第17話 青の部隊の愉快な仲間たち
リングとの話し合いから数日、俺は次なる任務に備え、魔王城内ロビーにて、先日買ったプロマイドを床に広げ英気を養っていた。
「英気を養うのも仕事のうちっと、はぁ、リーダーから買った魔王様プロマイド、凄まじい出来!この画角!この表情!狙って撮ってるリーダーまぢ尊敬!」
「おまえ、城内のロビーで何をやっている!……またおまえか。いい加減その気持ち悪い行為をやめろ!」
(うげぇ……これまた面倒なのが……)
現れたのは、四天王の一人”ラファード・ジャンニ”。
性格は獰猛で荒々しい。
赤い肌で筋骨隆々なその姿に恐れを抱く者は少なくない、が、俺にとってはそんなこと関係なく天敵である。
なぜならこいつ、魔王様ファンクラブを本気で気持ち悪がっているからだ。
「これはこれは、ラファード様、本日はお日柄も良く……」
「気持ち悪ィ挨拶なんてしてんじゃねぇ!ったく、またこんなモン広げて……」
「あ!それは俺のプロマイド……」
「こんなモン」
——ビリィッ!
ラファードは俺からプロマイドを奪い取り、あろうことか真っ二つに引き裂く。
「くだらねぇ、こんなモン見てる暇があったら、もっと魔王軍に貢献するんだな」
「…………」
床にはバラバラになった魔王様のプロマイド。
俺のコレクションをバラバラにして満足したのか、ラファードは去っていく。
はぁ、ここまでするかね……
俺が激高するんじゃないかと思ったそこのあなた!
チッチッチ、甘いね。
魔王様が映っていたバラバラになった紙は、スゥ——と、次第に白紙へと変わっていく。
こうなることは察していたため、ヤツには俺が≪モルガナ≫で作った偽物のプロマイドを掴ませたのだ。
前は本物を破壊されたからね、二度と同じ轍は踏むものか。
「まったく、魔王様愛が足りないからこんなもんも見抜けないんだよね。それでも四天王かよ」
「よぉ、クロハ。またラファード様に怒られてんのか?」
「ん?コランじゃん。これから任務?」
声がする方を振りむくと、今度はガタイの良い白髪の魔族が立っていた。
彼はコラン・サブジェ。
俺よりは入軍時期は後だが、魔王軍でも古株で、俺と同じ"青の部隊"所属である。
四天王はそれぞれ自分の部隊を持っており、ジョアちゃんが率いるのは"青の部隊"。
彼女は誰彼構わず引き受けてしまう人柄のため、問題児が多く揃っていたりする、レンガとかね。
彼はそんな青の部隊の中でも珍しい、まともな人間だ。
俺みたいな陰キャにも声をかけてくれる、真なる陽キャなのだ、眩しい。
「ああ、なにやら最近、人族がよく各旧境界線を出入りする様子が見られるらしい、何か企んでるかもしれねぇ」
「その調査ってわけだ。そういえば最近顔見なかったけど、ずっと旧境界線行き来してんの?社畜乙だね」
「仕方ねぇだろ、人族にこの土地をまた奪われるようなことがあれば魔族に未来はねぇ、万が一もないように人族の動向には常に細心の注意が必要だ。それに、なにやら見回りに行ってた魔族六人がまだ帰ってこねぇらしい。何かあるかもしんねぇ」
そう、口は少し悪いが彼はとても真面目だ。
優しく真面目でそして実力もある。
魔王軍内にも序列があり、『第一階梯』~『第六階梯」まで存在する。
魔王様が『第一階梯』、四天王が『第二階梯』。
彼はその中でも『第三階梯』であり、四天王に最も近い位だ。
俺とコランとの評価の差はまさに天と地ほど、俺のが先輩なのにね。
え、俺の序列はって?聞くまでもなくない?
「そういやぁ、今回の任務あの新人、リングっつったっけ?も一緒なんだが、おまえこの前一緒に任務こなしたみてぇじゃねぇか、どんなやつだった?」
「変なやつだよ」
「は?」
「変なやつ」
「お、おまえ……どの口が……!?」
「あのさぁ、君俺のことなんだと思ってんの……っと、お?」
そんな風に会話に花を咲かしていると、ヴァルバットがどこからともなく現れて、俺の一本角に停まる。
またまた任務のようだ。
俺は憂鬱さを隠しもせず、溜息を吐きながら、ヴァルバットが持ってきた封書を開ける。
「なになに?……げっ!?俺にも旧境界線の調査任務来やがった!」
「そういやクロハもこの前旧境界線行ったんだろ?それで白羽の矢が当たったのかもな」
「ツいてねぇ~」
「そういうなって、えーっと、ああ、残念だが俺とは別んとこみてぇだな」
「え~、じゃあコランに全部任せられないじゃん」
「誰とだろうが任務中はちゃんと働け!俺より先輩だろ!」
まったく、なんて奴だ。
先輩の言うことが聞けないなんて、後輩の風上にも置けない。
「じゃ、そろそろ俺は行くぜ、おまえもたまにはちゃんと活躍しろよ!」
「俺は下位種の魔族だぜ?毎日生き残るのに精一杯だっつーの」
「そんなんじゃ、いつまでたっても第六階梯のままだぞおまえ……」
「うっせ」
それにしても……人族に動きがみられた、ねぇ。
歴史が変わる何かが始まる、そんな予感がしてならない。
この平穏な生活は気に入ってるし、そんな予感が当たらないことを祈るばかりだが……
「嫌な予感って当たるんもんだよなぁ」
※※※
それでは、はい、やってきました旧境界線!
