第24話 属性
「ん~、いざ自分の目で見るとすごい圧巻、凄まじい数の人族だね」
「レンガさん、こんなに強かったなんて……」
俺たちは、ようやく戦場に到着した。
今は二人して、リングが作った塹壕から顔だけひょっこり出して戦場の様子見をしている状態だ。
レンガがちゃんと暴れてくれたようで、リングの話に聞いていた盾やラッパが散乱しているのが見える。
お?何あれ、鐘みたいなのも転がってるな。
あれも多分人族の切り札の一つかな?
「コランも生きてそうだし、他二人もいる。けど、みんな重症だね、特にコランはほっときゃ死ぬな」
「っ!今すぐ助けに!」
「はいはい、ストップ~。俺たちじゃこの軍勢からあいつらを連れて逃げられないよ」
ある程度はレンガが片付けたようだったが、この数相手に俺たち二人が出て行ってもリンチに遭うだけだ。
そしてなにより——。
「何あの人族の女騎士。強すぎない?」
一人だけ別次元の魔力を持った存在に目を惹かれる。
威風堂々、その立ち振る舞いだけで強者だとわかる。
事実、レンガの速度にも付いて行っているようだし。
「たまにいるんだよね、ああいう、世界に祝福されたような強さ持ってる奴。あそこまでの人族は見たことないけど」
「どうしますか?一旦≪サーチ≫で分析して」
「いや、普通の方法じゃあ駄目だ」
あの分だと、変に≪サーチ≫をかけると逆探知される。
こういう場合は——。
「あれだけ強い魔力だと、あいつが触れたところに魔力の残滓が残る。その残滓を≪サーチ≫すれば、魔力の質がわかるし、逆探知はされない」
そう言いながら俺は地面に≪サーチ≫をかける。
旧境界線の歪な魔力も感じるが、あの女騎士の魔力の質の方が上だったため、容易に探知することができた。
強者に多いんだよね、魔力の残滓残して情報抜き取りやすい奴。
ちなみに、魔王様は莫大な魔力を一滴も自分から切り離さない、意味わかんない魔力制御をしている、かっこよすぎ。
「ふむ——光属性か、珍しいね。この感じ、全てが万能なタイプだ。スキルは魔法も魔技も武技も全てが高水準に揃ってそう。レベルも高い、100には届かないだろうけど、二桁後半はあるね」
「あいかわらずの解析力ですね、魔力残滓だけでここまでわかるとは……」
「多分だけど、防御より、攻撃と速度に重点を置いてるタイプ、魔力量が多いなら、このタイプの防御は武技よりまず魔法で何とかすることが多い。なら、俺のスキルもちゃんと効くかな?」
「前から思ってたんですけど、先輩の属性ってなんなんですか?基本属性ではなさそうですが」
基本属性。
火・水・風・土・光・闇。
以上六種類の属性いずれかを、この世界の生物は種族関係なく与えられる。
どの属性が割り振られるのは基本ランダムだが、海に住まう魔物の場合は水属性が多かったり、多少の規則性はある。
この属性によって、魔法スキル使用時に放つ物質が変わってくるのだ。
例えばリングの場合、土属性の為魔力が土や石等に変換される。
そして、稀に基本属性から後天的に違う属性へ変わる者が存在する。
変わる条件は様々だが、基本属性から派生したような属性に変化する。
その派生した属性を、派生属性という。
コランなんかは風から派生した雷属性だ。
「ん?聞きたい?教えてもいいけど、一つ条件があるかなー」
「条件?」
「うん。まあ、もうきいてもらうことは確定してるけどね」
「え」
「俺の属性は”毒”。水の派生属性だよ」
そう言って俺は指先に≪カノン≫を三つ出現させる。
透明、緑、紫と、それぞれ違う色の毒でできた≪カノン≫だ。
もちろんポップでチャーミングな髑髏型で、今回はなんと表情もそれぞれ変えたぞ!
