の間に居た
『扉の間で見かけた時は人形と見紛いましたが』
イアは消えたくないとの願いと裏腹にどう生きていけばいいのかがわからず人形のように過ごしていた以前の自分を思い出していた、だがその後の天上人の打った文字に困惑する
『驚いたものですよ 森を歩き闘技場艦で食べ歩く神子は活き活きとした人間になっていました』
「え・・・?」
モニターに表記された闘技場艦にイアの視線が釘付けになった あの闘技場艦は この世界に来る前の世界の舞台になっている独自の建造物のはずだ
「なんで・・・知っているんですか?」
『見ていましたから』
事も無げに、なにを当たり前のことを聞いているんだ?とでも言いたげにあっさりと表記された返答にイアの背筋が凍る
「見ていたって・・・でも前に居た世界とこの世界は隔絶されていて観測なんて」
『出来ます。自分が出来ないことを相手も出来なくて当然と考えるのは驕りだよ 改めたほうがいいです』
「・・・ぅ」
淡々とした文字の中に「こちらが絶対的に上」という意志が透けて見え、恐ろしさにイアは言葉を詰まらせるが天上人はそれを”身の程を弁えた”と認識したようで軽快に文字を続ける
『種明かしを少ししてあげるよ 私が授かった異能は【全界物流店】その名の通り全ての世界の商品を売買できる能力だ』
「全て・・・」
『そう この世界、そしてこの世界へ落ちて連動した世界に留まらず まだサ終していない世界、そして現実の世界の物も取り扱っている万能の商店さ』
『あらゆる世界の物が揃っているからね、ちょっとした垣根なんて無いも同然な観測装置だって手に入るんだ』
『日用品、食料に武装と薬品、その中でも世界の趨勢をも左右する逸品は私が選んだ信徒に授与し、なんと呼ばれていたかな?』
「僭越ながら私から説明を致したく!発言の許可を申請するお許しを!」
『うん』
「ありがとうございますっ!う”う”ん”ッ!!狩り、生産、取引、芸術など様々な活動で一定の成果を挙げた人類種に天上人様から賜る最高の栄誉の結晶!格別天空賜り物の頭文字を取った その名も格別天授物ですわ!!」
咳ばらいをしたウィズレーが紫煙で灼けた声で淀みなく天上人の発言の補足をする
『ありがとう ウィズリーくん』
「あぁ!身に余る光栄!法悦の極みです!」
両手を紅潮した頬にあて悶えるウィズリーを置いて イアは天上人に抱いていた疑問を投げる
「貴方の正体と異能はわかりました でも わ、私をここに攫った理由はなんですか!?なにか御用があるんですか!?は、早くあの人の ダイスさんの所に帰して下さいッ!!」
『ツレない態度だね神子 ずっとキミがこの世界に来るのを待ち侘びていた相手に対して』
「ま、待っていた・・?私を、ですか?」
『そうだとも 具体的にはキミの持つ転移の能力を、ね』
『キミの能力はプレイヤーに与えられたそれらと根本を違えている まさしく異能だ』
「そ、そんなことありません!世界を渡ること自体はプレイヤーの皆さんにも・・」
『たしかに隣接する世界を文字通り渡ることは、ね でも端から端へ行くも戻るも神出鬼没に飛び回ることを可能にする道具は私の店の品揃えにも 無い』
「私の力でだって自在には難しいです!それに世界を自由に行き来する手段を得て貴方の目的はなんなんですか!?」
『安心しなさい能力増幅器は既に用意してある 目的は まぁいいじゃないか そんな細かいことは キミは身を委ねればいいんだ』
「イヤです!貴方がこの世界で亜人の皆さんに何をしたのか知ってます!それに私はずっとダイスさんと一緒に居ます!居たいんです!他の誰の所にも行きませんッ!!!」
イアが食い下がるとモニターが逆光で不気味に光り
『私は いい と言ったはずだ そうだね?』
モニターに無機質な文字が羅列され終わると同時
「小娘ェ!あまり調子にのって天上人様の御言葉に異論を唱えているんじゃあないぞッ!!」
ウィズリーが我慢の限界とばかりに手首を閃かせ居合い抜きの要領で腰に巻いていた鞭を振るうと イアの首にぐるりと巻き付き絞めつける
「うっぐぅ・・!かハッ!!!」
『キミが懐疑的になるのは当然の事だろう 私はキミを気に入っていたんだけれど やっぱり、人形に自由意思は必要ないね』
