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7-19:終わりの前に

(´・ω・`)ちょい忙しめ

 世界は変わる。動き出した以上はこの流れを止めることは叶わず、ただただ情勢は変化していく。数値の上でそれを知ることはできる身としては、上手くことを運べるならばこの状況は利用するべきであるとする。

「……とまあ、そういうわけだから、ローレンタリアの征服とシレンディへの介入を急いでくれる?」

 主に俺が原因なのだが、ローレンタリアは王都を失い、王座が一時的にとは言え空白期間があったことで戦争中だった帝国の侵攻が加速した。そしてシレンディに至っては内乱が更に悪化。最早無政府状態と言って良く「介入して併合してしまえ」というのが俺が皇帝に出した命令である。ディバルが良く躾けていただけあって現皇帝は実に忠実で扱いやすい。俺の言葉にただ頷くだけで一言も喋ることなく退室する。

 ここは帝都にある城の一室。俺が皇帝とやり取りするためだけに作らせた部屋である。最初は豪華絢爛なものを作ろうと思ったのだが、生活水準が神器一号を上回ることができないと知って妥協した。その代わり食事に関しては一切の妥協は許していない。こんな文明レベルの低い世界の料理と言えど、贅を凝らせばそれなりのものを食べることができる。専用の料理人を用意させた上で、こちらからは調味料も渡しており、今では気が向いた時にガチャ産の食料をおやつとして食べることになったくらいには質が向上している。

 あの日、ディバルを殺してその「領域」を獲得した日から、俺はその立場さえも乗っ取った。結局のところは黒幕の代替わりだが、皇帝はこの辺りを実にスムーズに進めてくれた。おかげで特に苦労するようなことはなく、こうして毎日城に設けられた俺のスペースでダラダラしている。

「ライムー、着替え終わったかー?」

 俺の呼びかけに「今行きます」と返事をしたライムが隣の衣裳部屋から姿を現した。今回のテーマは「聖職者」である。白を基調とし、青やら金やらで刺繍された衣装は一言で言うならば荘厳。まさに魔王とは真逆の恰好である。衣装の取り寄せや作成も楽にできるのだから一国家を好きにできると言うのは素晴らしい。

 しかしそれもこれも、現皇帝「アロウフト・ロドル・ディバリエスト・ディバリトエス」だからこそであり、次の皇帝をあいつらの中から出す必要があるかと思うと気が滅入る。「いっそ長女を皇帝にして、弟を人質にして言うことを聞かせた方が良いのではないか?」とすら思えてしまう。

 僅か二か月足らずでここまで完璧に支配体制をディバルから俺へとスライドさせ、何事もなく国家運営できているアロウフトには何か褒美を与えてやっても良いくらいだ。

(寿命を延ばそうとしたら全力で拒否されたことを考えると、次の皇帝を嫌でも考えておかないといけないんだよなぁ……)

 ともあれ、あれから3か月である。そろそろ何か動きがあるのではないか、と思っているのだが……何の音沙汰もない。一つは藤井君。腕をぶった切ったのが悪かったのか、彼は帝国から姿を消した。行先はロレンシアのようだったのだが、突如として行方不明となった。これに関しては俺の力を以てしても居場所の特定ができないため、死亡はほぼ確実と見ている。

 そして次にハイロの動きだ。俺がディバルを殺してからその5日後に待ちに待った願いのオーブを引き、早速イデアの領域を分捕ることで領域全体の一割を手中に収めることに成功した。それ以降ドローンの動きがぱったりと消えたのだ。恐らく何かをしているのは間違いない。それが何かはわからないが、これではっきりしたことがある。

(自分をコピーし続けたことで、自我が薄くなっている可能性を考慮していたが……まさか乗っ取られるとはなぁ……)

 そう、ほぼ間違いなくハイロ・ライロはイデアに浸食された。でなければ、時期がこうも一致するとは思えない。正直、イデアがこの世界に直接的な干渉をするための出力装置を手に入れたと考えると頭が痛い。しかしこれは最悪の場合であって、ハイロではその役に不足している可能性だって十分ある。と言うよりそちらの可能性の方が遥かに高い。

 幾ら戦争用に生み出された強化人間と言えど、元となったのは人間なのだ。そのスペックには限界というのものがある。「それを改造している真っ最中です」と言うのであれば、この平穏も納得してしまえるのだが……ここに一つ面白い情報がある。

「戦況はどうなっておりますか?」

 そう言って全裸の俺に覆い被さり、乱れた服装で密着するライム。

「ん」

 いつもの情報画面をライムに見せ、そこに映るものを見て目を見開く。

「これは……」

「ああ、間違いない」

 そこに映るのは帝国と王国の戦争……ではなく、一人の男。しかもそれは俺が先ほど考えていた人物であり、その変容っぷりにライムは言葉を詰まらせるほどである。

「『厄災』の誕生だ」

 いや、イデアに食われたと思ったら後輩が誕生してた。世の中ほんとままならんわ。




 ガチャ産の家具「至福のベッド」の上で全裸のライムに膝枕をされている俺は大きく息を吐いた。暇潰しに戦争でも見てみようと思ったら「厄災」が生まれてやがんの、マジで意味わかんね。

