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第12話 魔王軍

「≪モルガナ≫、蜃気楼を用いた幻影を見せる魔法スキルです。任意の幻影を作れますが、今回は私の経験をそのまま幻影としました」


 流石にすべてを私のスキルで再現することは不可能なため、風景や音声等は、この部屋の機能で補っている。

 四天王の一人が魔王城をその名の通り魔改造した結果、様々な機能の部屋が魔王城には存在しているのだ。

 

 録音した音声に合わせて幻影を動かすのはなかなか難易度が高いが、もう何度か勧誘交渉時にこの術を使っている。

 そのせいか、このスキルの扱いにはもう慣れていた。


「ちなみにこれはあくまで私が経験したことですが……こんな経験、長く生きた魔族であればみんな持っています。そういった環境で私たちは生きてきました」

「そ、そんな……」


 百聞は一見に如かず。

 ≪アライヴ≫で得た情報は確かに正しいが、いざ映像として自分で見るのとでは認識に天と地ほどの差がある。

 魔族化して間もない子にこんな血生臭い映像を見せるのは、毎度気が引けるが効率的なのだから仕方がない。

 あまりのショックにセイラは何も喋れないようだ。


「そして、これは魔王軍の領地から出れば今でも普通に起こりえることです。わかりましたか、人族の理不尽さが。そして、これら魔族を救った魔王軍、魔王様が魔族に齎した功績の大きさが」

「それでも私は……」


 私の≪モルガナ≫を見た魔族はたいていの場合、その惨たらしい光景に魔王軍での安寧を選ぶのだが、彼女の目はまだ死んでいなかった。

 これは目的が定まっている者の目。

 魔族化したばかりの者がもう目的……夢を持って動いている、なかなかに稀なことだ。


「安寧を手放してまで叶えたい望みがあるみたいですね」

「私の望み……」


 先ほどまでは私の見せた光景に俯き、顔色を悪くしながら絶望していた。

 しかし、今は打って変わって、顔色は変わらないものの、凛とした視線を私に向ける。


「私は、私は!……”お姉ちゃんに会いたいの”!」


 その一言で納得がいく。

 彼女が頑なに組織に縛られたくない理由も、彼の伝言の意味も。


「姉、家族…………そういうことでしたか」

 

