チーム
電光掲示板に映る艦内見取り図を指してシャルが艦内の案内をしてくれる
「ここはねぇ、艦自体が巨大な闘技場になってるんだ」
「闘技場・・」
「そそ、詳しくはクラス別に分けられた4つの大きな闘技場があってぇ
FEDランクはアンダークラス、CBAのランクはミドルクラス、
SとSSランクがハイクラス」
シャルが少し背伸びし見取り図の上部を指差し
「そんで、最上位のSSSランクのレジェンドクラス
中でもレジェンドのトップランカー、闘技場の頂点はヴィクターと呼ばれてるの」
なんだか説明を聞くだけでウンザリする、アリーナ機能があるゲームは多々あるが
ランク2桁まで登り詰めた事も稀な自分にはアリーナが全ての世界と聞き
げっそりしてしまう
「ちな、今居るブロックはアンダークラスの最下層ね」
「あぁ、道理でなんというか」
「ボロっちぃっしょ?」
俺の思わず出た感想に「だべ?」と笑うシャル
そんなハッキリと・・・
「まぁ・・はい」
「闘技場に登録してランクが上がると上の区画に上がる許可が下りるし
いろーんな施設も利用できるんだよ」
闘って成り上がる、まさに闘技場だな
「で、さぁ~?キミ達これからどぉすんの?」
「どうするって・・・」
覗き込むようにこちらを見つめ訊かれる
「どっか行くとか、ここに来た目的とかあんの?」
「私たちの目的はバグ、先程シャルさんが倒してくれた靄を退治する事です」
「なる、そのバグってまだこの世界に居んだよね?」
「はい、まだ反応を感じます微弱ですが結構上の方に」
そう言えば気になっていた事があった
「シャルさんはこの倉庫にバグを退治しに来たんですか?」
バグが居るのが分かっているような口ぶりでバグを退治していたし
「そだよ、何処に湧いたか詳しい場所は分かんないけど
なーんかヤな感じがしたらあちこち駆け回って探すの」
「え!?この広い艦を!?」
「やー、はは・・いやアタシね、アンダーブロックから上に行く権限無いから
アンダーブロックの中だけでさっきみたいな事やってんの」
シャルは頬を掻きバツが悪そうに言った
「え!?シャルさんは色々とお詳しいから高ランクだと思ってました」
驚くイアの言葉に俺も頷き同意する
「えーとね、元はSランク帯のチームに在籍してたんだけど
アタシ闘技場から登録抹消されちゃってさぁ
再登録すんのにも最低でも2人での申請が無いと駄目!って受け付けてくれなくってねぇ」
たはは・・と力なく笑っている
「抹消って、一体なんで?」
「わかんないけど多分、変な事に気付き始めて
バグ?とかゆーのが認識始めた時とかだったかな」
システム外の存在になって世界から弾かれたのか・・・
「しかし登録には最低でも2人から、か・・・」
一応、頭数だけは揃っているがイアは戦闘に向いていない
俺自身も言わずもがな偉そうに言えるほどの実力は皆無だ
「あのさ!」
突如シャルさんにワシッと両手を掴まれ
「ダイスケさ、アタシと一緒にチームの登録してくんない!?
お願いッ!アタシもう一回上に戻って確かめたい事があんの!
それにバグってヤツを倒すのも協力したいし!」
確かにバグを探す為には闘技場でランクを上げ、上層に向かわなければならない
それに先刻のバグを一瞬で屠ったシャルの動きを思い出す
あの強さのレベルが闘技場にゴロゴロしてたら
俺1人だったら勝ち進むどころかぐしゃぐしゃにされてしまうのがオチだろう
協力を申し出てくれて有難いが・・・良いんだろうか?
