第5話-1/7
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
翌朝、蒼太は月姫から預かった鍵でISKの扉を開け、しっかりと戸締りを確認
した後真っ暗な中をスマホのライトを頼りに厨房の方へと向かっていった。
昨日知ったアテレイアへの近道。転送装置がある厨房の奥の個室。
扉を開ける前に仕事用のスマホを出し、アプリの起動を確認する。
「よしっ!」
気合を入れなおすと、転送装置に繋がる扉を開き、足を踏み入れた。
一瞬足元の光を感じた直後、目の前の景色が一転する。
目の前の壁が扉に変わる。壁の色も一新され、アテレイアへ到着したことを
悟った。
昨日も何度か着替えの際に通ったが、夜とはまた雰囲気も空気も変わった感じを
受けた。
なにより昨日の朝と違うのは月姫が居ないことだ。
頼れる人物がいないことに不安が募る。
が、そんなことを考えていては事が進まないため扉を開け、昨日教わった
業務をこなすことに考えを切り替えた。
その矢先、突如としてイレギュラーは発生する。
明けた扉のすぐそばで裸の女性が地面にうつ伏せで倒れていた。
見た感じで蒼太が知っている人物ではない。
一瞬誰かが蒼太を驚かすために仕組んだ罠とも思ったが、雰囲気的にそう感じ
取れるものではなかった。
念のため周囲を確認した後、足早に倒れている女性に駆け寄った。
肩を揺すって様子を伺うが、彼女は意識がないようだった。
力無くうな垂れている女性を抱き起し、蒼太は何度か声をかけた。
女性からの返事はなかった。
「…もしかして…死んでる?」
焦った蒼太は彼女の胸に耳を当て心臓の音を確認しようとする。
一瞬全裸の女性に羞恥を抱き、戸惑いはしたものの急を要すると決意を決め
心拍の確認を行った。
緊急性の高い現場を何度か経験していれば脈で確認する方法も思いついた
だろうが蒼太にその知識はなかった。
蒼太の耳に彼女の鼓動が聞こえる。
かろうじて息はしている、そのことに蒼太は安堵しほっと息を吐いた。
だが、安心するのもつかの間その女性の右手が蒼太の首を締めあげる。
しかもその手は異形の物、硬い殻をもった蟷螂の手のような鎌状の物へと変化
していた。
鎌についている鋭利ではないが先端が細くなった棘のようなものが蒼太の首筋に
突き刺さる直前で止まっていた。
「アサメシニシテハ、ゴウカナエモノダ」
「なっ!」
先ほどまで意識を失っていたはずの女性が目を爛々と輝かせ蒼太ににらみを
利かせている。
一瞬にして蒼太の背筋が凍る。
直面する死の恐怖を味わったからだ。
一気に噴き出る冷や汗…目の前の女性は捕食するために罠をかけ、蒼太を
食らうつもりでいた。
冗談でもなければ演技でもなく、女からは強い殺意を感じる。
…が次の瞬間、大きな金属音と同時に蒼太の身体は何者かに衝撃を加えられ
ゴロゴロと前方に転がっていた。
幸いにして女性の拘束から逃れ、少し距離を取ることが出来た。
「人のテリトリーで勝手は謹んでもらいたいものだ」
すぐさま蒼太の前に背を向け立ちはだかる別の女性。
どうやら彼女が倒れていた女から蒼太を解放した人物だった。
「大丈夫か?そうくん。どうやらまだ現状を理解していないようだな、
ここに来た直後なら致し方ないか…」
「えっと…え、え…」
窮地を救ってくれた人物は蒼太も見覚えがある人物だった。
いかんせんその顔に名前が一致してこない。
切れ長の目、細長く先のとがった耳、ファナーとして訪れたISKで最初に
手ほどきをしてくれた女性だ。
「名前を忘れられるのは喜ばしくないな、恵琉奈だ、エルナ」
エルナは目の前の敵と認識している相手から目をそらさずに背中越しに蒼太に
語り掛ける。
その手には剣のようなものを持っており、長身を少し前かがみに低い姿勢で
戦闘態勢を取っていた。
「あぁ、エルナ。思い出した!これは?」
「よくあることだ、新参者だからここのルールを理解していない」
2人から感じる驚異的な威圧感。
日常生活では感じることのない恐怖の類に蒼太はどっと体中から汗が噴き出る
のを感じ取った。
「だ、大丈夫?」
「これでも騎士をかじっているからな」
蒼太を安心させるために言った言葉だが、蒼太の言葉の意味合いは自分たちでは
なかったようだ。
「相手の人が…武装していないから」
「見かけで判断するのは命とりだぞ?
