28 曇天と晴天
彼の元へ愛馬を走らせながら、わたしは不安でした。
いえ、不安というよりは罪悪感でしょうか。
空はこの前とは打って変わって青く澄み、光に満ちているのに、心は黒雲が広がる曇天のようでした。
全てが予定通りに進んで決着したのです。
王弟を排除することも、父が新王朝を開くことも、最小限の犠牲で政権を継承することも。
わたしが王太子になることも。
ことことは、あの婚約破棄が行われた夜の前から、家族で決めていたことです。
わたしを抱いた時には、彼だってうすうす判っていたでしょう。
自分が王配にされることが。
……わかっていても、深く考えてはいなかったのかも。
あれは、目の前にいた女性のあられもない肢体に欲情しただけだったのでは?
彼は、事態が自分の手に負えなくなると……というか『これは自分の範囲を越えている』とみなすと、考えるのをやめる癖がありますから。
彼にとって、メープル朝という新しい現実は、わたしに押し付けられたようなものです。
彼は、今まで農民生活に実にうまくなじんでいました。
取り立て困った様子もなく、それどころか、王太子時代より、健康的でたくましく力強くさえなっていました。
身体は引き締まって……腕があんなにも熱くて太いなんて……
初めての夜、熱い腕に抱きしめられて、とても頼もしくて強かったのを思い出してしまいます。
「!」
わたしは頭を振って、あの夜の記憶を脳裏から追い払いました。
農夫として生き生きとやっていた彼が、王配になりたがるわけが……ありません。
かといって、わたしが、何もかも捨てて彼のもとへ飛び込んで……ということもできません。
世間には、貴族令嬢が全てを捨てて、愛する者と駆け落ちするというような物語があるようですが。
貴族の世界しか知らないわたしが、彼の支えになれるとは考えられません。
なにより、父が公式に発表した以上、今さら、なかったことにはできません。
森を抜け、ぱっと視界が開けて、草原が目の前に広がっても、わたしの心は迷いをかかえたままです。
ふたりでいるためには、これしか道はないのです。
わかってはいます。
でも、どう切り出せばいいでしょう。
彼は受け入れてくれるでしょう。、
だけど、あの『仕方がないなぁ……』みたいな顔で、受け入れるところを見せられるのは、辛いです。
彼にどう告げればいいか、決められず。
告げたらどう反応されるかが、怖いわたしに対して、
「ほら、見て! お風呂作ったんだよ風呂!」
なにも知らない彼は、ひどくほがらかでした。
「……」
「風呂って言っても、でっかい桶みたいなものだけどね! 水を入れて、焼き石を放り込んでお湯にするだけなんだけどさ! もちろん、壁も作るつもりだよ!」
「……」
「これでマリアと会う時はいつも清潔だよ! 川の水って濁ることあるしね!」
「……」
「そうだ! マリアも入れるよ! これから壁も作るから覗けないし! もちろん覗かないから!」
「……」
「なにかあった?」
「……わかりますよね。やっぱり……というかわかるの遅いです」
ダメです。わたし甘えてしまっています。
自分が言わないで、彼から話すきっかけを作ってもらおうと思ってしまったなんて……。
「まぁ、お茶でも飲みながら話そう!」
お互いに淹れあったハーブティを、いつものようにふたりで飲んでいる時。
わたしはようやく意を決して。
父が宣言したことを恐る恐る告げると。
「え。やったー! これで、マリアとオレは、キミのパパが宣言してくれたから親公認だね! いやー、勢いでマリアのこと抱いちゃったから、どうやってパパに許してもらおうかずっと悩んでたんだよね!」
「え……」
予想外すぎます。
こんな反応が返ってくるとは思ってもいませんでした。
すごく……すごくお気楽です。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




