第9話 一件落着?
「いやぁ、みんなここにいたんだ」
俺が新人たちと合流した頃には、すでに猫ちゃんは捕らえられていた。
場には、満身創痍の新人たち。
ヴァルムハンター退治後もしっかり動き回って対象を探していた。
へとへとに疲れ切っていたが、それは、元猫型魔物も同じだろう。
条件が同じであれば、数が多い方が勝つ。
俺がやったのは単純に誘導だけだ。
≪カノン≫で猫ちゃんを追いつつ、木や岩を破壊して道の整備。
方角を惑わすため、なるべく大回りに迂回させるよう、魔力感知で反応できるくらいの距離に≪カノン≫を先回りさせて置いておく。
さすがの速度だったが、それでもまだ魔族化したばかり。
なんとか俺の≪カノン≫でも対抗することができた。
魔力が欠乏している新人くんたちを雑魚魔物と勘違いして囮に使ってくれることを願いつつ、誘い込む……って流れにしようと思ったけど、リングが予想以上にがんばってくれた。
気配を隠して近づいてきてくれたおかげで、とても簡単に誘導することができた。
ほんと、リングさまさまだ。
これで、猫ちゃんが口を割らない限り、俺は何もやっていないことになるはず。
新人の一人が、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「クロハさん!どこ行ってたんですか!?」
「トイレトイレ~」
「ヴァルムハンターまで襲ってきたんですよ!?この緊急時にあなたは……!」
「でもなんとかなってるじゃん」
「もういいです!」
そう言い捨てて、新人は踵を返した。
心に余裕がないねぇ。
改めて現場を見る。
手前に一体のミノタウロスが地面に倒れており、奥に捕獲対象が捕らえられている。
このミノタウロスも俺がここまで誘導した個体だ。
彼女一人が何も理由なしにリングたちが追いかけられる距離にいたというのはあまりに不自然。
だから、何かの妨害にあってそこまで距離を稼げなかったという理由をでっちあげる、そのためだけに使った。
ミノタウロスじゃ少し弱いが、近くにいたのがこいつだけだった。妥協だ。
見る限り、少し訝しげにしているが、思惑通り新人たちは、対象はこいつが邪魔してくれたおかげで追いつけたと推測しているようだ。
さて、その捕獲対象であるが、人型が入るサイズでなおかつ持ち運びしやすいよう作り変えられた、虚無鉄製の檻の中ですやすやと眠っているように見える。
短時間で作ったにしては上等だ。
……しかし。
あれ、猫ちゃん。気絶してるフリしてるな。
俺は≪カノン≫を生成する。
構築されたのは、直径二ミリほどの小さな≪カノン≫。
もちろん、ちゃんとチャーミングな髑髏型だ。
それを彼女の口に向けて、そっと放つ。
「んぐっ!……」
これくらいなら、わざわざスキル名を唱える必要もない。
狙い通り、檻の隙間を通り、口元へと命中する。
小さく声を上げていたが、周囲は気づいていないようだ。
変なタイミングで騒がれたら面倒だからね。
とりあえず、後遺症はないように且つ、一日は目が覚めないように調整しておいた。
――しばらくは、本当に気絶してもらおう。
ふと、リングの方を見ると何かを考え込むように眉間に皴を寄せていた。
ちょっかいかけに行こっかな。
「やあやあリングくん!これで無事任務完了だね!初任務でこの成果!魔王軍からの評価も高くなるんじゃない?」
「……お目付け役が離れてどこに行っていたんですか?」
「だからトイレだって、なに?みんなして俺のトイレ事情につっこんで、連れションでも行きたかった?」
「…………」
「ごめんね。」
「……対象が運よく妨害に遭っていただけです……俺の実力だけでは失敗していました」
「そんなことないさ、君はよくやってるよ。結果よければすべてよしだ」
「…………」
全然納得いってない顔だな、これ。
新人なんだから素直に喜べばいいのに……。
「それに、対象は何かから逃げているように見えました。ミノタウロスなんかじゃなく、もっと強大な何かに……」
「いやいや、あのスピードに追い付ける何かなんてそんじゃそこらにいないでしょ」
「……それは、そうなんですが」
そして、やっぱりミノタウロスじゃだめだったっぽい。
ッチ、勘のいいガキは嫌いだよ。
「そもそも、俺が余計なことしなきゃ、猫型魔物捕獲!任務完了!で終わってただろうし、君の実力にケチなんてつけられないでしょ。」
「いや、あそこで進化したことには意味があります。あの場でのあなたの判断は……本当に癪だが正しい」
「そのこころは?」
「……特殊な個体は、なるべく討伐せず、捕獲して安全な状態で魔族化させたい。危険な存在であると同時に、魔族化したときに魔王軍への戦力に成り得る可能性がかなり高いからです。それが理由で、此度の任務、新人とはいえ十一人もの規模で行われた……と推測しています」