「あー、でも考えようによってはコピーが消えて本体がアレ一つになったと言うべきか?」

 それで複製は打ち止め。既存のものはイデアが使用するだろうが、自由意志を持たないが故の思考ならばあまりぶっ飛んだことはできないだろうし、こちらの脅威はまだ低いと見て良い。問題は、ハイロがどんな能力を作ったか、である。

「問題はどうやって確認するか、だよな」

 そもそもの話、一体どういう経緯で厄災となったのかが不明であり、そこにイデアが介入しているとなるとまた複雑なことになってくる。「手を組んだ」という可能性だって捨てきれないのだ。

「でしたら私が……」

「ダメ。リスクに見合ってない」

 ライムに行かせるくらいなら、また分身作って特攻させる。それにこの3か月間何もしていなかったわけではない。

「俺の居場所はバレていると見て間違いないよな?」

 俺の確認にライムはこくりと頷く。だったら既に敵対しているので遠慮は無用。カードホルダーから一枚の黒いカードを引き、それを捲る。そこに書かれている日本語は「メテオストライク」――ファンタジーゲームでは割と定番のあの魔法だ。まずはメテオで小手調べ。この対処の仕方で相手の力量を測るのだ。

 実は「イデアに乗っ取られていて敵対するつもりはなかった」とか本人の意思とは無関係であったとしても、それはこちらが不利になった時に使わせてもらうネタなのでその辺は都合良く行こう。

「さて、お手並み拝見――」

 そう言い終える前に出現した隕石が極太のレーザーで消滅した。その発射地点では空に向かってビルのようなサイズの砲身となった腕を空に向けるハイロの姿があった。

「……ますます兵器に傾いたかー」

 どうやら能力を伸ばす方向にしたようだ。面倒臭さがパワーアップしてないことを祈る外ない。ただこれで一つわかったことがある。ハイロは肉体を捨てていない。厳密に言えば、獲得した「領域」が本体となったわけではない。つまりまたコピーされる前に今あるハイロの本体さえ倒してしまえばそれで終わる。

「よし、終わらせよう」

 思い立ったが吉日。俺は魔法の鞄とカードホルダーから目的の物を引っ張り出すと、それをベッドの上に並べ始める。

「取り合えず、これは『頭を打ちぬかれた』分」

 そう言って指で触れた人差し指くらいの人形が光となって消え、画面の向こうではハイロの頭部を弾丸が貫通した。だが当然この程度で死ぬほど「厄災」というのは甘くはない。ディバルのように、その力の大半を戦闘部分以外に使用しているなら話は別だが、兵器であるハイロがそのような使い方をするはずがない。故に畳みかける。

「お次はこれ」

 黒のカードを捲り「ICBM」と書かれたそれが消え、ミサイルの接近を感知したハイロが迎撃すると大きな爆発が起こり画面が乱れる。

「残念、カードの能力だから的確な破壊とか無意味で爆発するんだな、これが」

 勿論これだけでは終わらない。相手は厄災――油断なんぞ絶対にしてやらない。再び捲ったカードは「崩壊」。空間に干渉するが故に通常手段では防御不能という中々に厄介な攻撃。惜しむらくは空間への干渉能力があまり高くないので対イデアには向かないこと。だが厄災化したばかりのハイロには丁度良いだろう。

「次は……これで良いか」

 そう呟いて手を伸ばした先にあるのは見た目そのままの悪魔の像。「相手を呪う」的な見たまんまの効果のものだが、どうも魔法とは違った属性を持つ良くわからない何か、である。故に、行動阻害としては多分相手が「領域」を持っていたとしても通用するのではないだろうか?

 そしてこれまでの全部が言わば前座。本命はこちらだ。

「『拡張』『連結』かーらーのー、もういっちょ『拡張』しての『圧縮』」

 これ全部白金のカード。黒のカードを差し置いての本命だが、このコンボはかなりの自信作。何せ俺がいつも使う情報画面越しからの攻撃である。しかもまともに食らえば人間サイズのものならばゴルフボール程度まで圧縮する攻撃。厄災と言えど、これの効果範囲に入ってしまえば抵抗はできても足が止まる。

「そこに止めの『消去』っと」

 これがコンボの締めである。説明するとまずは「拡張」で「連結」の効果をUPさせ、三枚までカードの効果を繋げられるようにする。そこに「拡張」を使い続く二枚を強化。これにより画面越しの攻撃が可能となり、「圧縮」での足止めから「消去」による長射程確殺コンボとなるのだ。白金と侮るなかれ。レアリティの差が戦力の決定的な差ではないのだ。

「さて、これの対処をどうやってしたかによっては出向く必要があるが……」

 流石にこれで終わりなどとは思わない。幾ら生まれたてとは言え、それで終わるようなら願ったりだがそんなことはあるはずがない。自分が「厄災」であるが故に、その力を見誤るなど以ての外だ。

「さあ、どうやって凌いだ? そこからどうやって俺に挑む?」

 そんな呟きに答えるように、俺がいた場所を光の剣が薙ぎ払う。当然そんなものには当たらない。

「よお、久しぶりだな」

 俺は笑顔で声をかけるその先には、表情のない全裸の後輩がいた。そして俺の前に立つ全裸のライム。勿論俺もまだ全裸のままだ。


 どう見ても3P現場です。本当にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 藤井君をやったのはハイロか? 他に彼を倒せるレベルの人間がほぼいないし。
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