第14話 悪魔の一杯
(あ~、くそだる)
魔族で賑わう商店街”こあくま通り”。
魔族の土地はまだそこまで広くはない、それ故、この場所は魔族にとってたった一つの商店街だ。
俺は今、まだ見ぬ秘宝を求めにこの場所で、様々なグッズを物色していた……のだが。
(……見られてるなぁ)
先日の新人の任務に同行して以降、視線を感じることが多くなった。
気づかれないよう工夫はしているようだが、まだまだだね。
情報戦で俺に勝てると思うなよ?
と思いつつも、慣れないことをされると普通に気が散る。
せっかくのショッピングが台無しである。
今まで、俺を尾行しようなどという物好きはいなかったため、尾行されるということも久々だった。
魔物ほど単純ではないが、魔族も基本的には、その者が持つ魔力量と質で強弱を測る。
その判断に用いられるのが、魔技スキル≪サーチ≫だ。
魔物は例外なく、このスキルを生まれた瞬間から習得している。
魔力を測るという性質上、発音や特別な動作を必要とせず、腕を動かすのと同じ感覚で使える。
それほどまでに、魔族や魔物にとって≪サーチ≫は当たり前のスキルだ。
最早、あいさつするより先に、相手にこのスキルを使う。
そして、このスキルを俺に使った者は、決まって興味を失う。
生まれた頃から使い慣れた≪サーチ≫が告げるのだ。
――こいつは雑魚だ、と。
だからこそ、魔王軍で多少変わった行動を取っていても、俺は取るに足らない存在として扱われてきた。
それなのに。
あいつ……リングだけは、魔力を測ってもなお、こうして俺を尾行してくる。
どうやら、相当な変わり者のようだ。
天才って変わったやつが多いよね。
さて、この後どうするか。
別に尾行されても見られて困る行動をするつもりはないし、放っておけばいいだけの話なのだが、鬱陶しいことこの上ない。
……よし、こうするか
まず一瞬、リングの死角へ移動する、そして……
(≪モルガナ≫)
幻影を作りだすスキルで、あの猫ちゃん、セイラの幻影を作り出す。
そして、セイラの幻影だけリングがいる方角とは別の方向へ歩かせ、俺本体はそれとすれ違うように別方向に歩き出す。
…………よし、俺本体への視線はなくなった。
リングは彼女と遭遇するためか、その場から動く。
あれから会ってないよね、あの二人。
そりゃ、会いたいよね。
ここでもうひと手間。
(≪カノン≫)
今度は、小さな”紫色”の≪カノン≫をセイラの幻影が向かう先とは真逆の方に放つ。
≪カノン≫が向かう先は、電柱だ。
その電柱に、俺が放った≪カノン≫が当たった瞬間……周辺の明かりが消え去った。
「え、なに?明かりが……」
「真っ暗だ!何も見えねえ!」
この街は、等間隔に建てられている電柱に溜められた魔力を、電線が電気に変換、それを伝わせて、それぞれに分配することで明かりを灯している。
魔王城付近は常に暗いため、この明かりがないと真っ暗になる。
それでも、ここの設備は万全だ。
明かりが失われたのは一瞬、すぐに光を取り戻した。
まあ、騒ぎにはしたくないため、すぐ戻ってもらわなければ困るのだが。
俺が欲しかったのは、この一瞬の暗転だ。
この一瞬のうちに、俺はセイラの幻影を消し、自らの気配も消す。
おお、戸惑ってる戸惑ってる。
結局お目当ての俺も、セイラもどちらとも見失ってしまったのだ、そりゃ戸惑うよね。
んじゃ、その隙に……
(≪ミミック≫――よし、とんずら、とんずら)
透明化スキルでその場を去る。
これで楽しいショッピングの続きを…………は?
その瞬間、それはもう広大な≪サーチ≫がこの商店街を覆った。
莫大な魔力に、仕入れた情報を捌ける情報処理能力が必要なのはもちろんだが、こんなん……
(尾行がすることじゃねぇだろおおおお!)
この商店街にいる全員がリングの居場所を把握しただろう、逆探知なんてする必要もない。
あほなの?ばかなの?こんなん、拡声器持って”俺はお前を探している!出てこい!”って隠れている相手に言ってるのと同じだからね。
まずい。
何がまずいって、今の俺は――この探知に引っかからない。
この規模の探知に反応しない魔族なんて、存在しない。
つまり、俺が完全に魔力を消していることがバレてしまう。
さっきまで確かにここにいた人物が、忽然と消えている。
それはそれで、十分に不自然だ……
……はぁ
どこの世界に尾行対象見失ったら、俺はここにいる、出て来い!って主張するヤツがいるんだよ。
まったく……
「何してるの、君は」
「っ!」
このままずっと、この力業で探されたらたまったもんじゃない。
もう色んな人の注目浴びているし、このままだとこいつすぐ魔力枯渇でぶっ倒れる。
こんな騒ぎ起こして、ぶっ倒れられたら、絶対事情聴取やるだろ?
