6 今夜は変な夜です。
「え、そうなの」
殿下は目を丸くして驚いていらっしゃいます。
失敗しました。
このことは、目の前の殿下を過去へ葬り、第二王子が王太子になってから公表して、第二王子も引きずりおろす計画だったのです。
事件は一度に起きるより、二度続けて起きたほうが印象に残りますから。
ですが、口に出してしまった以上仕方ありません。
順番が少々変わるだけです。
「……いわゆるハニートラップです」
殿下は、手までぶんぶんと振って、
「えー、いやいや。いくらなんでもそれはないでしょう」
「事実です。金銭のやり取りがあった証拠があります」
第二王子の側近たちの行動記録も、それに関する帳簿も入手済みです。
「キミがそう言うんなら事実なんだろうけど……弟がねえ……」
信頼していらっしゃったのかしら?
意外ですね。
「だってあの男爵令嬢、下品だし、頭悪すぎだし、魅力のかけらもないよ。アレでハニートラップとかムリムリ……」
あ、そっちの意外さなんですか。
「なるほど! わかった! 男相手なら誰かれかまわずするからか! 病気をばらまく罠ってことだね! オレを恥ずかしい下の病気にすれば、王太子から下ろせるってことか!」
そういう納得ですか……。
「いえ、そうではありません。殿下の好みとはかけ離れていらっしゃるのでしょうが。こういう女性が好きな殿方は多いのです」
「そうなんだ。病気を移されるのが好きな男とは……趣味が悪い人って多いんだね」
訂正しよう、と一瞬思いましたが。
会場のあちこちで顔をそむけたり、うつむいたりしてる人たちがいるようです。
ここは、その人たちに気まずくさせておきましょう。
「さすがー! キミはなんでも知ってるね!」
「なんでも、というわけではありませんが……」
「じゃあさ、もしかして。オレがここで婚約破棄をすることも知っていたとか!?」
「え、あ、まぁ……」
「おお! ナイス! じゃあさっさと済ましちゃおう。キミのことだからバッチリ用意してあるんでしょ?」
してはおりますが、こんな展開になるとは予想外すぎです。
「じゃあ、オレはとりあえず牢屋にいれてもらうよ! あーそこの警備の人。オレを牢屋に放り込んで。貴族牢がなければ、普通の牢屋でいいから。あと断種の用意もしておい――」
「殿下殿下。話は最後まできいてください」
王族の話を遮るなんて、貴族の令嬢としてはばかられることですが仕方ありません。
さっきからさんざん遮ってる気もしますが……。
「? だって用意してあるんでしょ? ほら、オレを断罪してよ。断罪だんざーい!」
なんですかこの方は。
自分の断罪にわくわくするとか、やっぱり変わった方です。
「もしかして、これからイケメンが出て来るの? そいつがオレを断罪するって筋書きか! 自分で最後までやらないっていうのがキミらしくないけど、様式美ってやつか!」
実は、イケメン候補はいました。
先月、婚約破棄を察知した帝国の第四皇子が接触して来てはいたのです。
長身で、褐色の肌、黒くつややかな髪、エキゾチックなまなざし。
自分の美貌をよく心得ている人間特有の尊大さと自信。
なんでも、小さい頃に、我が家に遊びに来て、わたしに一目ぼれして、ずっと見守っていたのだとか。
うちには、いろいろなお客様が来るので、わたしは全く覚えていませんが。
十数年に渡って、我が家の影が怪しい密偵を何人も始末してましたが、こいつが悪臭の発生源のひとつだったとは……。
当然、拒絶一択。
あの時の驚愕の顔……笑いをこらえるのに苦労したものです。
今夜、変装して、この会場にも潜り込もうとしていたようですが。
先程、不審者を始末したと報告がありましたから、もう悩まされることはないでしょう。
帝国の方でも、あの皇子をもてあましていたようですし。
わたしは溜息をついて、気を取り直し、
「断罪はします」
「イケメンは?」
「お・り・ま・せ・ん! しま――」
いけないです。
始末しましたと言いかけてしまいました。
「そもそも、婚約破棄されたからと言って、他国の人間に尻尾を振るとか、国を背負う貴族として無責任です」
「おお! かっこいい! やっぱりキミが王様になればいいのに!! 立派な王様になるよきっと!」
「……なりません」
臣下に王になれと扇動するのは、どうかと思います。
というか、扇動ならまだいいんです。
心の底から、純粋に目をキラキラさせて言わないでください。
ああ、今夜は変な夜です。
我が家が組んだ手順が、あちこち狂っています。
そのくせ、大筋では、計画通り進んでいるという……心がざわざわします。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




