第21話 正体不明の爪痕
「いや、俺一人行っても無理でしょ」
リングの話を一通り聞いて断言する。
リングは俺を買い被り過ぎ。
今の話を聞く限り、コランが生きているかも怪しいし。
「でも、先輩ならなにか……!」
「一体何の話をしてますの?第三階梯である私が行くならまだしも、第六階梯のクロハさんが行ったところで何か変わるわけありませんわ」
「それは……」
うーん、俺は一人に不意打ちを当てることは得意だけど、一対多は苦手なんだよね。
多少魔力量誤魔化してはいるけど、誤魔化さなくても結局凡人に毛が生えた程度だし。
「まぁでも、できることは多分ある。ちなみに君のことだ、持ってるよね、現物」
「はい。これが、不活性の喇叭の欠片です」
「乱戦の中拾ってきたんですの!?やりますわね、貴方」
「ふーん、見たところ普通の金属に見えるね」
やっぱりしっかり拾っていたか、こういう抜け目なさは流石だ。
さて、材質に何か特別なところはない……っていうことは、”音”自体に何かあるって感じかな。
「これなら多少はやりようがあるかな。ってことで、はい、ローナちゃん」
「え?な、なんですの?いきなりラッパの欠片渡してきて……」
「これ、ローナちゃんが魔王軍に持ってって。あと、今聞いた話の報告もヨロ!」
「な、なんでそんな雑務私がこなさねばなりませんの!?どう考えてもそれは貴方がやって、私は戦場に……」
なんでって、俺の戦闘ローナちゃんに見られたくないからだよ。
なんて正直に話すつもりはないので、どうにか説得を試みる。
「これは負け戦だよ。これ以上貴重な第三階梯を減らすわけにはいかない。それに比べ、俺は第六階梯、減っても何も問題なし!」
「そんな屁理屈通りませんわ!だったらどっちも行かない方がいいに決まってます!」
「ちなみに、今回の班の指示役俺だから」
「は?」
「ほら、これ証書」
「はぁ!?」
なかなか折れないローナちゃんにペラペラと証書を見せびらかす。
どう見ても正式な証書に驚きが隠せない様子だ。
「ちょっとジョアちゃんに頼んで、今回の任務だけ指示役にしてもらったんだよね~、古参特権ってやつ?」
「ず、ずるいですわ!そんなこと許されませんわよ!」
そりゃそうだ。
第三階梯を差し置いて、第六階梯が指示役なんて意味わかんないし。
「ローナちゃん、真面目な話、人族がリングたちのいた場所だけに待伏せしているとは限らないし、リングを追いかけてきた追手もその辺にいるかもしれない。その中で、魔王軍に確実に情報を届けられるのは第三階梯の実力者のローナちゃんだけだ。そして、奴らの魔力回路を乱す魔道具が厄介だが……これは魔力量が低い俺の方が影響を受けないかもしれない」
「ですが——」
「お願いです、ローナお嬢様!」
「お、お嬢様!?」
「そうです、魔王軍の窮地を救えるのはあなたしか居ないのです!ローナ・ロルロレロお嬢様!」
「……おーほっほっほ!そ、そこまで言うなら仕方ありませんわね。私にしかできないことですから、私にお任せなさいまし!」
そう言うとローナちゃんはまたドタドタと足音を立てて魔王軍がある方角へ帰って行った。
ふぅ、肝心なところでちゃんと嚙まずにローナちゃんの名前言えてよかった。
それにしてもちょろい。
最初からこの感じで説得しとけばよかったわ。
「……先輩が指示役って本当ですか?」
「ん?嘘に決まってるじゃん。ジョアちゃんは俺に贔屓なんてしないよ」
俺が≪モルガナ≫を解くと、証書は白紙に変わる。
そもそも指示役なんて俺やりたくないし。
「じゃ、作戦を決めよっか」
「そんな時間は……」
「稼いでくれると信じよう……先行させたレンガが」
「……あ」
リングは気づかなかったみたいだね、レンガがもうとっくに戦場に向かっていることに。
※※※
もう十分時間は稼いだ、リングはもう逃げ切っただろう。
肩に風穴が空いちまったが、それに見合った戦果は手に入れられた。
「ゼェーゼェー、おまえたちも、逃がしてやりたいが、無理そうだ。悪ぃ」
「ハッ!そもそも逃げようなんてしてねぇし、逃がすんだったらコランさんからだろうが」
「残念だけど、あとは私たちが死ぬまでにどれだけ人族を減らせるかってとこかしらね」
かなりの数殺した自覚はある。
しかし、人族は一向に目の前に立ち塞がり続ける、キリがない。
「よくも……よくもおまえら我が軍を……!」
「ハッ、こちらも黙って殺されるわけにはいかないもんでね」
強がったものの、もう身体も上手く動かないし、≪バベル≫の持続時間も少ない。
この魔法が消える前に、敵将一人の首くらいは取っておきたいところだ。
「よぉ、大将さんよぉ!近くにいたお仲間が随分散ってんじゃねぇか!旅は一人でも多い方がいいからよぉ!おまえも俺と死んでくれや!」
虚無鉄の盾を所持している兵士は、乱戦によって奴の近くから少なくなった、今が好機!