「私は・・うぐっ!人形じゃ・・」
『構わないよ神子 キミが認めようがどうだろうが 私がキミを以前のただ可憐なだけの人形に戻してあげるよ キミの中の彼ごと心を消して、ね』
側面の壁が反転すると一面の巨大モニターが裏から顔を出す
そこに映し出されていたのは看守服を着た大勢の人間達が1人に群がっては吹き飛ばされ また飛び掛かっては燃やされ凍らされている地獄のような光景だった
看守達が取り囲む円の中心で奮戦しているのは イアが再会を焦がれる仮面の男の姿があった
「ぁ・・・あぁ・・・」
仮面の男の外套は遠目でも分かるほどズタズタになり 身体中に大口径のライフル弾が刺さったまま 首筋からはダクダクと鮮血が流れ落ちている
「ダイスさんッ!!ダイスさんッ!!かはッ・・・はなしてッ!!」
「ちっ・・首を絞められておいて大声出すんじゃないよ!喉笛が潰れちまってもいいのかい!」
「はァ”っ!がッ・・・ぐ、ぅぅ・・・」
イアは目視したダイスの凡その位置で転移を試みるが能力が応える事はなかった
「ふぅ”・・はぁ”・・・ど、して・・・?」
『私は神子の能力の増幅器を持っていると言ったろう 逆もまた然り』
「仰る通り!天上人様から私に下賜頂いた格別天授物はこの【竜ノ落としノ宮】外部からの認知を完全遮断する単独閉鎖領域!時間すら隔てる城から小娘の能力如きで抜け出せると思って?」
「そ、んな・・・ダイスさ・・・ん」
『そういう事だ じっくりとキミの拠り所が壊れる様を見物しようじゃないか一緒にね ウィズリーそろそろ彼女の拘束を緩めておくれ 心は構わないが身体を損傷させてはいけないよ』
「かしこまりましたわ!」
ウィズリーが手首をしならせるとイアから鞭が生き物のように離れた
「がはァッ!!はァ・・・はァ・・・ダイスさん・・・・」
「ふぅん」
息も絶え絶えのイアを満足そうに見下ろしモニターに目を移したウィズリーだったが 表記されたのは労いの言葉ではなく
『そう言えば 気になる報告があったね 葛籠に迷い込んだ場違いなる者たち』
≪大きな葛籠≫をモニタリングしているモニターの隅にワイプが表示拡大されると
「あの人達は・・・」
イアにとって見覚えがある顔が映し出される 村を出てほどなくして襲撃してきた男女二人組だ あのどさくさに乗じて自分が攫われてしまった事を思い出しイアの胸中に苦いものが込み上げる
『彼は・・剥奪者ですか こんな場面に居合わせるなんて つくづく運という物に見放されているね ・・・ん?』
「どうかなさいましたか!?あの者達がご不快ならばこの私めに御命じ頂ければすぐにでも抹殺して参りますわ!」
闖入者二人組に違和感を示す天上人にウィズリーは床に膝をつき指示を請うが
『頼もしいですね 大丈夫 駒として使いたくなったのさ これも何かの縁だ せっかくだから一役与えてみようか』
「傲慢な物の言い方ですね・・ 貴方が何を企もうとダイスさんは負けません!」
『策を提示する分 私は誠実だと自負しているよ 少なくとも他者に任せきりで自分は何もしないキミのようなお姫様タイプとは違ってね』
「わ、私・・わた、し、は・・・」
『全て見ていたと言ったろう? キミが彼に任せきりなのも そして、彼の異能の特徴も』
「・・・・え?」
『戦闘力型としては そこそこの能力を持っているようだけれど ここはゲームの世界 なににも侵されない完全無欠絶対無敵、なんてことはあり得ないのさ』
「なにを・・なにをするつもりですかっ!やめて下さい!ダイスさんをこれ以上」
『よくも言うね 彼を戦場に追いやって傷つくよう仕向けているのはキミじゃないか』
「ぁ・・・う・・で、でも」
イアにそんな自覚は無い、しかし無慈悲に突き付けられた事実を否定しきれず言葉が出てこなくなってしまった
『反論はないようだね キミは黙って観ていればいいんだよ いつものように、ね』
モニターに表示された文字にはたしかに打ち手の感情が込められていた 弱者をせせら笑う 悪意の感情が。
今回は少し短めです(当社比)
ここまでお読みくださった貴方に感謝を 次回の更新をお待ち下されば幸いです
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