第16話 軍事国家アルシャリス
軍事国家アルシャリス。
人口500万を誇る、人類きっての軍事国家だ。
アルシャリス軍の兵士の数は10万人を超え、各国から腕利きが集まる。
いや、集まってもらわねばならぬのだ。
なぜなら、この国は人類が支配する土地の中で最も、魔王が支配する土地——魔王城と近い。
魔物の生息地も近いこの国は、周辺国を魔物、魔族被害から防ぐ防波堤となっている。
そんな人類最高峰の戦力と危険な立地から、人類の間ではこう呼ばれている——”最初で最後の防衛国家”と。
「——以上が今回の遠征の成果であります!」
「ヨルナン、貴君らの功績はもとより文達で聞いていたさ。魔族を六体も葬る、流石の実力だ。また世界が平和へと近づいた」
「はっ!勿体なきお言葉!」
「今後も貴君らの活躍期待しているぞ」
そう言うと私の部下、ヨルナンは再度頭を下げ、私の部屋を後にする。
それにしても……魔族を六体も討伐するとは、なんと素晴らしい。
このような優秀な部下を持てて私は幸せ者だな。
魔族は魔物と違ってその総数は少ないが、魔物とは比べ物にならない程強い。
だからこそ、一体一体の討伐が及ぼす戦果は大きい。
それを六体、本当に鼻が高い。
そんなことを思考していると、ノックの音が鳴り響く。
「ミネルヴァ様、伝令に参りました」
「入れ」
「失礼いたします」
今度の来訪者は私の部下ではないが、何度か見かけたことのある顔だった。
妙齢の女性、確か彼女は国王直属の伝令係であったな。
「陛下より、この後、謁見の間にすぐ来てほしいと。なにやら重大な計画について話したいことがあるそうで」
「……なるほど、準備ができたというわけか。承知した。伝令感謝する」
「いえいえ、それでは」
このタイミングで陛下自ら私をお呼びになる理由はただ一つ。
兼ねてから模索していたあの計画について進展があったということだ。
緊張が走ると同時に胸が高鳴る。
このような高揚感は初めて戦場に出たとき以来か。
私は足早に謁見の間へ足を運ぶ。
気が抑えられない私の圧に、すれ違う人はすぐさま道を開けるが、今の私にそれを気に留める余裕などない。
辿り着いた謁見の間。
重厚な扉を開き、一歩中へ踏み入れた瞬間に、私は一度足を止め、遠く玉座に座す陛下へ向けて深く頭を垂れる。
眩い黄金の壁と、等間隔に並び直立不動で槍を構える多数の衛兵。
その中央に敷かれている一本の赤いカーペット——王へと続く「臣下の道」を、私は軍靴の音を響かせぬよう、厳かに、しかし確かな足取りで進む。
玉座の手前、およそ十歩、私は流れるような動作で右膝をつき、視線を床の赤絨毯へと落としたまま、最大の敬意を持って声を張る。
「失礼いたします!ミネルヴァ・アルガレス、伝令によりはせ参じました!」
「おお、ミネルヴァよ、よく来てくれた。頭を上げるがよい」
「はっ!」
頭を上げると同時に目に入るは見慣れた陛下の顔。
軍事国家アルシャリスの国王陛下、グロス・アルシャリス様。
色黒の美丈夫で、その顔立ちは二十代といってもいいほど。
いつ見ても若々しい、六十代とは思えないな。
「早速本題に入ろう。此度の遠征の結果はもう聞いたか?」
「ええ、私の部下が魔族を六体討伐したと報告がありました」
「うむ、それだけでも素晴らしい成果だが、彼らはもっと重大な戦果を上げてくれた」
「といいますと?」
「先日、開発部の者が討伐した魔物の魔石から記憶を読み取ることができる装置を開発してくれた」
「なんと!そのような装置が!」
アルシャリス軍開発部。
彼らの素性は厳重に秘蔵されており、怪しい噂が絶えない。
今まで何の成果も上げていなかった為、ただの怪しい集団であったが、彼らを見縊っていたようだ。
魔物や魔族は討伐すると身体は朽ち、血が凝結したような真っ赤な魔石だけがその場に残る。
その魔石はかざすと生前その者が得意としていたスキルを扱えたり、魔力を有しているので魔道具等にも活用できる。
便利である反面、魔力が尽きたら粉々になる消耗品であったが、こんな使い道が開発されるとは!
これ程魔族に対して情報戦を有利に戦えるようになるものはないだろう。
「その装置を用い、此度入手した魔石の記憶を読み取ったところ、すべてではないが魔王城内の詳しい情報が手に入った」
「誠にございますか!——ならば、あの計画も!」
「うむ、実現可能となるであろう。それに彼らは他にも有用な道具を開発してくれた。きっと戦場で役に立つであろう」
「それでは陛下、一つお願いが。"魔族処刑官"をこの戦いですべて投入を」
「ああ、言われなくとも、計八名の処刑官たちはいつでも動けるようにしている」
ようやく、ようやくだ!
あの憎き存在を滅ぼすことができる!
古来より、魔族は強大な力を持っていた反面、群れることはなかった。
それ故、人族は数……仲間と絆の力を用いてなんとか対応することができていた。
だが50年前、あろうことか魔族は結束し始めたのだ。
そう、一体の魔族の存在によって。
そこから人族は50年もの間苦渋を飲ませられた。
どれだけの人間が魔族に葬られたことか、どれだけの人間が魔族のせいで悲しみを負ったことか。
その雪辱をようやく晴らすことができる、元凶を駆逐することで!
「さすれば其方の手を借りたい。此度の戦、最前線に立ってくれるか?」
「勿論でございます、陛下!我が身、我が剣は国家の為に!」
「おお、なんと心強い!これは人族、いや全世界で歴史に残る戦争になろうぞ。覚悟はできているな?」
腰の長剣の柄頭に右手を添え、心臓の前に拳を掲げる。
騎士としてこれ以上ない、命を捧げる誓いの敬礼。
私が最大級の敬礼で応えると、陛下も先程とは比べ物にならない程の威圧で応えて下さった。
「アルシャリス国王グロス・アルシャリスが命ず!必ず魔王を討伐するのだ!人類最強の騎士”戦乙女”ミネルヴァ・アルガレスよ!」
「はっ!王命しかと承りました!必ずや魔王の魔石を陛下に献上させていただきます!」