竜の手を奴に向ける。
「図に乗るなよ、魔族。なぜ私がこの戦場を任されたと思っている。身の程を知るが良い——≪サモン≫!」
「召喚魔法!?」
召喚魔法≪サモン≫は自分が契約した者や、登録した魔道具を召喚することができる魔法スキル。
≪サモン≫によって現れたのは巨大な鐘だった、その鐘がゴォオンという音を鳴らして竜の手を弾く。
奴程度の魔力ではそこまで強大な魔道具を召喚できるとは思わないが音が鳴る魔道具というだけで嫌な予感がする。
「まずい!全員耳を塞げえええええ!」
「遅い!鳴らせえええええ!」
——ゴォォオオオン……
戦場に鐘の音が鳴り響く。
人族にとってはまるで神でも降臨するかのような音色のようだが、魔族にとっては——
「うぐっ…………く、くそっ!」
地獄の音色が脳を揺らす。
ラッパより更に不快な音……いや、ラッパの音の効果を倍増させているのか。
最早立ってもいられない、俺以外は近くの魔物も含め、全員この音により気絶してしまったようだ。
不活性の喇叭とこの鐘、併せたら第四階梯くらいの魔族は意識も保っていられないらしい。
≪バベル≫も今の音で解けた、ここまでか……
「Sランクは不活性の鐘の音を聞いても意識を保てるのか、だが立ってはいられないと。本当は四天王クラスと戦う時まで秘蔵したかったが、やむを得ん」
この鐘の情報も魔王軍に届けたいが、どうやら無理らしい。
もう意識も保ってられねぇ。
魔王様……貴方の野望が叶うその瞬間にお立合いできなくて申し訳ございません。
「今だ!邪悪な魔族に制裁を!」
俺が諦めかけたその時——
——バキィッ!
「え……はぁ!?不活性の喇叭の音が鳴らなくなったぞ!?い、いや?破損してる?」
「こ、こっちは虚無鉄の盾に亀裂が!?」
連続して金属の砕ける音が聞こえた。
目を向けると、次々と人族が所持している武器に傷がついていく光景が目に映る。
しかし、なぜ武器に傷がついていくのかわからない、わかるのは——そのどれもが爪痕のようなものを残していること。
「一体何が起こっている!?」
「敵の増援か!?しかし姿が……」
「魔族の力なら鐘の音が効果的なはずだ!不活性の鐘を鳴らせ!」
——ゴォォオオオン……
再び鳴り響く鐘の音。
俺はまたも、その音に藻掻き苦しむ。
しかし、謎の現象は動きを止めない。
「なんだ、なぜ次々と武器が無力化されている!?なぜ不活性の鐘が効かない!?」
誰もが戸惑っているが、そんなことお構いなしといわんばかりにどんどん武器が無力化されていく。
そして、その向かう流れの先は——。
「くっ!総員!不活性の鐘を死守せよ!」
武器の砕ける音が、連鎖するかのように不活性の鐘に向かう。
人族も不活性の鐘の周りを盾で囲うが、正体不明の攻撃にどう守ってよいのかわからない。
盾を構えたところで、それも破壊されていく。
(な……んだ?俺も何が起きてるのかわからねぇ……増援?いや、こんなことができる奴、魔王軍にいない)
俺も人族も状況が把握できないうちに、不活性の喇叭や虚無鉄の盾の破壊は続く。
「こっちもやられた!」
「変なとこやられて不活性の喇叭からすっかすかの音しかでねぇよ!」
「俺の盾ないなった……」
限界が来て、意識を手放す寸前。
正体不明の爪痕はとうとう不活性の鐘に届き、そして。
「あ」
俺が最後に見たのは、鈍い斬撃音と共に、鐘の舌が、地面に落ちる光景だった。




