7 断罪と、ためらい
「断罪ではありませんが……まずは殿下以外の方々から、事実認定をさせていただきます」
「事実認定って?」
「どのような罪を犯したかを、公式に認定する、ということです」
「ああなるほど! でも、誰かほかにいるの? あーオレの側近たちから? だから、巻き込まないように一人で来たつもりだったんだけど……」
と愚痴る殿下を無視して、わたしはテキパキと進めます。
我が家の警護隊が、事前の手はず通りササっと現れて、側近の無能三銃士とナントカ男爵令嬢を取り囲み。
監察官と執行官をしたがえた宰相――わたしの父――が進み出て来ます。
彼らは、この夜会に招待されていたのです。
我が侯爵家の派閥に属する方々なので、招待されていても不自然ではありません。
「あれ? メープル侯爵令嬢がするんじゃないの?」
「それでは私刑になってしまいます。我が国は法治国家なので、正規の手順で行います」
彼らが関わることで、この断罪は王家でも握りつぶしようもない公式な事実になります。
「そっか……物語は物語なんだなぁ」
監察官は認定された事実を読み上げます。
王太子殿下の側近3名は、虚言を弄し、虚偽の報告書を作り、王太子殿下の婚約者である侯爵令嬢を貶め冤罪をかけようと画策したという事実を認定。
しかもそれを、王太子殿下の了承もなく、進めたこと。
これらを各人の実家に通告し、違法行為に見合った処分を要求する。
違法行為に見合った処分とは、
廃嫡、各家の籍を抜いてからの追放。つまり平民落ちである。
さらに、侯爵令嬢の負った精神的苦痛に対する賠償の支払いである。
その払いは、実家でなく各人が支払うこと。
宣告を聞いていた3人のお顔は、青ざめるを通り越して真っ白になり。
「そんな! 私達はただ彼女がかわいそうで!」
「殿下助けてください!」
「殿下だって悪いんです! もっと強く言ってくだされば!」
「俺たちこの女にだまされたんです! 病気もちなんて知らなかったんです!」
「なによ! あたしは病気モチなんかじゃないわ! こんな不細工よりもカッコイイ王子様がちゃんと医者を手配してくれたんだから!」
罵り合い、責任をなすりつけあい、醜いありさまです。
見ていて気持ちの良いものではありません。
殿下は、なんとも言えない顔で4人を見ていらっしゃいます。
「……だから呼ばなかったのになぁ」
続けて監察官は、ナントカ男爵令嬢に対して、認定された事実を読み上げます。
ボウ男爵令嬢ジャンヌは、虚言を弄し、王太子殿下の婚約者である侯爵令嬢を貶め冤罪をかけようと画策したという事実を認定。
そして、それ以前にも王命によって結ばれたはずの婚姻を何組も破壊し、それを王太子殿下の権威を勝手に借りてその責任を逃れてきたこと。
さらに、王家と筆頭侯爵家の婚姻を破壊し、国家に騒乱をもたらそうとした。
しかもその対価として、第二王子殿下から金品と肉体関係を報酬として受け取り実行に及んだ。
「ええっ。弟のやつ、アレとカラダの関係まで……ないわー」
「……」
すでに証拠は固めてあります。
第二王子殿下は、わたしにねばっこい視線を注いでいた時、わたしともそうしている所を思い浮かべていたのでしょう。
ぞっとします。
わたしがそんなことを思っていた間にも、監察官殿の宣告は続いています。
このことを、ボウ男爵令嬢の実家に通告し、違法行為に見合った処分を要求する。
違法行為に見合った処分とは、
廃嫡、各家の籍を抜いてからの追放。つまり平民落ちである。
さらに、侯爵令嬢の負った精神的苦痛に対する賠償、並びに国の秩序を乱そうとした賠償、さらに今まで破壊して来た婚約への賠償も請求する。
その払いは、本人と実家が支払うこと。
宣告を聞かされた男爵令嬢は、真っ赤になって猿のようにわめきました。
「わ、わたしは、お金をもらって言われた通りしただけなのに! そうでなきゃ、こんなバカとアホとブサイクにすりよらないわ! わたしはただの道具よ! 道具に罪はないでしょ!」
キィキィわめく彼女を無視して、宣告は淡々と続きます。
監察官は、ここにはいない第二王子殿下に関して認定された事実を読み上げます。
第二王子殿下タローは、王太子殿下の婚約を破棄させ、王太子の地位を失わせることを画策し。
ボウ男爵令嬢を、金品と肉体関係をもって雇用し、王太子とその側近達に近づけさせ。
側近達を踏み台にして、王太子殿下に近づけさせ。
肉体関係を結ばせて、王太子殿下と筆頭侯爵家令嬢の婚約を破棄させようと画策した。
