第23話 人類最強VS魔王軍下っ端たち
「っち!まじかよ……!」
舐めていたわけではないが、まさか人族相手に足を止められるとは思っていなかった。
敵将が召喚魔法で召喚したこの人族。
身体能力、魔力ともに四天王にも引けを取らない、そんな匂いがする。
俺は自分の爪と拮抗している相手の剣の角度をずらし、重心が偏ったところを弾く。
「……なんだ貴様。魔力が一つも感じられん、本当に魔族か?」
「それはこっちも言いたいわ。おまえ、本当に人族か?」
ったく、姿がバレちまった。
人族に姿を見られるのはまあ最悪どうでもいいが、見られたことによってあの馬鹿悪魔に煽られることは許しがたい。
あの勝ち誇った顔を見るだけでムカついてくる。
「魔技もなしでこのスピードか……しかも、ただ速く動いているわけではない。一人一人の視線も考えて動いている。信じられんな」
「がんばって生きてきたからな」
「私はアルシャリス軍最高指揮官のミネルヴァ・アルシャリス。魔族よ、貴様も名乗るがよい!」
「んー、こちとら名乗る程のもんじゃないんでね。控えさせていただきますわ」
「ふん。やはり魔族、矜持も何もありはしないか」
それにしてもこの人族。
よく見ると、勇ましい故になかなか気づかなかったが絶世の美女ともいってよい容姿、凛々しく通る声、人族の盛り上がりからわかる人望、そして人族のものとは思えない戦闘力。
まるで御伽噺の英雄のようだ。
「そんで、ミネルヴァ様よぉ。俺は特に争いたいわけじゃないんだ。そこの転がってる奴ら回収したら何もせず去るからさぁ、今回は痛み分けってことでよくない?」
「何を言っている!こちらは勇猛果敢な兵士が幾人も殺された!魔族一匹殺せないようじゃあいつらに顔向けできん!」
「えー、死んでんだから、今頃幸せな天国でほのぼのしてるって」
「貴様ぁ!我が同胞を愚弄する気か!」
あー、違ったか。
今だに人族の死生観よくわかんねぇ。
天国行くの楽しみにしてんじゃねぇのかよ。
「ほ、ほら。見ての通り俺は誰も殺していない。武器を破壊しただけだ。最初から穏便に済ます気しかないんだよ」
「魔族の言うことは信じられん!貴様らの戯言に騙されて、何人の人族が凄惨な死を遂げたと思っている!」
「あー、まあ、進化したての魔族は嘘つきが多いからなぁ」
これは本当だ。
≪アライヴ≫によって情報を得たばかりの魔族はまず思う。
え?これって嘘ついたもん勝ちじゃね?って。
こればっかりは、世界の構造的に嘘が上手い奴が得をする世の中が悪いと思うが、これも人族と魔族が相容れない理由の一つだろう。
生まれたばかりの魔族に、”信用”を理解できる奴は少ない。
「話はここまでだ。魔族相手にここまで話に乗ってやったこと、感謝するがよい」
「俺には説得みたいなのは無理だなこりゃ。あいあい、寛大なお心に涙ちょちょ切れるよ」
とすると、俺の勝利条件は魔族三人の回収だが、ミネルヴァは俺の速さについてこれる。
他は有象無象ばかり、俺たちの戦いをただじっと見てるだけだが……。
ッチ!人族の武器破壊しまくれば、次の小競り合いまでの時間稼げると思って余裕こいた。
こんなんならミネルヴァ召喚される前に三人抱えて逃げればよかったわ。
なんて思っても後の祭りだ。
何が来ても対応できるよう構える。
「おまえ相手に手加減をする気はない!本気で行く!≪オーヴァーリミット≫!」
「あー、やっぱ使えるよなー、めんど」
魔技スキル≪オーヴァーリミット≫。
魔物はレベル50で≪アライヴ≫を習得するが、人族は≪アライヴ≫を習得できない。
その替わりとして、人族はレベル50で≪オーヴァーリミット≫のスキルを習得する。
使用後身体に強い負担がかかるが、一定の間身体能力を超強化する人族専用の強化スキルだ。
このスキル使った奴の鬼気迫る感じ怖くて嫌いなんだよな。
「はああああああああああ!」
「≪パリィ≫」
ミネルヴァは決死の覚悟で剣を俺に向かって振りかぶるが、俺はそれを武技で弾く。
おっも!これが人族の腕力かよ。
一度弾いただけではこいつは止まらない、何度も何度も剣が俺に襲いかかる。
それを俺は何度も何度も≪パリィ≫で防ぐ。
ただ力任せに振るっているかと思わせて、俺の爪は切れないと判断したのか、たまに俺の指も狙ってくるのが怖い。
「どうした!防戦一方では私に勝てんぞ!」
「だから俺は戦うつもりはないんだって」
俺は、わざと大げさに動いて砂埃を立てる。
視界を悪くするが、相手はものともせず、直感で俺の位置を正確に読み取ってくる。
「そんな小手先の技が通じるとでも思ったか!」
「…………」
それでも俺は更に激しく動き、土埃を立てる。
「なんのつもりだ!?こんなもの時間稼ぎにもならんぞ!」