 魔族にとって兄弟、姉妹……家族を持つ者は多くない。

 血統IDシステムが存在するこの世界で、同じ魔力を持つ“家族”に巡り合う魔族は、千人に一人もいない。

 そして、私の経験上、そういった魔族は家族に対して強い思いを持っている。

 ≪アライヴ≫で送り込まれた知識であろうが、初めて認識した他人ではない者。

 そんな存在、執着を持つのは当然なのかもしれない。


 家族を追い求めた結果、叶わなかった”彼”の姿が脳裏に過る。


 私は、少しだけ声の調子を変える。


「あなたの望み、魔王軍が手助けできますよ。もちろん、入軍していただければの話ですが」

「……っ」


 セイラの肩が、ぴくりと揺れた。


 今までの話の中で、初めて彼女の感情がはっきりと反応した瞬間だ。

 自由、恐怖、安寧――どれでもない。

 “望み”という言葉だけが、彼女に届いた。


「……なんで?あんたたちになんのメリットが……」

「私は……私たちは、魔王様にしていただいたことを他の魔族にもしてあげたい、ただそれだけですよ」


 魔王様に救われた、あの時の感情は一生忘れることがないだろう。

 組織が大きくなった今、魔王様も一人一人に対応することが難しくなってしまった。

 だからこそ、今度は私たちがその感情を与える存在になりたいのだ。


「ああ、そうそう、伝え忘れていました」


 わざと、何でもないことのように。

 彼女が一番嫌っているであろう名前を、あえて軽く口にする。


「クロハくんから伝言です。ほら、あの……バンダナを巻いて、へらへらしている、うっすい魔力の気持ちの悪い悪魔」

「……っ!」


 セイラの表情が、露骨に歪む。

 怒りと嫌悪――そして、ほんのわずかな戸惑い。


 彼の存在は、彼女の中で“無視できない何か”になっている。


「あれがこう言っていました――“仲間になったら手伝ってあげるよ、君の探し物”」


 そして彼女の表情はなんとも形容し難い顔に変わる。


「……一気に信用できなくなったんだけど。」

「確かに、伝えるんじゃありませんでしたね。」


 でも、と続ける。


「彼も魔王様に救われた魔族の一人です。古参の魔族で魔王様に救われていない者なんていませんが……彼の魔王様への崇拝ぶりを見れば、その言葉に嘘偽りはないでしょう。」

「…………」

「あなたもクロハくんにやられた口でしょう?ぶっちゃけいろいろな面で信用はできないと思いますが、何らかの力にはなってくれると思いますよ、多分。」

「……確かにあいつなら、なんか意味わからない手段でお姉ちゃん見つけられそうだけど…………」


 そう言うと、彼女はとても難しい顔をする。

 随分表情豊かですね……


「まああれが何考えてるのか、私にもわかりかねますがね……もちろん、私もお手伝いしますし、なるべくあなたの姉の手掛かりを見つけられるような任務が与えられるよう、手配いたします」


 彼女は熟考して、熟考して……そしてしぶしぶといった風に顔を上げる。


「……魔王軍に入れば」


 小さな声。


「……お姉ちゃんを、探すのを……手伝って、もらえるの?」

「はい」


 即答する。


「魔王軍は、あなたを縛るための組織ではありません。居場所を与え、力を与え、――魔族の夢を叶える組織です」


 それは、私自身が身をもって知っていること。


 セイラは、俯いたまま、しばらく動かなかった。

 だが、やがて――


「……自由に、走れなくなる?」

「任務中でなければ、好きなだけどうぞ。むしろ、走れる者は重宝されます」

「……あの、気持ち悪い悪魔と、同じ組織?」

「残念ながら」

「……最悪……」


 そう言いながら、彼女は――笑った。

 ほんの一瞬、子供のように。


「……じゃあ、しょうがない。入る、入るよ魔王軍」


 顔を上げ、はっきりと。


「お姉ちゃんを探す。そのためなら……魔王軍でも、あの変なのだって利用してやる!」


 その目は、もう迷っていなかった。


「ええ」


 私は、四天王として、そして一人の魔族として頷く。


「歓迎します、セイラ・ジューン。あなたもたった今から魔王軍の一員です」


 良くも悪くも、クロハくんの伝言は彼女の意識を変えた。

 ああ、癪に障る、これでまた貸しでも作ったつもりか。

 次、彼に出会ったら、またいつものとぼけた口調でこう言うだろう


 ――あ、猫ちゃん、仲間になった?流石ジョアちゃん!え、俺の伝言のおかげ?何それ忘れた~


 本当に、腹の立つ悪魔だ。

 どうせ、忘れず彼女の姉を見つける算段を考えているくせに。

 また、私の功績増やしたつもりかこの野郎。


「んで、私はまず何からすればいいの?人族倒しにいくの?」

「何を言っているのです?」

「え?」


 ああ、まだ言っていなかったか。

 魔王軍の活動目標を。


「勘違いしないでください。魔王軍は復讐のための組織ではありません。魔族が平穏に生きるために――人族との和平を目標としている組織です」


 それが、世界一優しく厳しい我らが王、バンギャ・チャルハノーレ様が選んだ戦い方だ。

第1章完です!

初めての小説投稿でしたが、読んでくださる方が想像よりいらっしゃり驚いております!

ここまで読んでいただき本当に光栄でございます!

ひとまず毎日投稿はここまで、続きは不定期投稿となります。

それでも今後とも御贔屓にしてくださればこれ以上の幸はございません。

引き続きよろしくお願いいたします。

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