「ふむふむ。」
「それでも、捕らえた後の不確定要素はいくつもあります。管理するコストも考えなければならないし、捕獲後魔族に危害が与えられるかもしれない、それで魔族が一人でも死んだら最悪です。そんな不安がいつ進化するのかわからない状態で続く。これらの不確定要素が……対象が魔族化したことでほとんどなくなりました」
彼は魔族化が魔王軍に齎すメリットをしっかり理解しているようだ。
魔王軍の入軍条件の一つに、同じ魔王軍の仲間を殺害した者は入軍を禁ずるというルールがある。
それは、魔物の頃含めてだ。
仲間が魔物に殺されて、その瞬間その魔物は魔族に進化。
そいつは本能的に動いた結果そうなってしまっただけで可哀そうだが、こちら側からすれば、心情的にそんな奴仲間と認めたくないだろう。
「あの猫魔族のスピードは、魔王軍においても必ず役に立つ。だからこそ、魔族化した対象、逃すわけにはいかなかった。運に頼るわけにはいかなかった」
「いやいや、まず、もし任務失敗したとしても、お目付け役の俺の責任だし」
「俺は指示役でした。」
全く……いいのに、新人がそんなこと考えなくて。
最近の子はこんな考え方ばっかしてんのかねぇ。
「……まあ、確かに一度対象逃がしてるしね。納得がいかないのもわかる。でもね」
否定を繰り返しても、彼は納得しないだろう。
だが、彼は対象を逃した後も諦めず、最善を尽くしていた。
そのことは褒めてしかるべきだ。
「猫ちゃん探すため≪タンパー≫使って、魔力量隠したでしょ」
「……はい」
「最後のは偶然だと思うよ。でもね、君が≪タンパー≫を使用していなかったから、猫ちゃんが近づいてくることはなかったかもしれない」
他の新人たちは、単純に魔力を使い過ぎただけだった。
戦闘の連続で魔力量が底をつきかけ、外部から見てもそれがはっきりわかる状態になっていたのだ。
しかし、この男――リングだけは違う。
彼には、まだ十分な余力が残っていた。
だからこそ、悟ったのだろう。
ここで自分の魔力量が知られれば、猫型魔物と再び遭遇する確率は、限りなくゼロに近づく、と。
そこでリングは、魔力量を改竄するスキル≪タンパー≫を使用し、自身の魔力を意図的に隠した。
結果として、魔力感知を頼りにしていた猫型魔物は、彼らを下位種の魔物だと誤認することになる。
……まあ、偶然でもなんでもないし、誤認させた張本人は俺なんだけど。
ほんと、リングが≪タンパー≫使ってくれて助かったわ。
「舞い降りて来た幸運をしっかり利用したのはちゃんと君の実力だ。それは誇っていいと思うよ」
「……。」
リングは何も言わない。
すると、途中から俺とリングの会話を聞いていた新人たちがリングを庇うように、間に入ってくる。
「ちょっと!魔力も役職も態度も実績も、すべてにおいて拙いあなたがなんでそんな上から目線なんですか!」
「そうよ!そもそも肝心なときにどこにもいないで、どこほっつき歩ってたのよ!」
「や、厄介ごとしか持ち込んでいないあなたが、リングさんにとやかく言う資格なんてありません!」
どうやら、この任務を通してリングは、同期に相当慕われる存在になったらしい。
ああ、美しきかな、同期の絆。
そして、どうやら、この任務を通して俺は、新人に相当嫌われる存在になったらしい。
まあ、いつものことだね。
「まったくその通りだ。だからさ、君たちは俺みたいにならず、とっとと出世したほうがいいよ~」
ほいじゃあ。
背を向けてから、手を振りつつこの場を去る。
もう俺が必要な場面も終わったし、彼らの力もすべて見れた。
猫ちゃんも、ああなれば新人だけで魔王城まで運べるだろう。
怪訝そうな視線を向けるリングに気づかないふりをしながら、俺は一足先に帰路に着くのだった。
あー、報告書書くのめんどくせ。
※※※
〇全然覚えなくてもよい新人一覧
・リング・ラギャ 男 属性:土
レベル:72
・ナルシャ・ナシャ 女 属性:風
レベル:59 種別:風精霊
・ガリレオ・ザーナウス 男 属性:火
レベル:56 種別:レッドドラゴン
・ダルシア・コフィ 男 属性:水
レベル:55 種別:ケルピー
・ダンガ・ガルロッグ 男 属性:土
レベル:54 種別:ガーゴイル
・クレフィ・ミミンナ 女 属性:火
レベル:53 種別:火精霊
・ガリ・トルベルク 男 属性:水
レベル:52 種別:クラーケン
・ククル・ノヴァ 男 属性:風
レベル:52 種別:ペガサス
・カラッカ・カラライ 男 属性:闇
レベル:51 種別:ヴァンパイア
・ナナ・フィクシィー 女 属性:土
レベル:51 種別:アラクネ




