第5話-3/7
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
昨日教わった仕事、最初は届いた荷物を転送装置を使い各部屋に移送させていく。
自分の事にはがさつで大雑把な性格の蒼太だったが仕事に関しては意外と
用心深かった。
転送装置の決定を押す直前に今一度移送先を確認してからボタンを押す。
一度間違ってしまうと一方通行の為、回収・再度移送という手間がかかることは
月姫から強く言われていたのもあるだろう。
自覚した失敗はなく、まず最初の仕事をこなした蒼太はアレテイア内を一人
闊歩し、マナの異常がないかを確認しに各所を回っていく。
やはりこれが一番ここでの作業に労と時間を費やすことになった。
それこそチェックする場所から場所への転送装置が作れないのかと思ってしまう。
マナのチェックポイントを回るだけで二時間程度の時間を消耗し、それを終えた
蒼太は食堂に足を運びコーヒーを嗜みながら軽く一休憩と体を休めた。
そうしながらここでの最後の仕事となるキャストの勤怠チェックを始めた。
昨日と同じように今日の出勤キャストは40名を超えていた。
アプリでシフト管理されていることもあってか、蒼太が行うのは出勤確認が
済んでいるかどうかのチェックだけだ。
「今日のキャストの出欠は…と」
再びコーヒーを口に運び、リストの一覧をスワイプしながら眺めていく。
「ほとんど確認済みかぁ…ある意味俺の出番がないじゃな…」
昨日は最終的に電話での連絡まで行って出欠を取ったが、今日はほぼ
パーフェクトですでに確認が済んでいる状態だった。
ただ一人を除いては…
「翼姫…ってあのツバキさんか!」
エルナとは違った意味でファナーとしてISKに来た時に世話になったキャストだ。
そして蒼太が忘れることができないキャストの一人。
何と言っても面立ちが蒼太の好みのタイプをドストライクで貫く女性だった。
一目惚れ…それ以上の感情を持って蒼太はツバキの事が気になっていた。
すぐさま、彼はツバキに月姫に習った通り、VINEでのメッセージを送ることに
した。
その後で残っていたコーヒーを一気に飲み干してしまう。
片手に持ったスマホの画面を凝視し、返信を待つ蒼太。
「ん~まだか…そんなにすぐには来ないか…」
スマホの時計を見ながらまだ1分、まだ2分と返信を心待ちにしているが既読に
すらならない画面に百面相のように表情を変えながらただ一人悶絶していた。
そうすること10分が経過し、いまだに既読にすらならない状態にしびれを
切らせて彼は昼にはまだ早いながらも食事をとることにした。
充分すぎるほど美味しいここの食事だが、今の蒼太にはそれを感じることが
出来なかった。
ほとんど味のしない食事を胃の中に流し込み、空腹を満たすだけの作業。
食事を終えると最初にメッセージを送ってから20分以上経ったこともあり、
蒼太はVINEの通話機能のボタンを押した。
呼び出し音が数度なり、無情にも自動音声で彼女が通話できる状態でない
メッセージが蒼太に告げられた。
昨日チェック漏れをしていたシノとグミはこの段階で連絡がついたが、
つかない場合の対処法を彼は教えられていなかった。
月姫に連絡を入れその対処法を確認することもできたが、彼はその打開策を
見つけるべくISKのアプリをあれこれと弄ることに没頭していた。
スタッフだけが使えるアプリで出てきたさらに細かい情報。
ツバキの情報の中に記載されていた6桁の数字と英字の羅列。
それが何を意味するか、先ほど荷物の移送をしていた蒼太はすぐに理解すること
が出来た。
アレテイア内での居住棟と部屋番号を意味する英数字…
つまりツバキが居る部屋番号に相違なかった。
VINEのメッセージも通話もできない以上、彼女に本日の出勤を伝える方法は
ただ一つ、直接彼女に伝えるしかないと蒼太は鼻息を荒くして食堂を後にした。
居住棟に足を踏み入れるのは初めてだったが、一般的なマンションとそれほど
変わったつくりをしているわけでもなく、ツバキの居るだろう部屋を探し当てる
にはそれほど時間を要しなかった。
「部屋番だと…ここかな?」
部屋ごとに添えつけられているインターフォンも防犯カメラが付いている
ごく一般家庭で見るタイプのものだった。
「良いよね?もし寝過ごしてたりしてたら連絡しないのが変だと思われるし…」
インターフォンの呼び鈴を押そうとしては踏みとどまる蒼太だったが、
繰り返すこと十数回…再度彼はVINEでの通話を試みることにした。
呼び出し音はなるが、やはり通話には至らず再び自動音声によって留守番電話
への切り替えが行われた。
そこには伝言を残さず、意を決した蒼太は眼前の呼び鈴を押した。
こちらには何も聞こえないがおそらく部屋の中には来客を伝える音が響いて
いるはずだ。
しばらくしてインターフォン越しに女性の声が聞こえた。
「えっ…あっ!あぅ…」
蒼太の予想通り人見知りな彼女らしい反応。
「ご、ごめんおしかけちゃって…
ほら、今日出勤なのに連絡しても返信が無かったから」
彼は再度スマホを操作し、出退勤の状態をアプリで確認しながら言った。
今の時点で出退勤確認が済んでいないのはインターフォン越しのツバキのみだ。
しばしの沈黙…
「ご、ごめんなさい…」
ようやく絞り出した言葉はツバキの謝罪の言葉だった。
蒼太はキャストは絶対に出勤するものだと勝手に思い込んでしまっていたことを
悔いた。
連絡をしたり、不通の場合は相手が欠勤という意味合いがあることを理解して
いなかったからだ。
何らかの状況で返信はおろか、確認もできないこともあるだろう。
ただ彼が月姫から教えられた業務としては出欠確認をしっかりとるということ
だった。
あらゆる手段を用いても連絡が取れない事態を想定していなかったし、教わって
はいなかった。
今回に至ってはあらゆる手段が訪問と言う形をとってしまったが、行き過ぎた
行動だったのだと蒼太は一人心の中で反省していた。
「今日は欠勤ってことだね」
彼女の言葉から至極当然の答えを確認する。
蒼太は再びアプリの画面を見て、出勤リストの中に出勤以外の項目があることに
気が付いた。
欠勤のチェック欄もあり、だれもそこにはチェックを入れていないが見落として
いただけだったようだ。
「あ、あの、そのごめんなさいじゃなくて…連絡入れなくてごめんなさい」
再びインターフォン越しに聞こえるツバキの声。
彼女の欠勤に残念そうに肩を落としていた蒼太の声が弾む。
「えっと、出勤?」
「は、はい…すみません、わざわざ…」
インターフォン越しに蒼太の姿はツバキに見えているが、蒼太からは彼女の姿は
見ることができない。
元気のない声を頼りに彼女の感情を予想するのはとても困難なことだった。
ただの人見知りとしても怯え消え入るような声は自分に対して苦手意識が
強いのではと推測をする蒼太。
もしかすると初対面だったあの日に強引にやりすぎたことを悔いてしまう。
「じゃあまた夜に、無理しないように」
そんな相手にあまり長居をするのも悪いと思い彼は話を切り上げ、持ち場に
戻ろうと踵を返した。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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