第34話 情報収集
前回のあらすじ。
リングの特訓を手伝った後、魔王様とばったり遭遇。
俺、クロハ・ラングレイは魔王様の前でポンコツを晒して、最大限の隠蔽スキルを発動してしまう。
その能力を買われ、特殊任務である人族の領地への潜入任務を魔王様直々に『お願い』されるのであった。
「どぼじでごうなっだあああああああ!」
「先輩うるさいです。俺のこと置いていったバチが当たったんだと思います」
「リングうるさい、うるさいリング」
「っつぅーか、なに?なんでてめぇごときが魔王様と話してんだよ、地獄に落ちろ」
「俺だって魔王様に認知されたくなかったわ!でも、仕方ないだろ、あの方の隠蔽スキル、俺でも見破れなかったんだから!流石魔王様、神!でも、そのせいでおもっきし恥さらしたわ!消えゆきたい……」
「それは……まぁ、同情するが」
結局あの後、俺が寮に帰ったのは日の出より後だった。
中ば放心状態だった俺は、あの場から数時間動くことができず、門番が出勤してきてようやく意識を取り戻したのだ。
寮に帰るころには、レンガも戻ってきており、特訓後放置した文句を言いに来たリングまでも俺の部屋に滞在していた。
「まぁ、人族の領地にはそのうち行きたいと思ってたんだけどね、約束もあるし」
「?」
「まぁ、やると決まったんだ、準備しなきゃ。ってことでリング、悪いけど特訓はしばらくレンガにつけてもらってね」
「そうですか……わかりました、魔王様から直々の特殊任務を課せられたのなら仕方がないですね」
「ん?浮かない顔だね?なんかあった?」
「実は……」
リングが俺に見せてきたのは、一つの手紙。
手に取って見て見ると……。
「ああ、第三階梯昇格試験ね」
「特訓後、ヴァルバットがこれを持ってきて目覚ましました」
「ほへーん」
「俺はまだ一年も魔王軍に所属していないんですよ!それに俺はまだ第五階梯、飛び級です!」
「そうだね、おめでとう」
「……先輩はなんでそんな驚いていないんですか?」
「だって知ってたし、知ってなくても妥当だなって思うし」
正直、リングの実力はもう第三階梯の魔族と比べて遜色ない。
魔族は実力主義、最初は不平不満もありそうだが、リングの実力を見た者なら第三階梯へ上がることに否定する者はいないだろう。
そもそも、リングは此度の人族との大戦において、犠牲者をゼロにした、魔族にとって最早英雄といって差し支えない存在。
余計な心配をしているのは当の本人一人だけだ。
「この第三階梯昇格試験の合格率は低い。こんな試験を控えているのに、先輩の特訓が受けられないとなると不安で……」
「んじゃ、はい」
「え……なんですか、これ?」
「リングの第三階梯昇格試験の内容」
「は!?」
俺が渡した紙には、リングの昇格試験の詳細が事細かく記載されている。
「第三階梯昇格試験の内容は毎回違う、内容は試験当日まで明かされないはず!それなのになぜ!?」
「盗み聞きしてきた」
「……はぁ、魔王様から直々に潜入捜査を頼まれるわけですね」
「せこいことやらせば、コイツの右に出る奴はいねぇよ」
リングが呆れたような、複雑そうな目で俺を見る。
ふふん、試験は始まる前から始まっているということなのだよ。
あと、レンガはうっさい。
「でも、内容をカンニングだなんて、反則しているようで気が引けます……」
「うん、まっとうだね。君みたいな考えの人材は組織にとって必須な存在だ。だから、これを使うかどうかは任せるよ」
念の為控えておいただけで、リングならカンニングしなくても合格できるだろう。
ただ、正攻法以外に嫌悪感を覚えるということは案外危険だ。
今回の場合は置いといて、戦場ではどんな卑怯な手だろうが襲ってくる、邪道を知らないと回避できない攻撃もあるだろう。
うん、これは意識改革が必要かな。
「ってことでレンガ、リングを任せたよ」
「うむ、任された……けどよぉ、もうおまえにスケープゴート必要なんか?魔王様に実力バレしたんだろ?」
「……今回の任務で成果を出し過ぎず、そのまま魔王様の記憶からエスケープできれば……ワンチャン……!」
「できるかぁ?ま、がんばるこったな」
「できなかったら、おまえも巻き込むから」
「テメッ!ぜってーやめろよ!」
「死なばもろとも!」
俺はムカつくクソ狼とのいつもの言い争いを終え、特別任務の準備をすることにする。
「人族の領地、か。何年ぶりだっけ?」
特別任務の詳細はまだ知らされていないため、いつから始まるかわからない。
