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7-18:厄災戦

 エレベーターの前に到着後、しばし腕を組み考える。折角なのでここは個性的に行きたいところである。魔力での攻撃は無意味――ならばやることは一つ。そう、物理である。俺はゴソゴソと上着のポケットを探る真似をしつつ、ポイントを使って細長い円筒状の物を取り出した。

「ダイナマイトー」

 口調を若干某猫型ロボットに寄せつつエフェクトまで付け……ようとしたが、三次元でやると結構手間だ。こっちは諦めよう。追加でライターを取り出したが、余り気味の銅カードで点火しても良かったな、と両手にある物を見比べながら気が付いた。

 ということで扉を開けて籠を一度下に下ろし、点火したダイマナイトを投下。爆発後に下を覗き込むが、然したる変化は確認できない。物理的な防御も高いようだ。予想はしていたので特に何も思わない。取り合えず、ドアのノックとしては十分だろうと俺はエレベーターの縦穴に飛び降りた。ここから先は魔力ゼロの空間なのでライムは一時お留守番だ。

 籠の上部にすっと着地した俺は、天井部分を開いて中へ入ると開かれたままの扉からディバルのいる地下室へと堂々と入っていく。

「よう、さっきぶり」

 軽く手を振る俺に起き上がったカプセルの中でディバルは忌々し気にこちらを睨む。

「ここに来る……ということは私を倒す算段があるつもりか? 面白い、この牙城を崩せるものなら崩してみろ」

 歩いて近づく俺はその言葉にディバルの自信を読み取る。そしてそれは納得できるものではある。

「そうだな……残念ながら、俺でもこの地下施設をどうこうするには最後の切り札を切る以外手段はない。もっと言えば、そこまでするくらいなら撤退する。実際、お前さんの能力を知るまでは誘い出せないならやり方を変える必要があることも視野に入れていた」

 俺の歩みは止まらない。あまりにも無警戒に近づく俺に何もしないことで確信はより強固なものとなる。

「お前さんの能力は言ってしまえば『領域の加工』だ」

 その場になかったものを取り出す、または消す。今の俺が変換不可能な物質など「この世界では」存在すること自体あり得ない。そのことからこの外壁がディバルの能力であることは確定。また「領域」そのものである可能性も浮上した。

「幾つか能力を見てきたが……突然椅子を出現させる。不可視の攻撃にこの外壁。確信を得たのは外壁だったが、俺を圧殺して消滅させたのは悪手だったな。魔力が存在しない空間であんなマネをすれば『魔力を使っていますよ』と言ったも同然だ」

 それはつまり、ディバルの能力は「領域」で魔力と同じことができると言ったに等しい。確かに一つの能力で複数の力を持つことは珍しいが、なくはない。俺という例外がそうであったように、複数のスキルを持つが故にというパターンや、サフィヨスのように同系統の能力に加え、制約を設けることで「条件付きで」可能としたケースもある。

 しかし、スキルは基本的に一人一つである。真の勇者で二つだが、ディバルはそれに該当しない。故に、関連付けできない能力は使えない。だから答えは絞られる。

「ディバル……お前、この距離にいる俺をどうにかする手段がないんだろ?」

 果たしてそれは図星だったか?

 突如強烈な衝撃が俺を襲うが、そんなものでどうこうできるほど甘くはない。物理的な手段での排除など試みるだけ無駄である。それを理解できない……いや、していないのはディバルが肉体を捨てていないことからそう言った発想すらない可能性すらある。コールドスリープを用い、その肉体を長期に渡って酷使していることからも、警戒すべき能力ではないと判明した時点でディバルに勝ち目はなくなっていた。できることがあるとすればただ一つ。それが消耗戦という嫌がらせだ。

 しかし、このディバルの領域内に入ってしまえば、俺もできることが限られてくる。有体に言えば、ディバルは防御特化型ということだ。だから侵入した俺をどうこうする手段はなくとも、逆に何かしようにもできることがほとんどない状態となる。

(だがそれは通常ならば、の話だ)

 俺は十分に接近したところで立ち止まり、片手を前に出して掌を上に向ける。身構えるディバルを憐みの目で見据え、あるものを顕現させた。その直後、ディバルの窪んだ双眸が見開かれた。

