21 あたたかさに包まれて
あたたかい……。
ぼんやり、そう思いました。
雨の音が聞こえます。
そうか……わたし、あの畑で、何かがぶつかってきて……
それで……気を失って……。
体中が痛いです……
でも、何かあたたかいものが、わたしの身体をさすってくれていて、そこからあたたかさがじんわりと広がっていきます。
自分のつめたい体が、ほんわりとあたたかくなってくるのを感じます。
あたたかさがくるのは、そこからだけではなくて。
わたしの背中から、がっしりとしたものが包み込んできて、それもまたあたたかいんです。
しばらく、そのあたたかさに身を任せていました。
さすられているうちに、全身がほんわりとあたたかくなってきます。
それと共にさする、というよりは触るという感じに変わって来て。
それは、とてもやさしくて、貴重な宝物を扱うならこんな触れ方をするのじゃないか……そういう感じなのです。
危険なものではない、と感じます。
ですが、だんだん不思議にもなってきました。
激しい雨音が聞こえ続けています。
でも、わたしの上には降って来ないのです。
わたしは、どこにいるんでしょう?
目を開けると、一瞬、目を開けていないんじゃないか、と思う闇でした。
ですが、徐々に目が慣れてきます。
不思議な光景でした。
わたしの目の前で、雨が降っているんです。
それなのに、壁があって棚があって家の中なのです。
近くから雨の音が聞こえてきていると思ったのは、部屋の上の方からしたたってくる水が床や家具に当たる音だったんです。
雨漏りだったんです。
暗闇の中で浮かび上がってきた部屋は、なにもかも濡れて滴っています。
外からは、容赦ない雨と風が叩きつけて来る音がして。
強い風が吹きつけて来ると、この空間のどこかがぎしぎしときしみます。
見たことのない部屋です。
状況がわかってきました。
わたしは、ベッドらしきものの上に横向きに寝ていて。
雨漏りが激しい部屋を見ているのです。
わたしの上から水が降って来ないのは、上にあたる部分の天井は雨漏りしていないから。
そして背中から、あたたかいものに抱きしめられて、身体をさすられているの――
体をさすられている……?
わたしは、ようやく異様さに気づきました。
身体をやさしくさすっているものは、感触からして人間の手です。
それが、肩やお腹や、お尻のふくらみや首筋を、さすっているのです。
しかも、直に触られているということは……
「!」
わたしは、裸なのです!
思わず声をあげそうになりましたが、なんとか声を噛み殺します。
あやしい手は、わたしの乳房や脚の付け根にこそ触れて来ませんが、いつでもそう出来る状態なのです。
息遣いも聞こえてきます。人間の息遣いです。
わたしは誰かに背後から抱きしめられ、身体を触られているのです。
しかも裸で。
手は大きく、少し武骨な感触です。
殿方である確率が高いです。
思わず身を固くすると、何か察知したのか手が止まりました。
だめ。気づいたのを悟られたら!
咄嗟にそう思って身を任せ続けると、相手の手は再び動き始めます。
誘拐というコトバが頭に浮かびました。
昨今の政治情勢からして、今のわたしは将来の王太子候補です。
わたしを手籠めにして孕ませ、無理やりにでも配偶者に収まろうと考えている人間がいてもおかしくありません。
実際、両親や弟の手紙によれば、婚約を申し込んで来る殿方は沢山いるとか。
ですが、もしそうだとすれば、わたしの身体はすでに穢されてしまっているはずです。
体のあちこちが痛いですが、処女を奪われた後で感じるという股間からの痛みは感じません。
腕や脚が縛られたり、枷をはめられている感触もありません。
もし相手が暴漢であれば、わたし裸にまでしておいて、ただやさしく触ってくるだけなんて、おかしいです。
それに、今、明るさからして外は夜です。
外は雨です。
部屋の中なのに、雨漏りだらけのひどい場所です。
だとすれば、この空間は、廃屋的な場所である可能性が高いです。
わたしが意識を失った時と天候と時間帯は同じ。
そして、すぐ側には、補修済みとはいえ、あばらやがありました。
そこには……わたしがこの数か月で知ろうとしてきた人が住んでいます。
部屋に見覚えがないのも道理で、一度も中には入れて貰ったことがないのだから当たり前です。
だとすれば、この手の主は、彼です。
呼ぼうとして、一瞬ためらいました。
わたしは、婚約者だったのに、彼の名を呼ぶ許可をとっていません。
その時、
「マリア……目を覚まして……お願いだよ……なんにも他には望まないから……目を覚まして……」
振り絞って出したようなる声と共に、腕がにゅっと伸びて来て、強く強く抱きしめられました。
その声はせつなく。
いつもと同じ声なのに、ぜんぜんちがっていて。
剥き出しになった彼がそこにいました。
ひとり暗闇に置き去りにされた男の子のような。
すがるように言われて、
「……大丈夫です……わたしは、大丈夫ですから……」
思わず返事をしていました。
「!」
息を呑むの音。
腕が慌てて引っ込められて、後ろで彼が縮こまるのを感じました。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