「透明な毒は生物に害を与える毒、緑色の毒は物体を融解する毒、紫色の毒は魔力を融解する毒。俺はこの三種類を自由に選んで魔法に組み込むことができる」
「前回、強盗に使ったのは魔力を融解する毒ってことですね」
「うん、俺は基本的に魔法スキル中心の相手には勝てるよ」
これが俺の長生きの秘訣だ。
探知で相手を一方的に探り、俺自身は探知されても問題ない程度の量と質の魔力を維持する。
そして、勝てそうな相手だけ戦って、勝てなそうな相手からは逃げる。
必勝方法ないとこの世界では長生きできん。
「っていうか先輩、やっぱり魔王軍に虚偽の申請を——」
「よし、レンガが動いた。仕掛けるよ」
レンガが砂埃を上げ始めたので、それに合わせて俺は≪ミスト≫を発動する。
決して都合が悪いからとかではない、決して。
タイミングのせいだ。
さて、魔法スキル≪ミスト≫。
このスキルは水属性か、その派生属性のみが使用できる魔法スキルで、そのどちらかだったらほとんどが習得できる。
霧を発生させるだけの目くらまし用の魔法だが、俺が使うと一味違う。
紫色の毒を散布することによって、相手の魔力をじわじわ削る霧になるのだ。
今回もうまいこといったようで、あの女騎士と人族の軍、ほとんどの魔力を融解させた。
流石に女騎士の魔力は削り切れていないが、時間の問題だろう。
これは、俺とレンガがよく使用するコンボで、レンガが砂埃でカモフラージュすることによって、≪ミスト≫の存在を隠しながら相手の魔力を削る。
レンガは魔力ゼロだから無害といった寸法だ。
身体能力アホアホで回避盾性能が高いレンガだからこそ、成り立つ中々便利なコンボなのだ。
「よし、ここで追い打ちだ!やってやれ、リング!」
「はい!≪タイダルウェーブ≫!」
リングの広範囲魔法、これだけでもなかなかの威力だが、今回は工夫を凝らしてある。
今の今まで、リングには探知機の場所を探してもらっていた。
魔力で動いていないこの探知機に≪サーチ≫は効かないが、ここ旧境界線の地面は魔力がしみ込んでいる。
そんなところに、魔力のないものが埋まっていれば不自然だ。
逆説的に地中で魔力が感じられない場所は、空洞になっているか、探知機が埋まっているかのどちらかになる。
リングにはその場所目掛けて魔法を放ってもらった。
するとどうだろう?掘り起こされた探知機は、数秒後一斉に爆発した。
探知機は地中から姿を出すと、防衛機能で爆発するのはさっきので検証済み。
リングの魔法が人族の軍に襲い掛かり、それを防ごうと、想定通り女騎士が≪サンクチュアリ≫を展開する。
相手は光属性の万能型、光属性限定の超硬い障壁、≪サンクチュアリ≫を使うこともわかってた。
普通だったらこのスキルは厄介だが、俺の≪ミスト≫と、リングの≪タイダルウェーブ≫、そして、探知機の爆発。
≪サンクチュアリ≫は一撃必殺も防ぐ強力な防御魔法だが、継続的な攻撃にそこまで強くない。
ここまで物量で攻めることができれば、突破も可能だ。
ガシャァンッ!という音を立てながら≪サンクチュアリ≫は崩れる。
「よーし、≪サンクチュアリ≫破壊完了!」
それと同時にコランたちが、レンガによって投げ飛ばされてくる。
うん、俺はこれキャッチできん、リング任せた!
リングがわたわたコランたちを受け止めている間、俺は≪ミスト≫の展開に集中する。
このまま一気に≪ミスト≫で魔力を削れば、誰も傷つけずに撤退勧告ができるな。
そう思った矢先、問題が発生する。
「あっ!あいつまた砂埃サボってやがる。あんの、クソ舐めプ狼が!」
レンガの野郎は、あまり細かいことを気にしないタイプなので、こういったポカをよくやらかす。
いっぺんくたばれ。
まずい、何がまずいって?
この≪ミスト≫、別に威力があるわけじゃないから、まあまあの力で仰げばそれなりに霧散する。
それを気づかれる前になんとかしなきゃ。
「”血濡れの砂浜”、”絶望都市”、”無限暗夜”。魔族によって齎された災害は数知れない!ここで折れること、それは人類が敗北するということ!絶対に折れるわけにはいかぬのだ!」
「…………」
「クロハ先輩?」
「なに?」
「いや、なんでもないです」
女騎士は丁度よく演説してるし、今がチャンスだな。
「≪カノン≫」
俺は緑色の毒を生成し、女騎士の方向へ放つ。
直前までその存在を匂わせないように、レンガを視覚的な壁にする角度だ。
そして、レンガはそれを当たり前のように躱し、女騎士の目前まで飛来した。
チッ、別にレンガに当たってもよかったが。
流石、女騎士は直前に≪カノン≫の存在に気付き、一度目は躱される、しかし。
「ほいよっと」
——ジュッ。
「——ッ!」
「あ、惜しい」
俺の≪カノン≫は180度方向を変え、また剣に向かっていく。
二度目は躱しきれず、刀身を捉え、剣は溶けるような音とともに真っ二つに折れた。
誰も傷つけず、勝ちを捥ぎ取るには、武器破壊して、戦意を下げるのが一番楽だ。
女騎士は折れた剣の先を見つめ、茫然と立ち尽くす。
「わ、我が”聖剣アルシャリス”が……」
あ、そんな国名の名を冠する系の聖剣だったんだ、それ。
なんかごめん。
「魔力もない、剣も折れた。で、どうする?俺とまだやる?」
なんて、レンガがかっこつけながら降伏勧告をする。
おまえのミスで危ない橋渡ることになったというのに、なにかっこつけてんの。
まあ、それは置いといて、ここまで戦力を削いだのだ、そろそろ撤退してくれると助かるんだけど。
そう思ってから、女騎士の口から撤退宣言が出るのに時間は掛からなかった。