「おま、えは……!」

 憎悪――正しくそう呼ぶに相応しい感情を露わに俺を睨みつけるディバル。それもそのはず、俺が掌の上に出したものは「イデアの目」である。それが何を示すのかを勘違いすれば、そのような反応もおかしくはない。

「勘違いするな。これは俺が分捕ったものだ」

 ディバルの勘違いを正し、俺は少し説明をしてやる。

「俺はな、このイデアの目を踏み台にして『領域』を奪うことに成功した。そのおかげでこうしてこいつを使うこともできる。するとどうなると思う?」

 何が言いたいのかわからないのであろう。ディバルはただ警戒を最大限に引き上げ、何が起こっても対処できるよう身構えている。それが無意味とわからずに――

「このイデア目には色々能力があってな……ある程度は知ってはいると思うが、その中に『浸食』というものがある」

 その言葉の意味を理解した時にはもう遅かった。警戒しなければならなかった相手へと視線を向けるように顔を上げた直後――一筋の光がディバルの頭部を貫いた。

「穴を開けさせてもらった。魔力を通すことができる小さな穴を」

 その意味は言わずもがな、ライムの攻撃を通せる穴である。イデアの目の浸食を使いライムとディバルの間に一本の線を通す。それだけで十分だった。肉体を持ったままであるが故の致命的な弱点である。

「まあ、この外壁は確かに厄介だ。しかしな、こんなところに『領域』の大部分を使用してまで、お前は仲間の帰る場所になろうとしたことが敗因だ。肉体を捨てるだけの分すら残さず、同じように生きて耐え抜くことで贖罪しようとしたんだろうが……当人は恐らくそんなことは望んでなかっただろうよ」

 俺はディバルの亡骸に説教していた。頭を貫かれたので即死だったのだが、どうやら俺は人間だった頃の感覚が少し抜け落ちてきているようだ。俺は一つ溜息を吐き、この世界へと還元される「領域」を全て手に入れる。これで当面の間は戦闘はないだろう。一先ず俺は崩れ始めた地下から脱出し、エレベーターの入口前で待ち構えていたライムに抱きつかれる。

「おかえりなさいませ、お父様」

「ん、戻った」

 俺が無事ディバルの領域を確保したことを確認したライムは祝いの言葉を述べ、俺はそれを素直に受け取る。さて、ここからが面倒なところである。まずは皇帝に会いに行く。帝国の乗っ取りは果たしてすんなりと行くだろうか?




「そうか……あの方は亡くなられたか」

「ああ、ただその力はしっかりと奪わせてもらった。というかそれが目的だったからな」

 形容するならばまさに血の海。皇帝を守護する者達の残骸が撒き散らかされた玉座の間で、王座に座る男に帝国を支配していた一人の異世界人の最期を語って聞かせた。

「それで、そなたは私に何を望む?」

「んー、今までとは変わらんな。ただ背後にいるのが俺かディバルか、というだけの違いだ」

 俺の言葉に皇帝は俯き「そうか」とだけ呟いた。

「一応力を見せるという意味も込めて、この中から一人生き返らせて見せるが?」

 この提案に不要とばかりに頭に振る皇帝。どうやら重要な人物はこの血だまりの中にはいないようだ。取り合えず面倒なことは全部皇帝に任せればよいか、と一段落したことに安堵したその時、一人の少年が玉座の間に現れた。

「どういうことだ、これは!?」

「おや、何時ぞやの……」

 名前が出てこずそこで止まった。

「どういうことだと聞いてんだ、おっさん!」

 ツンツン頭の少年が物怖じすることなく俺に詰め寄って……来ることはなく、血だまりを避けるように迂回しつつ距離を詰めてくる。

「思い出した。藤井君だ。うん藤井君、何か用かな?」

「『何か?』じゃねぇだろ……これはどういうことだ!」

 身振り手振りでこの部屋の惨状を訴えるが、もしや俺がここに来るのが早すぎて何も聞いていないという可能性が出てきた。

「見ての通り人形の残骸だが? それともしかしてディバルと話をしなかったのか?」

「話ならした! だからこれは何なんだ!?」

「邪魔だから壊しただけだ。ああ、気に入った人形でもあったか? 蘇生させようか?」

 俺の言葉に「そうじゃねぇ!」と怒りを露わにする少年。ディバルから話を聞いているならこんなバカな問答をしないと思うのだが……彼は理解力が乏しいのだろうか?