同行するのなら、まだ大事な事を伝えていなかった
その後、自分達と一緒に行動を続けると完全なシステム外の存在になり
二度と世界に復帰出来なくなる可能性を伝えた
同時にバグとの遭遇を避け忘れる様に努める事で今の記憶と引き換えに
元の生活に戻れるという事も
シャルは静かに耳を傾けていたが
「そっか、そんな事になっちゃうんだ・・・」
少し沈んだ声で呟いた
これで協力は難しくなってしまったかもしれない
(でも、隠し事や騙して協力させるのはどうにもな・・・)
隣のイアに一言「ごめん」と伝える
何が言いたいか分かってくれたのだろう
イアは穏やかに微笑み
「良いんです、私、大輔さんのそういうところ、す」
「いいよ!」
「え?」
俯き考え込んでいたシャルが意を決したように声を上げた
「それでもいい、アタシどうしても上に戻って確かめたいことがあんの
それに、このまま危険を無視して元に戻っても多分アタシ嬉しくない。」
「でも」
続けようとして口元付近に人差し指をピッとつけられる
「いいの、あんがとね!」
(これ以上は何も言えないな・・・)
短いがきちんと考えて答えを出した事が瞳から感じられる
必要以上の確認は他者の決心を蔑ろにすると同義だ
軽く頷きシャルの意思を汲む事にした
隣でイアが目を剝いて俺の口元を見ていた・・・・怖かった
ーーーー
「ほい着いた!ここだよ~」
シャルに案内され薄暗い艦底の通路を進むと
酷く痛んだ看板を上部に無理やり打ち付けたコンテナハウスが鎮座していた
看板にはカウンターへ笑顔で手招きする人が描かれている
本来は新しい世界の第一歩となる象徴だろうに
劣化し傾いた看板が却って不安を煽る
「らっしゃせぇ、ご用件うけたまりぁやすぅ」
登録カウンターへ向かうと眠たげに半目を開けた
なんとも気怠げな職員がカウンター裏からムクっと起き上がり応対してくれる
「こんちはー!チーム登録に来ました!」
ローなテンションを吹っ飛ばすハイテンションでシャルが挨拶をかます
「えぇ~マジっすか・・つかお姉さん前にも来たッスよね・・
お一人様での新規登録は規約で出来ないんスけどぉ」
来訪者がシャルだとわかると眠たげに瞼を擦りながら
無理っスよぉと欠伸を混じりに答えるモサモサ頭の兄さんに
「ふっふっふ!アタシだって何度も同じ無茶を頼みには来ないもんね!
ってことで!どうだっ!」
侮るなかれ!と自信満々に笑うシャルが横に退き
後ろに控えていた俺達をお披露目する
手をひらひらさせながら「ジャジャーン」と言わんばかりだ
「えぇ・・ご新規さんがこんなにぃ?めずらしッスねぇ
数年ぶりッスよぉ・・・いやマジで」
恐らく驚いているのだろうがそうは感じられないテンションだ
「どうよどうよ?これならオッケっしょ?
この子がイアちゃんでこっちがダイスケね!」
「はぁ・・まぁいッスよぉ、お名前頂戴したんであとはサインスねぇ
御自身の出身地の文字でだいじょぶっスからぁ」
頭をもぞもぞ掻きながら用紙と羽ペンを用意してくれる
怠惰な印象だったが仕事はキッチリこなすタイプらしい
「はい、はい、はい・・んじゃこれで手続き終わりですんでぇ
出場登録の方は闘技場で行ってくださいぃ
あとこれどうぞぉ、それじゃお疲れさまでしたぁ、あぁ~」
職員さんは最後まで眠気が消えない半目のまま
大欠伸をしたと思ったらまたゴロリと横になり
カウンターの向こうへ消えてしまった
ーーーー
随分とあっさり受理されてしまった
登録所コンテナを後にし安堵の溜息を吐く
ゲームお約束の審査や試練など吹っ掛けられると身構えていたので拍子抜けだ
「これ何ですかね?」
イアと共に登録の際に渡されたカードをしげしげと眺める
「それね、ランクに応じたキャッシュが5時と17時に支給されるんだけど
そのカードを施設に提示すると照合して支払いとかに利用できるんだよ」
成る程、こりゃ便利だ
「今日は配布時間過ぎちゃってるからキャッシュ手に入らないね~
ハイクラス以上になると無料だけどアンダーやミドルクラスは宿泊施設の利用にキャッシュ要求されるし」
「じゃあ今日は・・・?」
「だぁいじょぶ!アタシの寝床があるから!」
フフン!と自信満々に胸を張ったシャルの後に続き
連れられて行ったのは機関室だった
ドアには見た事の無い文字だが末尾に『Ⅵ』の表記が見て取れた
(最低でも動力が6基あるのか!?どんだけデカいんだよこの船・・)
室内を覗いても決して狭くはない、大型の動力が明滅と蒸気を繰り返し稼働している
「たまに蒸気が『シューーッ!!』ってうるさいけどけっこう快適だよ~」
(確かに吹きっ晒しで震えて眠るよりはマシか・・・)
それに
「こんな所に入れる機会なんてまず無いから新鮮だなぁ」
「お?ダイスケは気に入ってくれたみたいじゃん☆
イアちゃんは?だいじょぶ?ヤじゃない?」
気遣うシャルに
「はい!私、お外とかで寝るの慣れてるので大丈夫です!」
イアが腕を掲げ、むん!と答える
「えぇ~苦労してんねぇ~、ダミだよ~あんま苦労させちゃ~☆」
ウリウリとわき腹を肘で突っついてくる
「だいじょぶです!私、丈夫ですから!」
「マ!?」
新天地での最初の夜は賑やかに更けていった。
ここまでお読みくださった貴方に感謝を