第18話 完全包囲
「ゼーッゼーッ、やっと……追いつきましたわよ……」
「あ、おかえりローナちゃん、何やってたの?」
「シッ、クロハ!ローナちゃんに道に迷ってたって言わす気か?プライドが高いローナちゃんが傷ついちゃうだろ!」
「あ、そっか、ごめんねローナちゃん。このとおり、深く謝るよ」
「だまらっしゃいお二方!そもそも私は道に迷ってないですわ!?あなた方が急に帰り出したのでしょう!?」
結局、帰りの道中、ローナちゃんは俺たちに合流した。
めちゃくちゃドシドシと足音凄まじかったな。
「なんで急に帰り出したのですか!?まだ何の情報も得てませんわよ!?」
「えー、だっていなそうだったじゃん、人族」
「意味ないだろこんなとこいても」
「諦めが早すぎますわ!?」
ローナちゃんはそう言うが、いないもんはいないんだからしょうがない。
「いないならいないで、さっさと見切りをつけて他のとこ応援に行ったほうがいんじゃない?」
「ああ、人族はとにかく数が多いからな。他の調査メンバーも三、四人だっただろ?待伏せでもされてたらたまったもんじゃない」
「むむ……一理ありますわね、第六階梯のくせに……」
ぶつぶつ何か言ってるローナちゃんはほっといて……こっから一番近い旧境界線は、確かコランとリングが調査してたところか。
二人の実力なら心配はいらない、とは思うが相手は人族だ。
人族、彼らと魔族の対立の歴史は深い。
俺も若い頃、人族によって酷い目に遭ったことは幾度もある。
一人一人は魔族より弱いが、数の差は圧倒的に向こうが上、戦闘において数が果たす役割は大きい。
だからこそ、魔王様は魔族を纏めて魔王軍を結成した。
数の力を得た魔族に人族は対抗することができず、この50年間大人しかったのだが、どうやらその平穏も終わりを告げるかもしれない。
(あの数で旧境界線に人族が現れたのは、魔王軍がこの土地を手に入れてから一度もない。何か企んでいそうだよね……)
魔族が人族からこの土地を勝ち取って領土とした、第一次人魔大戦。
魔王軍の軍勢は約5千人に対し、人族の軍勢は約5万人。
十倍以上の差があったが、奴らは魔族の連携力を侮っていた。
今まで連携などしてこなかった魔族が、いきなり連携できるはずがない、そう高をくくったのだろう。
しかし、人族は魔族の恨みの大きさを理解していなかった。
あの時は凄かった、今まで虐げられていた魔族がその恨みを晴らすかのように一丸となって暴れまわり、人族をなぎ倒していった。
さらに、人族側も一枚岩ではなかったがために連携が上手く取れていなかった部分があり、そこを魔王様は責め立て勝利したのだ。
今思い出しても、魔王様のあの指示にはシビれる、まぢかっこよすぎ。
ま、そんなこんなで領土を手に入れた魔族に対し、領土を取り戻そうと人族が虎視眈々と狙っているのは皆が知るところだが、とうとう攻め込んでくる気か。
俺もレンガも、人族の新しい技術を感じとっているし、それが魔王軍対策なのかもしれない。
情報を得るには人族の領地に潜り込むのが一番だが、流石に俺一人では難しいだろう、さて、どうしたもんかに。
「ん?」
そんなことを考えていると、俺の魔力に異変が起きる。
見覚えのある魔力が、俺の魔力に入ってくるこの感覚。
どうやら、俺が教えたことをしっかり実践しているようだ。
しかし、なぜこの場所に?