あいもかわらず、 魔力の揺らぎが気持ち悪い。
ちなみに前回の任務とは別の場所で、前来たところは第三監視区画、今回は第二監視区画だ。
「おーほっほっほ!此度の任務、全て私が解決してさしあげますわ!あなた方の出番はなくてよ、クロハさん!レンガさん!」
「え、まじで?さんきゅー、ローナちゃん」
「じゃ、後は任せるわ、ローナちゃん」
「キ~~ッ!あいかわらず嫌味一つも通じない方たちですこと!それに何度も申しておりますでしょう!私のことは、”ローナお嬢様”とお呼びなさい!」
高らかに宣言しながら、ローナお嬢様は自前の扇子をバッと広げ、口元を隠す。
今回の任務、メンバーは俺クロハに、レンガ、そしてローナちゃんの三人である。
誰だよメンバー編成考えたやつ、俺以外まともなメンバーいねぇじゃねぇか。
金髪で巻っき巻きの髪型が特徴的な彼女の名は、ローナ・ロルロレロ。
青の部隊所属、序列は第三階梯であり、実力は確かなものなのだが……
人族のお嬢様という存在に憧れ、それに成りきろうとしている変人である。
魔族に貴族のような、家系を重んじる文化はないから、本当にただ演じているだけだ。
まったく、変人に囲まれて肩身が狭い。
「魔王軍初代メンバーのくせして、揃って第六階梯のお二人に、私が魔王軍の魔族としてお手本を見せてさしあげますわ。よく目に焼き付けなさいまし!」
「「へ~い」」
「キ~~ッ!返事が雑!ですわ!承知しました!ローナ・ロルロレロお嬢様!と申しなさい!」
「「承知しました!ローナ・ロレロレロお嬢様!」」
「ロルロレロですわ!?」
こんなふざけ合ってても、調査は順調だ。
時折現れる魔物も、「雑魚はお呼びでなくてよ!」と言いながらローナちゃんが殴り飛ばしてくれる。
サイクロプス、ミノタウロス、オーガ、その他もろもろ……
おー、今回のミノタウロスは30メートルくらいの飛距離かな?記録更新ならず!
「それよりお二方、人族の痕跡は見つけられましたか?私も探ってるのですが……特に普段と変わってるところはありませんわね」
「そうだね、足跡も魔物のものばっかだし、人族の魔力も感じられないかな?」
「匂いも、旧境界線特有の焼けた匂いばっかで、他はなんも感じとれん」
「あら、ちゃんとそこは探ってらしたのね、成果はなんも無しの役立たずですが。」
まったく、酷い言われようだ。
こっちはこっちでがんばってるのに。
「それでは、私はもう少し遠くを探ってみますわ。このまま何の成果もなしですとロルロレロ家の名折れ!一生の恥ですわ!進むスピードを上げます、付いてこれなかったら置いていきますわよ!」
「「へ~い」」
「キ~~ッ!」
俺たちの適当な返事に、またも怒りの鳴き声を上げながら、ローナちゃんは走り去っていく。
だから家名を重んじる文化、魔族にないってば……ってかよく噛まずに言えるね自分の名前。
もちろん、置いて行かれる気まんまんなので、俺たちはスピードを上げない。
さて、
「確かに残ってるね、人族の魔力の痕跡。この感じはだいたい20日前かな」
「ああ、匂い対策もしっかりしているが……匂い対策の匂いがしっかり残ってる、人族が旧境界線を行き来してるっつうのは間違いないらしいな」
「にしても、隠蔽方法がいつもと違う、何か魔道具でも開発したか?」
俺の≪サーチ≫を用いても、周囲3キロメートル当たりには人族の存在は確認できない。
しかし、確実に出入りしていたと思われる痕跡は感じ取れる。
かなりの数だ、迷い込んだ者とは違うし、しっかり訓練をした者の魔力だ。
「うーん、人族もうここにはいないみたいだし、いる意味ないよね、別んとこ行く?」
「そうだな、別んとこ行くか」
大人数の人族がここを出入しているとなれば、魔王軍に攻め入る準備をしている可能性は大いにあり得る。
ここにいても仕方がない、他の場所へ行こうか、なんてレンガと話していたら、「ガアアアアアア!」という怒声に意識を取られる。
「ん、あれって」
「ああ、さっきローナちゃんが殴り飛ばしたサイクロプスだな」
あちゃー、めっちゃ怒ってるじゃん、ちゃんととどめささないから~、しょうがないなぁ。
「レンガ」
「ああ、いくぞ」
「「せーの、じゃんけんぽん!」」
よっしゃ勝った!そう思った瞬間、レンガの姿が消えサイクロプスの首が飛ぶ。
そして、その首が地面に落ちる前、数秒も立たないうちにレンガが隣に戻ってくる。
「ッチ、クロハにじゃんけんで負けるなんて……」
「っしゃ!これで八連敗回避!雑魚討伐係卒業!」
「ぬかせ、すぐにまた入学させて留年させてやっからな」
軽口を言い合いながら、俺とレンガは別の場所へ向かう準備をする。
人族だってなんらかの策がなければ魔王城には攻めてこない、逆を言えば何か策があるから攻めてくるのだろう。
そんな秘策を持つ人族が大量に攻めて来るなら、初手でさっさと潰した方が良い。
こんな何もない場所でのほほんと散歩している暇などないのだ。
崩れ落ちるサイクロプスの身体と、遠くから聞こえてくる「なんで付いて来ませんの~~!?」という声を背に、俺たち二人はそことは逆方向へ歩き出した。