そしてその婚約破棄をもって、王太子殿下の地位を失わせ、自らが王太子になろうと画策した。
これは国家に対する反乱行為である。
このことを、ヤゲーロ王家に通告し、違法行為に見合った処分を要求する。
違法行為に見合った処分とは、
王家の籍からの廃嫡、追放、断種措置。
さらに、侯爵令嬢の負った精神的苦痛に対する賠償、並びに国の秩序を乱そうとした賠償を請求する。
その払いは、本人と王家が支払うこと。
支払い成立後、反乱罪による処刑。
王家はこの要求をのまざるを得ないでしょう。
王家は表面上だけは優秀だった第二王子を喪うことになり。
そして……愚か者として扱われて来た第一王子も喪うことになります。
王家に残った継承者の手駒は……王弟殿下だけです。
最後に。
王太子殿下に対しての、事実認定が残っています。
事実は明白です。
王太子殿下ジャガルは、王命である婚約を陛下の了承なく破棄。
これは王命を軽んじた行為である。
そして罰も明白です。
このことを、ヤゲーロ王家に通告し、違法行為に見合った処分を要求する。
違法行為に見合った処分とは、王家の籍からの廃嫡、追放である。
そこには当然、断種措置も含まれる。
さらに、侯爵令嬢の負った精神的苦痛に対する賠償、並びに国の秩序を乱そうとした賠償を請求する。
その払いは、本人と王家が支払うこと。
見苦しくわめきたてる4人は、警護隊に取り囲まれ連行されていきました。
静まり返った会場の中央に、わたしと殿下が残っています。
監察官殿の事実確認が始まれば、あとは一直線。
殿下は連行され、粛々と全ては進み、王家からの廃嫡と追放、断種と進んでいくでしょう。
筆頭侯爵家である我が家の怒りと、これ以上の威信の低下を避けたい王家は、速やかに執行するでしょう。
不意にわたしは気づきました。
罰が執行される前に、殿下と話せるのはこれが最後だと。
全てが計画通りに進み。当然の結果が来るだけ。
なのに今、わたしは……。
父は、監察官殿の肩に手を置き、何かをささやきました。
監察官殿は、うなずきました。
父はわたしを見ました。
どうする? と問うています。このまま続けるかと。
母は、わたしを見て、殿下を見て、わたしを見ました。
訊きたいことがあるなら、今、訊けと。
訊くなら今、この宙吊りになったような時間しかない。
弟は、どこか面白いものでも見物しているような顔です。
わたしが、躊躇っていることが、珍しいのでしょう。
ただ、それはからかっているだけではなくて……
母と同じ色が含まれているのです。
殿下の声で我に返りました。
「ぜんぶ用意してたんだぁ。見事だなぁ。次はオレの番だ!」
ここまで進んでも殿下は、ただただうれしそうでした。
「見事、ですか?」
「見事だからね。見事って言うしかないでしょ」
「……」
わたしは言葉を飲み込みました。
怖くは、ないんですか?
あなたは、王太子の地位を喪う。断種までされる。
いや、それはわかっていたでしょうから、いまさら怖くないのかもしれません。
でも、王太子の地位を喪うという事は。
わたしという婚約者も喪うということです。
婚約破棄から始まったのですから、当たり前といえば当たり前ですが……。
わたしを嫌っていたのなら、願ったりかなったりでしょう。
交流もせず、ほとんど会話もせず、お仕着せの贈り物を送ってくるばかり。
嫌いな婚約者への典型的な態度です。
ですが、殿下の言動からは、わたしを嫌っている様子が全くないのです。
しかも無関心ではなく、どちらかと言えば、わたしを高く評価している様子なのです。
それなのに、わたしに嫌がらせをしていたのも、また殿下なのです。
……それとも、あれは嫌がらせではなかったのでしょうか?
そんなはずがありません。腐ったハーブを送りつけて来るなんて、いやがらせでしかないはずです。
でも、なぜわたしに嫌がらせをしたのかが、わかりません。
どう訊けばいいのでしょうか。
こういうことは初めてです。
なぜか、胸がドキドキします。
自分がよくわかりません。
この人が、わたしの人生から消える。
どうでもいい、目障りでさえあったはずのこの人が消える。
それだけのことのはずなのに。
わたしは、ようやく口を開きました。
「殿下。ひとつ確認をしておきたいのですが?」
「ん、なに? ああ、賠償は払えると――」
「殿下はわたしのことをどう思っておいでだったのですか?」
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します。




