↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/11

5.教団での暮らし

 それから数日間、海里は聖方会の教団施設内で過ごした。自分はいつでも帰れるが、茉優のことが気掛かりだった。

 茉優と違い、海里には世話役が一日中傍に付いているわけではない。召喚翌日こそ、施設を案内してくれたが、後は朝晩と食事の時に、困っていることはないかその日の担当らしき人が訊いてくるくらいだ。ヴァイルは忙しいのか、聖女である茉優についているのか、あまり顔を合わせることはなかった。


 そもそも海里には、茉優のように聖女として果たすべき役割があるわけでもない。召喚された理由すら「巻き込まれた」と説明されているくらいなので、教団側としてもどう扱えばいいのか、いまひとつ決めかねているようだった。食事と寝る場所は用意されているものの、ずっと放っておくわけにもいかないらしく、時折「何か必要なものはありませんか」と訊かれる。そのたびに、海里も「特にありません」と答えるしかなかった。


 手持ち無沙汰になれば、施設内を歩いたり、教団関係者をつかまえて話を聞いたりする。国のことや聖方会のこと、街の様子や生活についてなど、質問をすれば丁寧に答えてくれる。

 そうして話を聞いているうちに、聖方会という組織についても少しずつ分かってきた。


 聖方会は、かつてこの世界に異世界より現れたという聖女を尊ぶ人々によって生まれた宗派で、アルネラ王国よりも長い歴史を持つという。聖女は人々を導き、数々の教えを残した存在として語り継がれており、その教えを受け継ぐことが聖方会の根幹となっているらしい。

 現在の聖方会は、この施設を本部として国内に広く信徒を持つ大きな組織となっている。王国の政治を行うわけではなく、教団関係者もまた王国の国民である。ただ、宗教に関することについては国家とは別に組織として動いており、長い歴史を持つこともあって、国内ではそれなりの存在感があるようだ。

 

 教団内の位は、法衣の襟の色で区別されている。白が一般の信徒で、灰、緑、紫と上位になるにつれて色が変わり、金は聖女を示す特別な色だという。中心となる教議会は紫襟以上の教団員で構成されており、それを束ねる代表者には銀の刺繍を加える決まりがあるらしい。

 そういえば、ヴァイルが着ていた法衣は、紫の襟に銀の刺繍が施されていた。召喚されたときに見た人々の襟も、それぞれ色が違っていた。あのときは気にする余裕もなかったが、誰がどの立場なのかは法衣を見ればある程度分かるということだ。


 時には書庫で過ごしたりもする。文字は読めないので人をつかまえて読んでもらったりするが、それはそれで気を遣うので、絵の多く入っているものを眺めていることが多い。夕食を済ませたあとはあいさつをして部屋に戻る。


 茉優とは何度か顔を合わせた。ただ、二人きりで話すことはない。顔を合わせれば軽く言葉を交わす程度で、常にネルや他の教団関係者が傍にいる。

 最初の頃こそ、茉優は見るからに緊張していた。突然知らない世界へ連れてこられたうえに、聖女としての役割まで求められているのだから、無理もない。それでも、数日も経つと少しずつ表情は落ち着いてきた。周囲から「聖女様」と呼ばれることにまだ戸惑っているようではあるが、生活そのものに困っている様子はなく、教団からもかなり丁重に扱われているようだった。


 もっとも、海里は完全にこちらにいるわけではない。人の気配がないのを確認しては、こっそり元の世界へ戻っている。

 ただ、長時間こちらを離れて不在を知られるわけにもいかない。自宅へ戻っても、できるのは携帯電話の着信を確認したり、ニュースをチェックしたりする程度だった。

 今のところ、茉優のことがニュースになった様子はない。


 一度、夜中に寝静まっているのを見計らって、二人が召喚された路地まで行ってみた。あの場所がその後どうなっているのか、一度見ておきたかったのだ。

 実際に行ってみると、そこには何もなかった。人が集まっているわけでも、何か騒ぎになっているわけでもない。うっすらと街灯に照らされた、どこにでもありそうな普通の路地だった。

 海里はそれを確認すると、そのまま通り過ぎて帰った。女子高生の失踪と自分が関係していると思われるのも困る。


 仕事については、土日に加えて有休を使わせてもらった。本当のことを言うわけにもいかないので、体調不良ということにしてある。幸い、急ぎの仕事もなかったため、今のところ問題にはなっていないようだ。こちらにいる間は携帯電話が使えないので、連絡がないか気になるたびに帰って確認する必要があった。


 そんな具合にして、数日が過ぎた。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや★の評価で応援してもらえると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。