第5話 120点目指したいじゃんね?
現れた魔物はアリのような外見をしていたが、ただのアリではもちろんない。
全長五メートルほどの巨大なアリ型魔物が、三十体同時にうじゃうじゃとこちらに押し寄せてきた。
「”イビルアント”だね、ああいう昆虫型は巣を刺激すれば何体も出てくるから。それにしても、あれだけの数いると流石にキモいな。」
「言ってる場合ですか!どうすんですか、あれ!?」
?この子は何を言っているのだろう?
「え、俺はお目付け役だからどうにかするのは君らだけど?」
「クソやろおおおおおおおおおお!」
突如として現れた巨大なアリ型魔物、イビルアントの群れに、新人たちは一瞬だけ硬直した。
「……は?」
「おいおいおいおい……」
「なんでこんなのがめちゃくちゃ押し寄せて来るんだよ!?」
「わ、私見たわ!”あれ”が魔物の巣に向かってなんかしてたのを!」
戸惑いながらも硬直したのは一瞬、流石エリート、すぐさま陣形を整え魔物の襲撃に備える。
……”あれ”ってもしかして俺のこと?
現在、新人組+俺とイビルアントの群れで猫型魔物を挟みうちにしている構図である。
拘束班が猫型魔物を逃がさないよう、各員がそれぞれ円状になって待ち伏せをしていたということもあり、横から逃げられる心配もない。
突然、暴走状態でこちらに向かってくる魔物の群れに、猫型魔物も目を真ん丸くしている。
こっから対象が取れる行動といえば、こちら側から正面突破か、イビルアントの群れから正面突破、あとはまた跳躍して上から逃げるしかないと思うが……
「≪ランパード≫」
風属性を持つ新人の一人が上空で風の壁を張る。
留めることが難しい性質をもっている故、≪ランパード≫は風属性には不向きなスキルなのだが、この新人は上手く使いこなしているようだ。
そして、新たな魔物が現れても、標的からは目を逸らしていないなっと。
さて、これにより上への逃げ道がなくなった、猫ちゃんが取る手は……
「アリの方に向かった!逃がすな!」
新人組と比べて、イビルアントの群れを突破する方が優位と見たのであろう。
当然といえば当然だが、なるべく取ってほしくない手であった。
こちら側も、イビルアントの群れに突っ込んでいかなければならなくなってしまう。
ここからは乱戦だ。
新人くんたちが魔法スキルや、武技スキルで牽制したり、イビルアントがその巨大な顎で噛みつこうとしてきたり、猫型魔物がそのすべてを華麗に躱したり。
「≪カノン≫≪カノン≫≪カノン≫!くそ、止まらねぇ!」
「脚だ!脚の関節を狙え!前列のやつらを動けなくすりゃあ、後列も崩れる!」
「そんな精密な狙撃できえねぇよ!」
なんて会話をしつつも、すべての場面を危うげなく対処している新人たち。
近接が得意な者がイビルアントの脚関節を狙い、崩れたところに魔法弾を当てる。
今まで指示役に徹していたリングも、今は自分が前線に立った方がよいと判断したのか、乱戦に参戦している。
彼の戦いを見ると、イビルアントが猫型魔物に攻撃するよう誘導しつつ、致命傷になりそうな攻撃だけは防いでいるようだった。
そのうえ、邪魔なだけの相手は最小限の労力で始末をしている。
偶然(俺の故意)を利用して、対象の体力もしっかり削いでいるのだ。
経験も積んでないのにトラブル適性もあり……末恐ろしいな。
そんなこんなで魔物の数も減ってきて、戦いの終わりも見えてきた。
みんな息も絶え絶え、リングも汗を拭っている。
こちらの疲労も凄まじいが、それでも戦果は目に見えていた。
「な、なーご……」
「猫型魔物の機動力が落ちているぞ!」
華麗だった身のこなしが、今や見る影もない。
着地後の衝撃も殺せず、猫型魔物の前脚ががくりと崩れる。
「今だ!拘束班、前へ!」
リングの声に、新人たちが一斉に動く。
「≪ダムド≫」
「≪バインド≫」
「なあんっ!」
範囲攻撃魔法スキルの≪ダムド≫と、拘束武技スキル≪バインド≫。
さきほどまでなら軽々と躱していたであろうそれらを、猫型魔物は――避けきれなかった。
「――っ!」
攻撃魔法によって崩れた体勢に、縄がまるで生き物であるかのように猫型魔物に絡みつく。
今がチャンスと、弱った獲物を仕留めるべく、イビルアントが迫るが、
「≪パリィ≫」
リングが剣でその巨体を弾き飛ばす。
続けて、
「≪カノン≫」
土属性の≪カノン≫を自分の周りに十個ほど出現させ、残っているイビルアントに、一斉放射し、殲滅する。
ああー、片っ端からハチの巣になってるよ、アリなのに。
てか、もうあいつ一人でいいんじゃないかな……
「にゃーご!にゃーご!」
「標的確保しました!」
新人の一人が猫型魔物を抑えつける。
イビルアントの群れも全滅、猫型魔物も捕獲完了、これにて一件落着。
怪我人も、イビルアントとの交戦でかすり傷を負った者少々。
俺が余計なことをしてもこの結果、なかなかやるなぁ。
俺が関心していると、リングが怒りの表情を浮かべながらこちらに向かってくる。
最早、怒りマークが目に見える様相だ。
「結果的に標的を捕らえることができましたが……あなたがやったことは場を乱しただけです。本来であればもっとスムーズに事を運ぶことができました。」
「だろうね。」
「普通だったらあのタイプの魔物の巣をつついたら三十体じゃ済みません!今回は運がよかったのですが、悪かったら任務に支障があるところでしたよ!」
「そうだね。」
「そうだねって……もしや、ジョア様に言われて我々を試そうと……?」
「別に、ジョアちゃんは関係ないけど……やるならさ、120点目指したいじゃんね?」
「は?」
ほれ見てみい?と、捕らわれた猫型魔物の方を指さす。
あらかじめ準備されていた虚無鉄の籠へ押し込まれそうになり、必死に身をよじって抵抗していた。
だが、その力も次第に失われていく。
もはや、籠に閉じ込められるのは時間の問題だろう。
「あれがなんだって言うんです?特に異常は……」
「うーん、そろそろだとは思ったからあてがってみたけど、あとは運かな~。俺の経験則だと多分このくらいのタイミングで……」
その瞬間――
「ッ!」
「お?来た?」
「な、なんだ!?身体が光って……!」
猫型魔物の身体から、魔力が漏れ出す。
魔力の質も、さっきまでの魔物特有のものではない、洗練されたものへと変貌する。
身体が青白く発光し、その特徴的なシルエットがゆらりと歪む。
「まさか、あの光は!」
自分たちでは経験したことはあっても、他人のその場面に立ち寄ることは稀だ。
だからこそ、彼らはその可能性を微塵も考えつかない。
新人たちはその様を見ていることしかできず、その場で固唾を吞む。
「あの速度に、あの身のこなし、もうそろそろ到達点だったでしょ。」
青白い光が収まったとき、そこにいたのは、猫ではなかった。
地を支えていた四本の脚は人のそれへと伸び、先端には五本の指が明確に形を成している。
ずんぐりとした胴は引き締まり、全身を覆っていた毛は、まるで不要だったかのように消えていた。
猫特有の面影をわずかに残しながらも、その顔立ちは、確かに“人”のものだった。
「新たな仲間の誕生だ!みんなで祝おうぜ!」