現にあいつの右手は私の剣でも切り落とすことが出来なかったぐらいだからな」
蒼太が解放される直前に聞こえた金属音はエルナが手に持っていた剣で相手を
切りつけたことによって生じた音だったようだ。
見た感じではどちらもまだ流血には及んでいない。
しかしながらはっきりと目視できるぐらいに裸体の女性の右腕辺りがエルナの
攻撃によって一部損傷しているのが分かった。
「切り落とすって!?」
「平和ボケというやつだな、
私たちの居た世界では命を賭すのは日常的なことだったからな」
裸体の女性は徐々に後退り2人との距離を取り始めていた。
距離にして5,6メートルと言ったところ…
「お主に告ぐが、私たちは敵対する気はない。
友好的に話を進めたいと思っているが…話は出来るか?」
まだ裸体の女性から殺気を強く感じる物の、エルナは自身の剣を鞘に
収めながら言葉を投げかけた。
「ナ、ナニモノ?」
低い体勢で四つん這いの状態になっていた相手はエルナの問いかけに単語で
言葉を返した。
蒼太にも認識できる言葉、もっと異国の聞き取れない言葉を発するかと
予想していた彼は拍子抜けをする。
「私はエルフの剣士。名前は建守 恵琉奈、
前の世界での名前は憶えていないが今はそう呼ばれている」
「わ、私は…っく、…き、り。キリだ、エンプーサのキリ」
エルナに倣い自身が何者なのかを告げるキリ。
エンプーサと言う存在を蒼太も耳にしたことはあった。
うっすらとは憶えているがそれが何の神話のどのような怪物かまではすぐには
思い出すことが出来なかった。
ただ特徴的な右手の鎌が彼女の異名である雌蟷螂を連想させるには充分だった。
「きりくんか、良い名前だ。ここはお主が思うような身の危険はない。
故にお主がまた他者を危険に脅かす必要もない」
安心感を与えるためにエルナは武器を収めた後、両手を広げて抵抗の意志が
ないことを示した。
とは言え相手もエルナに手痛い一撃を受けている。
さすがにすぐに信用しろとは説得力が足りないだろう。
「信じろと?」
「あぁ、先の一撃は申し訳ない。彼を救うために咄嗟に体が動いてしまった。
お詫びと言ってはなんだが…」
エルナは謝罪の意味を込め、軽く頭を下げ、その後に蒼太の理解できない言葉を
口から紡ぎだした。
まるでお経のような低い声で知らない言語が呪文のように続けられる。
次の瞬間エルナの手が一瞬光ったかと思うとその光は輪になり、裸体の女性の
方へと円を描きながら飛んでいく。
【ヒーリング】
キリの右腕部分にその光の環は到達し、体に当たると同時にはじけ飛び一部
欠けていた腕の部分の肉が盛り上がりを見せた。
エルナが放った呪文は相手を回復するための治癒魔法に相当するものだった。
キリは一度左手で自身の傷があった部分をさすると、肉片の復元を感じ取り
緊張を少し解いた。
「時期に馴染むさ。ここの住人がそうであるように…それより着衣だな、
そこの扉、部屋の中に衣装がある。好きなものを召せばいい」
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ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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