第29話 無属性
その後、国王による、この世界における戦闘方法の説明は続いた。
その内容を簡単にまとめるとこうだ。
この世界には”レベル”や”魔力”、”スキル”という概念が存在するらしい。
まず、レベル。
この世界のレベルはゲームと違って、経験値を集めるとレベルが上がって強くなるのではなく、強くなると世界に認められてレベルが上がるらしい。
さらに、レベルは戦闘力だけでは測られず、その人物個人の成長を鑑みて、レベルという数字が与えられる。
例えば料理技術のみ高めたものでも高レベルの人物が存在するとのこと。
次に、魔力。
魔法スキルと、魔技スキルを使用する際に消費するエネルギーみたいなもの。
火・水・風・土・光・闇の六種類に分類される基本属性のいずれかの性質を持つが、後天的に派生属性などの特殊な属性へ変化することもあるらしい。
そしてなんと、勇者として召喚された僕たちは、例外として全員最初から派生属性を持っていると言い伝えられているそう。
流石にそういった特典はあるみたいだね。
最後に、スキル。
全ての生物は生まれてきてから三つのスキルを与えられ、そこからレベルが10上がる毎に、更に一つスキルが与えられるとのこと。
スキルには種類があり、魔法スキル、武技スキル、魔技スキルの三つに分類されるらしい。
魔力を自分の持っている属性に適したものに変換し、放つスキルが、”魔法スキル”。
自らの身体能力や、所持している武器の真価を発揮し、放つスキルが、”武技スキル”。
魔力を自らの身体に作用させて、様々な能力を得るスキルが、”魔技スキル”なんだそうだ。
レベルの仕組みだけはちょっと違うが、いよいよゲームじみてきたな。
これなら僕の知識も活かせるかもしれない。
その後、僕たちは軽く自己紹介を済ませ、次のステップに移る。
「それでは、勇者の諸君。この魔石に手を置いてくれ。これで、其方らの属性を調べる」
王様に命じられ、使用人みたいな人が持ってきたのは、特に加工もされていないような水色に透き通っている鉱物だった。
魔石というからには、魔力を帯びているのだろうが、もうちょっと水晶にするとかなんかあっただろ、無骨過ぎる。
「おい、魔石ってなんだ?」
「魔石とは、魔物や魔族を倒した時に得られる魔力とスキルを持つ特殊な石だ。倒した魔物によって所持しているスキルは異なる。魔石一つにつき、スキルも一つ。魔石に自身の魔力を込めると、回数制限はあるものの、そのスキルを使用することができるのだ。ちなみにこの魔石には、魔技スキルの≪サーチ≫が封じられている」
なるほど、倒した魔物によってということは、例えば炎属性のドラゴンとか倒したら、ドラゴンブレスとか魔石だけで放つことが可能なのだろうか?
「……俺から行こう」
まず、木崎が一番槍を引き受ける。
いや、こういう役回りしてくれる奴は今の日本じゃ貴重だからほんと助かるわ。
木崎が魔石に手を置いた瞬間、魔石は白金色に輝く。
凄まじい光量だ、前が見えない。
「これは……ふむ、ケンユーの属性は”剣”だな。見たこともない属性だ、土属性と光属性の派生のようだな」
「剣、か。俺にぴったりの属性だな」
どうやら木崎の属性はオンリーワン、アルシャリスが認知している限りではあるが、初めての属性のようだ。
流石木崎、もうおまえが主人公でいいよ。
木崎が魔石に触れた後、木崎一行もそれぞれ魔石に手を置く。
委員長が”氷”、轟が”嵐”、名森が”炎”だ。
皆見るからにとても強力な属性を授かっている。
そしていよいよ僕の番がやってきた。
世界を救うなんて冗談じゃないが、これでもゲーマーの端くれ。
実際に自分の能力がわかるのだ、わくわくしないわけがない。
期待を込めて魔石に手を置く。
僕の手が魔石に触れた瞬間、魔石は発光し、そして——。
「む?す、すまんショータよ。もう一度手を置いてくれんか?」
「?は、はい」
どうしたのだろう、何かイレギュラーでもあったのだろうか。
もしかして、木崎と同じ見たこともない属性だったとか。
うーん、それにしては王様の顔が困惑気味だ。
出鼻を挫かれた感はあるが、僕はもう一度魔石に手を置く。
またも光る魔石に、またも冷や汗を垂らす王様、いささか嫌な予感がする。
「う、うむ。ショータ。おぬしの属性は……」
「僕の属性は?」
「おぬしの属性は……”無”じゃ」
「……は?」
告げられた謎の属性に、僕は空の返事をするしかなかった。
※※※
「さて、これからのことを話そう。我が国は、其方らを勝手に召喚したのだ。安全を保障する義務がある。しかし、其方らには魔族を討ち滅ぼす為強くなってもらわねばならぬのも事実。更に、この世界の常識を学ぶ場も必要であろう。その全てを同時にこなすため、其方らにはアルシャリス軍の軍学校、王立アルシャリス軍学園に通ってもらう——」
