25 一生、忘れない夜
彼は、しばらく、ぽかん、と口を開けていました。
「ど、どういうこと……?」
「あのままでは、あなたは本当に断種されてしまうところでした。だから……うちで引き取ったんです」
「あ……」
彼は自分の下半身に視線を落とした。
「我が家の医師団は、あなたにそれっぽいことをしただけです。切り落とされてませんよね?」
第二王子の方は、容赦なく処置しましたが。
彼は、はぁ、とため息をつくと、
「……お酒を無理やり飲まされてもうろうとさせられていた間に……切らない痛くない方法で、種なしにされたのかと……」
「そんな方法はありません」
「参ったな……でも、どうしてそんなことを?」
「あなたなら都合のいい王配になるって、父と弟を説得したんです。王配にするなら、断種するわけにはいきませんよね」
「……そりゃそうだな」
「王配の件に関して言えば、あなたがわたしを突き放そうとした時に言ったことも、完全な間違いではなかったんです」
「やっぱりオレはお買い得だったわけだ……」
わたしは急に不安になりました。
彼が、最初から騙されていたんだ、と嫌な気持ちになってるんじゃないかって。
「ちがうんです! わたしは、あなたを知りたくて、だから、もっと知るためにこうしただけで、あれは、その、父と弟を説得する方便としての理屈で――あっ」
彼はいきなり覆いかぶさってきました。
思わず抗がってしまいますが、ここ数ヶ月の農作業で逞しくなった彼の力には抗えませんでした。
力づくで、腕も脚も大きく広げられて、今度こそ本当に全てを曝け出されてしまいました。
わたしに騙されたことで、すごく怒ってるんです。
せっかく両思いだとわかったのに、最後の最後で彼を怒らせて台無しに……。
形のないものは、信じるか信じないか。
もう彼は、わたしを信じてはくれない……。
哀しみがこみあげてきて、きゅうっと胸が締め付けられます。
「ご、ごめん。そんな顔しないで! わかってるから! あの時、オレを救うにはああするしかなかった」
「え……あ……」
今度は彼の方から、唇を奪われてしまいました。
ぶあつくて、やわらかくて、あたたかくて。
やっぱりきもちいいです。
「怒っているんじゃ……?」
「ええと……怒ってはいない、ただ、その、興奮しちゃって……」
「あ……」
彼の男の人のものは、すごく大きくなって、わたしを欲しがっていました。
「オレもキミも裸で、オレはキミが好きで、キミもオレが好きで、しかも、さんざんキミの裸を見せつけられて……しかもその……出来るって分かっちゃったら、思わず……」
感情はすでに、彼と結ばれることを受け入れていました。
このまま彼と結ばれてひとつになりたい、と。
そこへ筆頭侯爵家の令嬢として叩き込まれて来た、政治的に物事を考えるくせが待ったをかけてきます。
ですが政治的に見ても拒む理由は見当たりません。
確かに、結婚前に侯爵令嬢で未来の王太子が初めてを捧げるのは外聞のいいことではありません。
でも、知られなければいいのです。
それに、わたしの王配は目の前の彼以外、考えられません。
例え今夜孕んでしまったとしても……政治的安定のためと称して、今から一ヶ月以内くらいでさっさと結婚してしまえば問題ありません。その程度の妊娠期間の前後ならごまかせます。
あの婚約破棄と同じで、何もかも予定通りとはいかないものです。
そのことをわたしは、あの婚約破棄の夜に学びました。
これも、そういう事態のひとつなのです。
わたしは自分の感情に従いました。
「ジャガル……来てください」
自分でも驚くくらいあまい声でした。
「マリア……」
※ ※ ※ ※
その夜わたしと彼は結ばれました。
お屋敷の整えられたベッドの上ではなく、雨漏りのするあばらやのベッドで。
このしあわせな夜のことを、わたしは一生忘れないでしょう。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




