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殿下は無能なので、婚約破棄すらまともにできない――と思っていたら様子がおかしい。  作者: マンムート


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30/32

30 わたしたちの平凡で素敵な約束。

たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。


誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。


完結までよろしくお願い致します




「ですが! ジャガルは、その、農夫になってからすごく、生き生きとしてて……なんか、前よりは、かっかっこうよくなっちゃうし……」


 そう言うと、彼はなぜか恥ずかしそうに、


「うーん。それは買い被りだよ。だって、オレ、農夫って向いてないもん……」


「え……」


 意外でした。


 あの婚約破棄の時も驚かされっぱなしでしたが、今日もそれに負けず劣らずです。


「だってさー。本当の農夫の人に比べたら、まだまだ、こんなのままごとだよ。自分の食い扶持を土から得るって大変だろうなって、つくづくわからされたもの。キミがさ、三日に一編、食料を届けてくれたから、畑仕事をしても食べ物に困らなかったわけで、年貢だってとられてないし、こんな農夫いないよ。偽農夫ってとこだね」


「……言われてみれば、そうですね」



 どこか自分を離れたところから見ている視点。


 こういうところは変わらないんですね。



 それでも元王太子が、イヤな顔ひとつせず農夫をやっていた、という時点で、大したものだと思うのですが……。



「そりゃ、一人ならなんとか飢え死にしないくらいには、なれるかもしれないけどさ。マリアと一緒になるのなら、やっぱり農夫じゃだめだよね」


「!」


 ジャガルは、わたしと一緒、というのを常に考えてくれていたんです。


 うれしい。


 胸がきゅうっと熱くなります。


「でもさ、オレよりもマリアの方が大変でしょ。王様になるんだから」


「……そうですよね」



 彼のことばかり考えてましたが。


 言われてみれば、そうなのです。




 王太子になるということは、父のあと、わたしが王になるということなのです。


 いきなり実感が胸に迫ってきました。



「しかも、王配は役に立たないときているし」


「ジャガルは役立たずじゃありません! ただ、実務的な能力に乏しいだけです!」


 あ。


 本人に自覚があるとはいえ、後ろは言う必要がないことでした……。


 ちゃんと常識がある、とか、地位とか立場で目が曇らない、とか、いつも客観的な視点があるとか、美点を言うべきでしょう!


 どうしてわたしは、こうなんでしょう……。



「……」



 彼は珍しく考え込んでます。


 自分が役に立ちそうもないことが、わたしの負担になると悩んでいるのでしょうか?


 そもそも、彼が婚約破棄をしたのだって、わたしの負担を増やさないためだったんですから。



「えっとね。これから、マリアがすごく呆れるようなこと言うけどいい?」


「……聞かないとわからないです」


 呆れる、という予告がついてるのが気になります。


「正直さ。オレって王様にはなれたと思うんだよ。なりたかったとかじゃなくてさ」


「ええっ」


 元王太子だった彼に対して失礼かもしれませんが……正直、意外でした。


「あーやっぱり。そういう顔すると、思った」


「……向いてないと思っているのかと」


「うん。向いていないとは思う。だけどさ。オレの父上って、あの人、王様に向いてたと思う?」


「あっ……」



 有能な方だったら、王太子の婚約者に政務を押し付けませんよね……。



「それでもさー。20年近く王様でいたわけで、あれ見て思ってたよ。万事お膳立てされてれば、オレでもなんとかなるって」


「……」



 考えてもみませんでした。


 ですが、歴史を振り返れば、あの程度の王は何人もいるのです。



 ヤゲーロ朝でも、無能な王は何人もいました。


 名君でも、とりたてて暗君でもなく、凡庸な王。何の功績もなく名前以外は何も思い出せない王が。


 ですが、長きにわたって王朝は続いていた。


 それは、父のように優秀な宰相や支える貴族や官僚がいたからです。



「だからさー。たぶん、なんとかなったと思うんだ」



 婚約破棄のあと、父は言っていました。


 ジャガルほど、傀儡に向いていた男はいないと。


 逆にそれは、傀儡なら王の務めができた、うまくやれた、ということですよね……。



「……父もそんなことを言っていました」



 今更ながら気づかされました。


 わたしは人の上に立つには、高い能力が必要だと思い込んでいました。


 そのうえその能力の基準を、両親や弟と比較して判断していたのです。



 もちろん、家族が優秀であることは自覚していました。


 ですが、他者への評価が辛すぎたことは間違いありません。



「こんなオレでも王になったら、それなりにやれたっぽいんだから、マリアなら大丈夫だよ」


「……気楽ですね」


 そう口では言いましたが、心がすこしだけ軽くなりました。


「マリアは真面目だから、こういう考え方は性に合わないだろうけどさ。オレの両親みたいになんでも任せるのは問題あるとしても、色々と他人に任せられるところはあるんじゃない?」


「……そうですね。言われてみれば」



 わたしは、王になったら、全てを見なければ、と考えていたのかもしれません。


 ですが、今のわたしだって、いろいろな人に見守られ支えられているのです。



 父、母、弟、侍女のアデル、愛馬のオルガ。


 他にも、侯爵家の多数の奉公人達、友人達……。



 そして目の前にいて気楽そうな人。


 わたしの愛しい人。



「ジャガル」


「ん?」


「もし、わたしが疲れているようだったら……休めって言ってください」


「? 言われなくても言うよ」


「夜は……ふっ、ふたりで……過ごしましょう」


「うわー。そういえばそうだ! 夫婦になったら夜は、マリアとふたりっきりなんだ……うわー。夫婦になるってすごいなぁ!」


「そして、毎朝……わたしはあなたのために、あなたはわたしのために、ハーブティを淹れましょう」


 これを守れてさえいれば、わたしは、全てを自分でやろうとはしていないはずです。


「もちろん! それと、これからは毎朝、前に言ったとおりいうよ!」


「?」


「うちの奥さん、さいこーって」


「!」



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