その後も王様による説明を聞いていたが、なんか学校へ通うことになったことくらいしか覚えていない。
それもこれも、僕の授かった属性とスキルのせいだ。
僕の属性”無”。
これは属性が無いわけでも、魔力がないわけでもなく、無属性。
今までこんな属性を持っていた者は存在せず、何から派生した属性なのかもわからないのだそう。
なんだよ無って、意味わかんねぇ。
その場にいた兵士たちの目線が辛かった。
……はぁ、くよくよ悩んでも仕方がない。
配られた手札でどうにかするしかないか。
気持ちを切り替え、前を向く。
今は初期スキル三つの確認も含めて、全員訓練場にいた。
「≪カノン≫」
木崎が魔法を唱えると、複数の剣が彼の周りをコクピットのように浮遊する。
そして、木崎が「いけ!」と発すると、その剣は訓練場の的に一気に突き刺さった。
的は粉々になり、そのあまりの威力に、視察に来ていたアルシャリス兵士も啞然としている。
やはりこの威力は規格外のようだ。
「これが魔法……」
「ねぇ、剣勇くんは≪カノン≫の他に何のスキル授かったの?」
「ああ、俺は≪カノン≫と……≪ボーナスタイム≫に≪エクスカリバー≫の三つだな」
彼らの会話から、そんな話が聴こえる。
なに、その如何にも特別なスキル、うらやましい。
授かったスキルと、その効果は使っていなくても、なんとなく認知することができる。
理屈もよくわからないが、わかるものはわかるのだ、こう、頭に浮かんでくる感覚だ。
そして、俺の頭に浮かんでくる初期スキル三つはこうである。
≪カノン≫……魔弾を放つ魔法スキル
≪キック≫……蹴る、武技スキル
≪キック≫……蹴る、武技スキル
なにこれ?
なんでスキル重複してるの?しかも≪キック≫が!
そもそも≪キック≫ってスキルなの?効果説明雑すぎない!?
こんなスキルが頭に浮かんでくるのだ、現実逃避しても仕方ないだろう。
所持スキルにツッコミどころはいらないんだよなぁ。
「次、佐藤も撃ってみろよ、無属性の≪カノン≫ってどんなもんなんだか確かめておいた方がいいだろ?」
「う、うん、じゃあやってみるね。≪カノン≫!」
詠唱と同時に魔弾が出来上がる。
木崎は複数個出していたが、僕は一個で限界だった。
しかし、問題はそこじゃない。
僕の≪カノン≫の属性、これは——。
「え?」
「……水でできてるな」
僕の属性は水属性じゃないのに、水の魔球が浮かんでいた。
「な、なんで水?あっ!」
謎の現象に頭を悩ましていたら、的に飛ばす前に離散してしまった。
形を保つのも結構難しいな。
「なにやってんだよ、もう一回やってみようぜ!」
「わかった、≪カノン≫!…………え!?」
「なっ!属性が……変わった!?」
木崎の言う通り、僕はもう一度≪カノン≫を唱えた。
するとどうだろう、今回現れたのは火でできた魔球だった。
これってもしかして……
「≪カノン≫!≪カノン≫!≪カノン≫!」
唱える度に違う属性の≪カノン≫が現れる。
風に、土に、雷かこれ?
僕の実力が足りないのか、一度に形を保てる数は二個までだが、確実にいろいろな属性の≪カノン≫を創成できている。
無属性って、無色の魔力だからどんな属性にも変化できるのか!?
「佐藤すげぇじゃん!これ、相手の弱点に合わせた≪カノン≫で攻撃できんじゃね?」
確かに、もし木崎の言う通りのことができたら、僕の異世界生活も捨てたもんじゃないかも。
試しに火の魔球出ろ!と念じてみる。
しかし結果は残念、出力されたのは氷の魔球だった。
その後も何度か試したが、結果は伴わなかった。
「だめ、これ、完全にランダムみたい」
こんな見るからに欠陥してるバグ残しておくなよ、この世界の神様よ!
こんな簡単に見つかったんだ、多分この世界のスキル設定バグありまくりだろうよ。
「あー、でもさ、運が良ければジャイアントキリングできる力だと思うし、これから自由に切り替えできるようになるかもしれない。お互い頑張ろうぜ!」
爽やかに笑う木崎。
おまえは本当にいい奴だな。
でもな、ほら、後ろ見て。
おまえのハーレムがものすごい目つきで僕を睨んでるんだ。
その鈍感さだけ直しといて。
そんなことを考えていると——。
「……え?」
「あ、おい!佐藤!」
突然膝の力が抜け、その場に倒れる。
立つこともままならず、瞼も重い。
ああ、もしかしてこれ魔力の使い過ぎかもしれない。
魔法使い過ぎるとこうなるんだ……でも、木崎は僕の倍以上≪カノン≫出してたよね……。
やっぱ初期ステータスにめちゃくちゃ差があるじゃねぇか!
そんなことを思いながら、僕の意識は段々と遠のいていく。
こうして、僕の不安過ぎる異世界生活での一日目は幕を閉じたのであった。