「まぁ、そんな慌てなすんなって」
「……?増援でも待っているつもりか!強い魔族なら好都合!ここで屠る!≪グランスラッシュ≫!」
ミネルヴァの武技が俺の頬を掠め、そこから血がツゥーっと流れる。
≪オーヴァーリミット≫プラス上級武技スキルは流石にきつい、そろそろ効いてくれるといいのだが……
またも俺を斬ろうとミネルヴァは剣を振りかぶるが、ふと何かに気付いたようで、その動きを止める。
まったく、遅いっつーの。
「なんだ?私の魔力が……減っていく!?」
「どうした?体調不良か?」
顔色を悪くするミネルヴァ。
魔力がなくなったことで、≪オーヴァーリミット≫も解けたのだろう。
「しょうがねぇなー、体調不良の相手をするのは俺の武士道に反するからな、ここまでにしといてやるよ」
「黙れ!」
うわっ!普通に斬ってきやがった、あぶねーこの女。
「な、なんだこれは!?魔力が!」
「魔力が消えていく!?なんで!?返してよ!?」
「ミ、ミネルヴァ様ぁ!俺たちの魔力なくなっちまっただぁ」
人族の軍からも聞こえてくる悲壮的な声。
魔力とは所謂、場所を取らない兵器。
この世界の戦争は魔力で成り立っている。
それがなくなってしまえば、もう戦うことはできない、そう思う者も多いだろう。
まぁ、俺は魔力ないんだけど。
「皆まで……!貴様の仕業かぁ!」
「俺の仕業じゃないんだけど……切り札も壊した、魔力もない。引き際だろ?ほら、帰れよ。追わねぇからさ」
「くっ…………!」
決心が鈍る人族に、更なる追撃が襲い掛かる。
——≪タイダルウェーブ≫
その詠唱と共に、砂の津波が人族に向かっていく。
「この程度の魔法!≪サンクチュアリ≫!」
砂の津波は、ミネルヴァが剣を振ると同時に展開された巨大な光の壁に阻まれる……が、直後、爆発が光の壁を攻撃する。
「爆発!?探知機が地上に出たことで爆発を巻き起こしているのか……!」
へー、道中で見かけたあの装置、やっぱりあの装置爆発すんだな。
掘り上げとかなくて正解だったわ。
あわよくば魔族を葬ろうという魂胆で付けた機能だったろうに、逆に人族に牙を向くとは皮肉だな。
「≪サンクチュアリ≫の強度まで下がっている……!なんだというのだ!」
「ほらほらー、撤退しろよー」
「くそっ!総員!一旦下がれえええええ!」
「「「わああああああ!」」」
≪サンクチュアリ≫が砕ける前に人族の軍は撤退していく。
今がチャンスだな。
俺は素早く動いてコランと他の魔族二名を回収し、あいつらが待つ後方の方角へとまとめて放り投げた。
それと同時に、爆発する装置を避けるようにして迫り来る砂の波の一部に強烈な蹴りを叩き込む。
風圧で津波に穴を開け、その隙間を滑り込むようにしてやり過ごした。
≪サンクチュアリ≫は砕けたものの、≪タイダルウェーブ≫自体がいつの間にか弱まっていたこともあり、結果的に撤退する人族の兵たちに大きな被害は出なかった。
やがて砂の波が引き、土埃が晴れていく。
——だが、視界の悪さは変わらない。
むしろ、じっとりと肌を濡らす白い何かが視界を遮り始めていた。
あ、やべっ。
「これは……砂埃に紛れて霧、いや、≪ミスト≫の魔法か!?」
「砂埃さぼってたらバレちった」
やっちゃった。
またどやされちまう。
「魔力を消滅させる魔法……聞いたことがない、基本属性ではないな。そうか、この≪ミスト≫に触れたせいで≪サンクチュアリ≫も砂の波の力も弱まったのか」
ミネルヴァは忌々しげに周囲の濃霧を睨みつける。
すっかり魔力の光を失った聖剣を構え直し、ミネルヴァが鋭い視線を俺に戻す。
その呼吸は荒く、≪オーヴァーリミット≫の反動と魔力枯渇による疲労が色濃く滲んでいた。
「まだだ、まだ終わるわけにはいかぬ!」
絶体絶命な状況でも、絶対に諦めてなるものかと、人類最強の騎士の眼差しが俺を射抜く。
「”血濡れの砂浜”、”絶望都市”、”無限暗夜”。魔族によって齎された災害は数知れない!ここで折れること、それは人類が敗北するということ!絶対に折れるわけにはいかぬのだ!」
その美貌を苦痛に歪みさせながらも、それでも彼女は勇猛果敢に剣を構える。
自らを奮い立たせようと、必死に言葉を紡ぐ。
でも、そんな言葉、今は隙でしかない。
——ジュッ。
「——ッ!」
「あ、惜しい」
彼女の剣を狙って、”へんてこな骸骨型の液体”……あいつの≪カノン≫が飛来する。
察知して一回躱したものの、≪カノン≫は180度方向を変え、また剣に向かっていく。
その二度目は躱しきれず、刀身を捉え——剣は溶けるような音とともに真っ二つに折れた。
俺は小さく息を吐き、無傷の爪を軽く鳴らす。
「魔力もない、剣も折れた。で、どうする?俺とまだやる?」