そん時に”なんでこんなことしたんだ?”なんて誰かから聞かれて、俺を探してたなんて答えられた日には目も当てられない。
それならもう、こっちから出向いて話をしてやった方がいい。
いや、ほんと何してるの、こいつ。
「気づいてたんですか?」
「これだけ目立っといて何いってんの?ばかなの?」
「その前からの話です。どうせ尾行しても何もわからないし……あなたが目立ちたくないなら、いっそのこと、ここまでやった方が話が聞けて早いかなと」
「にしても限度があるでしょ……」
こいつのこと天才扱いしたの撤回しようかな。
「ほら、ここだと君のせいで目立つから場所変えるよ、人目に付かない場所行くよ」
「流石、人目に付かない場所はよく知っているんですね」
「言葉尻捕らえた程度で情報を得た気になるな、あほ」
突き刺さる視線を跳ね除けて、目指すは俺がよく行く喫茶店”悪魔の一杯”。
めちゃくちゃ穴場で、来客も少ない、マスター一人と、従業員一人の二人だけで経営している喫茶店だ。
今日行く予定なかったから、お土産何も用意してねぇよ……
進むにつれ、だんだんと人の気配が消えていく。
表通りから裏路地に入り、また更に入り組んだ裏路地へ。
複雑な道だが魔王城程ではないため、迷うことはない。
というか、あそこでは魔王様に逆探知されないよう、探知スキルを切ってある。
だから迷っちゃうのも仕方ないよね☆
そんなこんなで目的の喫茶店”悪魔の一杯”に到着する。
「ここ入るんですか……ちょっと気が引けるのですが……」
「まあまあ、この店は入るまでが厳しいだけで、入った後は快適だから」
静かな裏路地にたたずむこの喫茶店、外見はぶっちゃけキャバクラと変わらない。
これ喫茶店と思って入る人いるの?と言うとマスターに怒られるからいつも思うだけにしておく。
鉄製の扉を開けると、優しい照明とクラシックなインテリアが迎える。
そして一歩を踏み出した瞬間、コーヒーや紅茶の香りが漂い、落ち着いた気分にさせてくれる。
ほんと、外見と内装が全く合っていない店だ。
「いらっしゃいま……なんだ、クロハか。」
「いらっしゃいませぐらい言い切ろうよ、こちとらお客様だぞ。こんな喫茶店に訪れる世にも珍しいお客様、もっと大事にするべきでしょ」
「……ふっ」
「鼻で笑われた……」
入店してまず、あいさつを……してくれなかったこの女性は、悪魔の一杯たった一人の従業員のアゴネさん。
黒髪のショートボブに、左右バランスよく生えた角がチャームポイントだ。
「マスター!お宅の従業員の教育どうなってるんですかー!」
「うるせえ、とっとと席に着け」
「こっちもこれかい」
そしてこっちはマスター。
名前は知らない、マスターはマスターなのだ。
目を引くのは、なんといっても頭に生えた四本角。
これだけで威圧感がとんでもない。
この二人はどちらも種別が悪魔の魔族である。
魔王軍は別種の魔族も仲間と認識しているが、やはり同種の魔族とでは安心感がまた違う。
「酷いと思わない?リングくん」
「あまりお店に迷惑は掛けない方がよいかと」
「味方いねぇな、おい」
とまあ、いつものやりとりはこの辺にして、俺の特等席に着く。
はじっこのはじっこだ。
「いろいろ持ってくるのがメンドクサイんだよ。いつも言ってるだろ、はじに座るな」
「俺ははじっこが好きなの!それぐらい許してよ、アゴネさん。んじゃ、いつもの二つで」
「ったく……ん?こっちは見かけねぇ顔だな。レンガ以外にお前が連れてくるなんて珍しい」
「まあ、ちょっといろいろあってね、俺の後輩のリングくん。魔王軍の将来有望な新人君だよ」
「リング・ラギャと申します。よろしくお願します」
「……クロハの知り合いなのに礼儀正しいじゃねぇか、次はクロハと一緒じゃなくて一人で来なよ」
「はい!」
「なんでやねん」
軽口はここまで、料理が運ばれてくるまでの間、沈黙が訪れる。
え、これ俺から話振らなきゃいけない感じ?
最近の若い子と楽しく会話できるスキルないぞ、俺。
「ほいで、俺と話したいことって何?」
「前回の任務のことで……」
リングは一瞬躊躇するような顔をするが、意を決したかのように俺を見据える。
あ、嫌な予感。
「あなたがこの前の任務でやったこと、全部知りたいです」
そう言ってリングは俺に、俺を調査した結果を報告してきたのであった。