「クロハ先輩!」
「……リング?…………先輩!?」
崖から滑り落ちながらこちらに向かってくるリング。
いきなり現れたのにも驚いたが、呼び方にも驚いた。
どうした、変なモンでも食ったか。
茶化そうとするが、よく見るとあちらこちらに傷ができている。
あまり良い状態ではないようだ。
「助けてください!コランさんが!」
※※※
「っつーわけで、俺はコラン・サブジェ。よろしくな!」
「私はリング・ラギャ。第三階梯のコラン様と共に任務に当たれるとは光栄です」
「あー、いい、いい。そんなかしまらなくても。一人称も普通に戻していいぞ」
「……承知しました」
「承知してねぇじゃねぇか」
そんな会話を皮切りに、俺の生まれて二回目の任務が開始された。
他のメンバーとも軽い自己紹介を終わらせ、旧境界線に進む。
今回の任務は、第三階梯のコラン・サブジェを筆頭に、平均第四階梯の魔族で構成されており、俺含めて計四人編成だ。
ちなみに、前回の任務で俺の序列も第五階梯に上がっている。
「クロハから変な奴だと聞いて覚悟してたが……別に言う程ではないな」
「ちょ、ちょっと待ってください!へ、変な奴?あの人に、俺が……?」
「すんげぇ、顔色悪くなるじゃん。まあ気持ちはわかるが」
「どこに訴えても必ず勝訴する自信があります」
やはり古参の青の部隊同士、クロハ先輩と面識はあったのかと思うと同時に、その発言に戸惑いを隠せない。
あんな変人に、逆に変人呼ばわりされるなんて堪ったもんじゃない。
どの口が言うんだ案件だ。
「プハッ!案外面白れーじゃねぇ奴じゃねぇか、クロハの言ってたことも少しわかるぜ」
「えぇ……」
釈然としないが、そんな会話をしながら調査を進める。
「前回の任務は魔物の捕縛だったんだっけ?特殊個体の魔物を魔族化して捕まえるたぁ、大したもんだよ。運も実力の内ってか?」
「それは……いえ、確かに運が良かったです」
「謙遜するねぇ。今回の任務に明確な結果は出ねぇ、だが、人族の動向は魔王軍、いや、魔族全体の存亡に関わる重大な任務だ。しっかり頼むぞ!」
「はい、もちろんです」
今回の任務は、人族の動向調査。
前回の任務とは違い、調査となると目に見える成果が得られないし、終わりのタイミングも難しい。
ある意味、前回の任務の方がわかりやすく、新人向きだったのかもしれない。
そう思うと、魔王軍の仕事の割り振り体制もしっかりしているんだな。
「お、何体か魔物がこっち向かって来てるな、リング頼んでいいか?」
「はい、露払いはお任せください」
相手は旧境界線でお馴染みのミノタウロス。
殴りかかってくる拳をすんでのところで避け、伸びきった腕を剣で落とす。
「ブモオオオオオッ!」
ここまで魔力が乱れ、至近距離の相手には多分できるはず。
「≪カノン≫」
自分の魔力を一滴相手の魔力に溶け込ませ、相手の魔力を用いて魔法を唱える。
現れた岩の≪カノン≫は物理法則を無視して、ミノタウロスに突き刺さった状態で出現する。
「上手くいったか……」
「なんだ今の、すげーな」
しかし、わざわざこんなことをしなくても剣で首を落とせばいいだけの話。
ここまで弱らせて、離れた相手には使えないとなると、まだ実用的な技術ではない。
「ある人に習った技術ですが……まだ練習中で上手く使いこなせないんですよね」
「それでもすげーよ、相手の魔力を乗っ取ってスキル発動なんてできたら意味わかんねぇだろ」
しかも普通に何をしたのかバレてる。
あの人だったら原理も気づかせずやってのけたのに、自分はまだまだだ。
「この分だとこの間の任務もただ運が良かったってわけじゃなさそうだ」
コランさんは笑いながら俺の肩を叩く。
この人は本当にまっすぐな人だ、どこかの誰かと違って。
本当に尊敬できる先輩に、少しだけ胸が軽くなった——その直後だった。
「ッ!敵襲です!感じたことない魔力……おそらく人族です!」
「え、私の≪サーチ≫には何も引っかかってないけど」
「俺のにも引っかかってません、おいおまえ、本当に感知できてるんだろうな?」
どうやらこの魔力を感じ取れるのは俺だけのようだ。
俺と先輩たちとの違い、おそらく≪サーチ≫の使用方法だ、しかしなぜ先輩たちの≪サーチ≫には反応がない?
「……リング、俺の≪サーチ≫にも何も反応はない……が、おまえ魔法スキルと同じで≪サーチ≫も何か特殊な方法でやってんのか?」
「はい、原理は——」
「いや、後でいい。おまえだけが人族を感知できる、今はその情報だけで充分だ。だいたいの数と方向と距離を教えてくれ」
「方向は南西方向、距離は約500メートル、数は……うぐっ!」
「どうした!?大丈夫か!?」
「すみません、この技術も練習中で……数は百じゃ足りないかと」
チッ!ここで慣れていない弊害が出た。
一度に百人以上の魔力を溶け込ませたせいで、情報量が捌ききれない。
大事な実践の場で、なんと情けない。
そんな、今にも吐きそうな俺にさらなる追い打ちがかかる。
「ガハッ!」
「おいおい、吐く程きついのかその技術。そんな負荷が掛かる技なら一旦——」
「そうも、いきません……。今、俺の探知範囲に新しく足を踏み入れられました、俺たちは——完全に囲まれてます」
「なに?」
「数は——千を超えるかと!」
そう申告したのも束の間、俺たちに四方八方から矢の雨が降り注いだ。
「≪ランパード≫」
コランさんが発動した、紫電の結界に当たった矢は焼き尽くされる。
しばらく矢の雨は降り注いだが、やがて、矢がなくなったのか、目視できる距離まで詰めて来たその軍勢の中から一人が名乗りを上げた。
「私はアルシャリス軍"魔族処刑官"ヨルナン・ファルガ!人類の平穏を脅かす邪悪な魔族共よ!私がこの手で葬ってやろう!」




