23 見つめ合う夜
わたしは思い切って寝返りを打ち、彼の方へ体ごと向きました。
すごく恥ずかしい。
全てを見られているとはいえ、その時には意識がありませんでした。
今は、恥ずかしすぎて反射的に乳房や股間は腕と手で隠してしまったとはいえ、自分で見せているのですから。
「! だ、だめだよ。キミは侯爵令嬢で――」
彼が慌てて反対へ向こうとするのを、
「見てください……は、恥ずかしいから、中途半端ですけど……見て……」
「でも……」
「見て、ください……ううん。ジャガル……あなただから見られてもいいんです……そして見せてください」
彼がわたしの全てを見たと知った時。
ただ恥ずかしかったのです。自分のみっともない体を見られたことが。
失望させたんじゃないかって、怖かった。
それでも、嫌悪感だけは湧きませんでした。
「わたしは……侯爵令嬢だから、あなたとこうしているわけじゃないんです……あの婚約破棄の日から……あなたのことが知りたくて、気になって……」
わたしも、彼の裸を初めて見た。
彼は太ももの半ばまで隠す短いズボンだけは穿いていたけど、それ以外は裸でした。
初めて見る男の人のほぼ全裸。
しかも、ズボンの股間部分が異様に盛り上がっていました。
目の前の女性に欲望をいだいていると、ああいう現象が起きると聞いたことがあります。
でも、恐れはありません。
彼の身体の全てが愛おしく見えました。
「そんな、あ、ありえない……」
彼はあえぐようにそう言いました。
「ありえないなら、今、ここにわたしはいません……ほんとうです……」
彼は、目をそらそうとして……結局、そらしませんでした。
「わたしの、その……あられもない姿を見て、失望しましたよね……?」
「そ、それは……良くは見ないようにしていたから……で、でも、オレのことをキミは! ブサイクだって思ってたんだろ」
彼は、追い詰められた子供が自棄になって叫ぶような声を出しました。
「そう思っていました……あの夜までは間違いなく……あの頃のわたしは、あなたを本当には見ようとしていなかった……でも今は」
あの夜から、全ては変わりました。
連行されて遠ざかる背中を見ていた時、すでに嫌悪はなくて。
振り向いて欲しかった。まだ話したかった。
もっと知りたかった。
ここへ来て、知れば知るほど……
「ジャガル、あなたは……そ、その……」
言おうとして、恥ずかしくなります。でも言います。
「なにもかもが好ましい、です」
言ってしまいました。
とても単純なことなのに、どうしてこんなにも言うのは大変なんでしょう。
裸を見られるより、見せるより、恥ずかしいです。
「! そんな……キミがそんなこと言うはずが」
「そうでなければ……泥水みたいだったハーブティを飲んだり、一緒に雑草を取ったり、屋根の修理をしたりしません……一緒に雑草をとった思い出のためだけに、泥水の中で芋を掘ったりだってしません……」
わたしはジャガルを見つめました。
元王太子でも、都合のいい王配候補でもなくて、彼のことを。
愛しい人のことを。
「う……それはキミが……侯爵令嬢で……すぐ王太子になる人で……オレが前の王朝の……」
彼の声は、勢いをなくして、しりすぼみになって消えました。
彼は、自分が言っていたことを信じてはいないのです。
「お願いです。そういうことは忘れてください。少なくともふたりだけの時は」
恥ずかしくてたまらなかったけど、乳房と脚の付け根を隠していた腕をどけました。
暗闇に慣れた彼の目には、全てが見えているはずです。
王宮にはもっと美しい女の人がいっぱいいました。比べられるかもしれない。それでも。
彼にならいいんです。
「ああ……」
彼の口から息が漏れました。
食い入るように、わたしを見ています。
嫌悪感は湧きません。
あの元第二王子になめまわすように見られていた時、あんなにも気持ち悪かったのに。
ただ、激しく熱い視線が、うれしい。
「きれい、だ」
「!」
その言葉は、わたしの胸へ素直に入りました。
ほんとうにそう感じてくれているのです!
「オレも……キミの……なにもかもが好ましい……でも、キミもそうだなんて……信じられな――」
彼は言葉を切って、言った。
「信じる……信じるよ」
わたしはようやくわかりました。
形のないものは、信じるか信じないかそれが全て。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