(いや、待てよ……何か都合の良いように吹き込まれている可能性もあるな)

 そう思い直し、声をかけようとしたところで少年が背を向けて退出する。皇帝もいるのに無礼なやつだ。

「このことはディバルさんにも言っておくからな?」

「いや、もう死んだぞ?」

 そう言って立ち去ろうとする少年の背中に向かってディバルがもう死んでいることを伝えてやる。その瞬間ばっと少年が振り返ったところでこう付け加える。

「ディバルの『領域』……あー、力は全部俺が貰ったから、一応同じ日本人だから何かあれば――」

「何やってんだよ……」

 多少の便宜は図ってやる、と言おうとしたところで遮られた。隣のライムが若干キレかかっているのが空気でわかる。

「何で殺してんだよ! あの人が、召喚された異世界人のために何をしているか知ってんだろ!?」

 俺には彼が何を言っているのかさっぱりだったが、これはもしかして「人を殺すな」とかそういう意味なのか?

 まさかとは思うが、ここは日本でもないのに人ではない、それどころか生きてすらいないものを、しかも敵であるものを壊すな、と先ほどは怒っていたのだろうか?

「しかも殺して、貰った? それって奪ったってことだろうが!」

「そうとも言うな」

 笑う俺に拳を突き立てるように向ける藤井君。スキルを使う態勢に入ったようだが、俺のお隣さん皇帝だからな?

「人を殺してまで……力が欲しいのか、あんたは!?」

「うん? 必要だが?」

 力が必要だから殺して奪ったのに何を言っているのだこいつは、と呆れ顔で少年を見る。どうもこの少年とは言葉が通じていない。もしかして別世界の日本とかいうオチか?

 仕方がないので、ここは一つ人生の先輩として説教してやることにする。

「あのなー、俺は元の世界に戻ることも視野に入れてんの。だからそのためにはこの世界を改変した強大なシステムに立ち向かわなきゃならない。力なんて幾らあっても足りないんだよ。それこそ、過去に召喚されてそのシステムに立ち向かうも、何もできなかった連中の力を集めても全く足りていない。大体、この世界に拉致されて日本に何もかも置いてきているってことは全財産や交友関係全部奪われたと同じなの。その上で殺されかかってんのにどうしてこの世界に住む連中のことを気に掛けるんだよ? お前さんちょっと危機感足りてなさすぎるぞ」

 今度は口を挟ませないように一気にまくし立ててやる。少年は俺を指差し何か言おうと震えているが、多分口を開くと死ぬことになる。なので俺はライムを宥めるように引き寄せ、その豊かな胸に指を埋める。

「んな、な、なにやってんだ!?」

 傍から見れば突如のセクハラかいちゃつきである。一応これでもお前さんの命を救ってやったのだが、それがわかるはずもない。だからもう「わからせてやる」ことにした。

「ライムー、腕一本な」

 そう言ったと同時に少年の腕が宙を舞う。余程我慢していたのか、最速記録レベルの速攻である。

「ほら、ポーションだ」

 俺が投げた瓶を手に取ることなく蹲る少年。

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 右腕で切断された左腕の面を抑え、叫び声を上げているところに俺の投げたポーションが着弾。頭から被った液体が切断面にまで流れると少年は困惑した顔で叫ぶことを止める。恐らく痛みが引いたことに困惑しているのだろうが、彼はゲームをやらないのだろうか?

「ほら、もう一個。それで切断された腕くっつけろ」

 流石にこれ以上は面倒が見切れなくなった俺は少年を無視することに決め、皇帝と必要な取り決めを交わすことにする。傀儡の皇帝と自虐するだけあってこちらはすんなりと収まった。上手くディバルの支配体制を継承できれば良いのだが……それを知るには時間がかかる。ここまで来たのだから力を貸してでも成功させよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 支配とかできるのだろうか… 面倒臭くて投げ出しそう
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