30 わたしたちの平凡で素敵な約束。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します
「ですが! ジャガルは、その、農夫になってからすごく、生き生きとしてて……なんか、前よりは、かっかっこうよくなっちゃうし……」
そう言うと、彼はなぜか恥ずかしそうに、
「うーん。それは買い被りだよ。だって、オレ、農夫って向いてないもん……」
「え……」
意外でした。
あの婚約破棄の時も驚かされっぱなしでしたが、今日もそれに負けず劣らずです。
「だってさー。本当の農夫の人に比べたら、まだまだ、こんなのままごとだよ。自分の食い扶持を土から得るって大変だろうなって、つくづくわからされたもの。キミがさ、三日に一編、食料を届けてくれたから、畑仕事をしても食べ物に困らなかったわけで、年貢だってとられてないし、こんな農夫いないよ。偽農夫ってとこだね」
「……言われてみれば、そうですね」
どこか自分を離れたところから見ている視点。
こういうところは変わらないんですね。
それでも元王太子が、イヤな顔ひとつせず農夫をやっていた、という時点で、大したものだと思うのですが……。
「そりゃ、一人ならなんとか飢え死にしないくらいには、なれるかもしれないけどさ。マリアと一緒になるのなら、やっぱり農夫じゃだめだよね」
「!」
ジャガルは、わたしと一緒、というのを常に考えてくれていたんです。
うれしい。
胸がきゅうっと熱くなります。
「でもさ、オレよりもマリアの方が大変でしょ。王様になるんだから」
「……そうですよね」
彼のことばかり考えてましたが。
言われてみれば、そうなのです。
王太子になるということは、父のあと、わたしが王になるということなのです。
いきなり実感が胸に迫ってきました。
「しかも、王配は役に立たないときているし」
「ジャガルは役立たずじゃありません! ただ、実務的な能力に乏しいだけです!」
あ。
本人に自覚があるとはいえ、後ろは言う必要がないことでした……。
ちゃんと常識がある、とか、地位とか立場で目が曇らない、とか、いつも客観的な視点があるとか、美点を言うべきでしょう!
どうしてわたしは、こうなんでしょう……。
「……」
彼は珍しく考え込んでます。
自分が役に立ちそうもないことが、わたしの負担になると悩んでいるのでしょうか?
そもそも、彼が婚約破棄をしたのだって、わたしの負担を増やさないためだったんですから。
「えっとね。これから、マリアがすごく呆れるようなこと言うけどいい?」
「……聞かないとわからないです」
呆れる、という予告がついてるのが気になります。
「正直さ。オレって王様にはなれたと思うんだよ。なりたかったとかじゃなくてさ」
「ええっ」
元王太子だった彼に対して失礼かもしれませんが……正直、意外でした。
「あーやっぱり。そういう顔すると、思った」
「……向いてないと思っているのかと」
「うん。向いていないとは思う。だけどさ。オレの父上って、あの人、王様に向いてたと思う?」
「あっ……」
有能な方だったら、王太子の婚約者に政務を押し付けませんよね……。
「それでもさー。20年近く王様でいたわけで、あれ見て思ってたよ。万事お膳立てされてれば、オレでもなんとかなるって」
「……」
考えてもみませんでした。
ですが、歴史を振り返れば、あの程度の王は何人もいるのです。
ヤゲーロ朝でも、無能な王は何人もいました。
名君でも、とりたてて暗君でもなく、凡庸な王。何の功績もなく名前以外は何も思い出せない王が。
ですが、長きにわたって王朝は続いていた。
それは、父のように優秀な宰相や支える貴族や官僚がいたからです。
「だからさー。たぶん、なんとかなったと思うんだ」
婚約破棄のあと、父は言っていました。
ジャガルほど、傀儡に向いていた男はいないと。
逆にそれは、傀儡なら王の務めができた、うまくやれた、ということですよね……。
「……父もそんなことを言っていました」
今更ながら気づかされました。
わたしは人の上に立つには、高い能力が必要だと思い込んでいました。
そのうえその能力の基準を、両親や弟と比較して判断していたのです。
もちろん、家族が優秀であることは自覚していました。
ですが、他者への評価が辛すぎたことは間違いありません。
「こんなオレでも王になったら、それなりにやれたっぽいんだから、マリアなら大丈夫だよ」
「……気楽ですね」
そう口では言いましたが、心がすこしだけ軽くなりました。
「マリアは真面目だから、こういう考え方は性に合わないだろうけどさ。オレの両親みたいになんでも任せるのは問題あるとしても、色々と他人に任せられるところはあるんじゃない?」
「……そうですね。言われてみれば」
わたしは、王になったら、全てを見なければ、と考えていたのかもしれません。
ですが、今のわたしだって、いろいろな人に見守られ支えられているのです。
父、母、弟、侍女のアデル、愛馬のオルガ。
他にも、侯爵家の多数の奉公人達、友人達……。
そして目の前にいて気楽そうな人。
わたしの愛しい人。
「ジャガル」
「ん?」
「もし、わたしが疲れているようだったら……休めって言ってください」
「? 言われなくても言うよ」
「夜は……ふっ、ふたりで……過ごしましょう」
「うわー。そういえばそうだ! 夫婦になったら夜は、マリアとふたりっきりなんだ……うわー。夫婦になるってすごいなぁ!」
「そして、毎朝……わたしはあなたのために、あなたはわたしのために、ハーブティを淹れましょう」
これを守れてさえいれば、わたしは、全てを自分でやろうとはしていないはずです。
「もちろん! それと、これからは毎朝、前に言ったとおりいうよ!」
「?」
「うちの奥さん、さいこーって」
「!」