それまで、できるだけのことはしておこうかな。
※※※
「以上がクロハ・ラングレイとリング・ラギャの情報です」
「助かった、感謝する」
「勿体なきお言葉です。しかし……リング・ラギャはともかく、そんな第六階梯の魔族の情報など、今更何に使うのです?」
「いや、少しな」
先ほど遭遇した魔族、クロハ・ラングレイを思い出す。
発言は少々……いや、かなり気色悪かったが、あの隠匿術は本物だ。
あれほどの隠匿術を見るのは長い時を生きた余でも初めてだった。
「ふむ、リング・ラギャは≪タンパー≫を使用可、か。それに、やつはクロハ・ラングレイと共に人族の交戦にあたったと」
「はい。ですが、クロハ・ラングレイは此度の戦でやったことといえば、コラン・サブジェ含む三人の魔族を安全な場所へ移したことのみとなっております。魔王様が情報を確認なさるほど、重要な人物ではないと思いますが……」
「……まあ、そうだな」
「……魔王様の崇高なお考えは私には測りかねます。ここにいては、魔王様のお邪魔になりますので、ここらでお暇させていただきます」
「まぁ待て、ジョアよ」
「はぁ、まだ何か?」
余と、相対している相手、四天王ジョア・ミリニスが怪訝そうな顔でこちらを振り返る。
この様子、クロハ・ラングレイについてこの紙っぺらに載っている情報以上のことを知っていそうだ。
「おまえは青の部隊の隊長だろ?おまえから見てこの二人はどんな人物だ?」
「はい、リング・ラギャはとても優秀な魔族です。才能だけなら、今の四天王より上かもしれません」
「ほう、おまえがそこまで言い切るとは本当に優秀な魔族なのであろうな。一度会ってみるのもよいかもしれぬな」
ジョア・ミリニスは莫大な魔力を自在に操ることができる、強大な魔族だ。
その、ジョアが言うのだから、リング・ラギャは相当なモノなのだろう。
「それで?クロハ・ラングレイは?」
「クロハ・ラングレイは…………はぁ」
長い長い溜めのあと、深い溜息を吐くジョア。
長い付き合いだが、こんな姿の彼女は滅多に見たことがなかった。
「クロハ・ラングレイはただの問題児です。第六階梯の木っ端悪魔ですよ」
「そ、そうか。なんか辛辣だな」
「ええ。奴のせいで、私の胃にいくつ穴が開きそうになったと、ああ、あのにやけ面思い出すだけでむしゃくしゃします……!」
今度は、先ほどまで読み上げていたクロハ・ラングレイの情報が載った紙をくしゃくしゃにして、怒声を上げるジョア。
この姿の彼女は滅多にどころか初めて見るな……。
「最近、リングがクロハと一緒にいる様子が見られます。悪影響受けなきゃいいのですが……」
「おまえは親か」
つい突っ込んでしまう、それほど彼のことを語る今の彼女は楽し気に話している。
そこに彼女は気づいていないだろう。
「まぁ、でも」
「?」
「魔王軍のことを第一に考えてはいると思います。奴は与えられた任務は、経緯はどうあれ、やり遂げるでしょう」
「なるほどな」
「あ、でも期待なんて絶対にしてはいけません。あれは、所詮第六階梯の貧弱悪魔ですからね。そもそも、やり遂げるといっても、変な成果ばっかり持ってくるんですよ、あいつ。それが特殊任務なんて……」
静まり返った執務室の中で、ぶつぶつと呟くジョアの言葉がやけに鮮明に響く。
確かに常人ならざる違和感があったが、彼女の評価を聞く限り、報告書通りのただの無能な木っ端悪魔というわけでもなさそうだ。
いや、むしろ——。
「……ふむ」
余は顎に手を当て、ジョアが絞り出すように語っていた”変な成果”という言葉を脳内で反芻する。
問題児、第六階梯の貧弱悪魔、しかし与えられた任務はなんだかんだでやり遂げる。
そのちぐはぐな評価こそが、あの男の底知れなさを示しているのではないか。
あの隠匿術の腕前を見れば、彼女が把握していない隠し玉の一つや二つ持っていても何ら不思議はないし、彼女の様子からは何故かその言葉とは裏腹にどこか信頼しているようにも感じる。
「リング・ラギャの第三階梯試験の内容だが、今からでも変えられるな?」
「え?は、はい……」
戸惑いの声を上げるジョア。
誰が見ても、”嫌な予感がする”と顔に書いてある彼女の表情を気にすることもなく、余は宣言する。
「クロハ・ラングレイと協力し、”不活性の喇叭なる人族武器の流通経路、並びに製造現場の破壊”、これをリング・ラギャの第三階梯昇格試験の内容とする!」




