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殿下は無能なので、婚約破棄すらまともにできない――と思っていたら様子がおかしい。  作者: マンムート


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27 ヤゲーロ朝の滅亡と、メープル朝の成立


 3日後。


 仕事を片付け、彼の元へ行く準備をしていたわたしへ、アガタが封書をもってきました。


「王都から特別仕立ての早馬で」


 それは一刻も早く知るべき情報ということです。


 わたしはその場で封をあけました。

 


 それはヤゲーロ王朝の終焉を告げる報せでした。


 わたしが彼と結ばれた夜。王都で事件が起こったのです。



 新王ヒルベルヒ4世は、わたしとの婚姻を画策していましたが、メープル侯爵家当主は慇懃な黙殺、実質的には拒絶といえる態度を取り続けておりました。


 新王は、貴族も議会も官僚も、我がメープル侯爵家の影響下に置かれ、孤立している現状を打開すべく、侯爵家の警備が手薄になっているという情報を掴み、この機会を生かすべく、勅命をもって近衛兵を動員。


 更に娘が嫁いでいる伯爵家の私兵も加え。


 深夜。わたしが大水に呑まれて、彼の必死の介抱を受けていた頃。


 メープル侯爵家のタウンハウスを襲撃したのです。



 タウンハウスに、伯爵家の私兵よりも先んじて到着した近衛兵達は、情報通り防備が手薄なタウンハウスを包囲。


 遅れて伯爵家の私兵が到着すると、近衛兵は私兵を攻撃しました。


 近衛兵は、『国王陛下の勅命を偽造して、その命と称して、筆頭侯爵家を襲撃を企んでいる集団がいる』という情報があったので警備についていただけだったのです。


 伯爵家の私兵は、一瞬で潰走しました。


 近衛は、私兵たちが伯爵家に逃げ込んだのを追って、そのまま邸内へ乱入。


 ()()()()そこにあった国王直々の手紙を押収。


 その内容は驚くべきものでした。


 国王は、筆頭侯爵家に反逆の冤罪をかぶせ、資産を全て没収。


 その領地を伯爵家に与えるという密約をしていたのです。


 更に、侯爵家の寄子や親族の領地や爵位も大幅に没収する予定だ、とも書かれていました。


 国王が筆頭侯爵家を勅命で襲撃させた、という恐るべき事実が明らかになりました。


 それは勅命さえ用いれば、どんな貴族でも亡き者に出来る、という宣言でもありました。



「……」


 諜報機関すら把握していなかった新王に、都合よくもたらされた情報。


 事前に偽勅を把握していた近衛。


 たまたま置かれていた手紙。


 ここに何者かが描いた絵図を読み解けなければ、メープル侯爵家の人間とはいえません。 



 翌早朝。


 ただちに議会が招集されました。


 ()()()()()()、議会に出席する資格をもつ貴族は全員王都に滞在中で、即日開催。


 国王自身による反乱という恐るべき陰謀が暴露され、議会は反国王一色。



 国王派の筆頭だったシラップ侯爵が提出した『ヒルベルヒ4世は、その地位にふさわしくない。退位すべし』という議題に全会一致で賛同。


 国王に対する弾劾決議が200年ぶりに成立。


 さらに議会は全会一致で、メープル侯爵ソビエスキを新国王に選出しました。



 新王選出の瞬間。


 ヤゲーロ朝は終り、メープル朝が始まったのです。



「……幸運なことにですか」


 近々、筆頭侯爵夫人である母が主催する大規模な夜会が開かれる予定でした。


 そのために、いえ、それを口実に、議会に出席権をもつ貴族たちは王都へ集まっていたのです。

 

 シラップ侯爵は、派閥としては対立していたものの、父とは互いの実力をよく知っている人物です。事前の打ち合わせがなくとも、あの方なら自主的に行動したでしょう。それを父も承知していたでしょう。



 議会の議決に従い、再任命された近衛兵総監が軍を動かし王宮を制圧。


 王宮を警備していた部隊が、そのまま制圧部隊になったので、血は一滴も流れませんでした。


 ヒルベルヒ4世並びにその家族は離宮に監禁。



 のちに『王の反乱』と呼ばれる事態は、わずか半日で終了。


 死者は伯爵家の私兵4名のみ。


 王朝の交代は、最小限の流血をもって成立したのです。 



 そして新王ソビエスキは、長女であるわたし――メープル・マリアを王太子にすることと。


 その将来の王配として、この数か月行方がしれなかったヤゲーロ・ジャガルを迎えることを宣言したのでした。


 それは古きものと新しきものの和解の象徴。


 新しき時代が始まる象徴でした。



「……お父様」


 わたしは胸が熱くなりました。


 父は、わたしがジャガルと結ばれることを、公的に宣言してくれたのです。


 そこにはもちろん政治があります。父が彼の資質を買ったという面もあるでしょう。


 ですが、父もまた、娘の感情に政治を添わせてくれたのです。




 そして後に知ったのですが、同じ日に。


 辺境の鉱山では、小さな事件が起こっていました。


 夫婦ともに体を売って命を繋いでいた元第二王子と元男爵令嬢が亡くなったのです。


 昼頃。男女を買いに来た男たちが、ふたりの死体を発見しました。


 わたしが目覚め、ジャガルとの夜を思い出していた頃でしょう。



 男の握っていた空っぽの安酒のびんが、女の頭を叩き割っていていたそうです。


 男は、血を吐いて倒れ。外傷はなく、肌は紫に染まっていました。毒の印です。



 女が安酒に毒をいれ、沸き上がる苦痛に毒殺されることを悟った男が、最後の気力を振り絞り、女を撲殺した、と処理されたそうです。


 古き血の惨めな結末。


 それは古き時代の終わりの象徴……にはなりませんでした。


 その凄惨な事件は、王都で起きた大事件の影に隠れて、注目されることもなく、人の口に登ることもほとんどなく、あっという間に忘れ去られたのでした。

 


たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。


誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。


完結までよろしくお願い致します

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