7-20:勇者来たりて
取り敢えず服を着るように促してみたが、返ってきたのは問答無用の斬撃。当然そんなものが通用するはずもなく、華麗に距離を取った俺はそれはそれは見事な早着替えを披露する。同様にライムもいつもの魔術師っぽい黒のドレスローブへと衣装替え。
「ほれ、お前もさっさと空気読め。どうやって現れたかは知らんが、それじゃただの変質者だ」
割と大真面目にハイロがこの場所に出現した手段が不明である。座標指定による転移であることはほぼ確実と見て良いが、どういう手段で飛んできたのかがさっぱりわからない。座標に関してはこれまでの能力から特定は容易のはずなので、条件自体はそう厳しいものではないが、転移に対する警戒網をあっさりと潜り抜けられたのは解せない。
(持ってる能力から想定される範囲内ではどう考えて……も?)
注視するようにハイロを見た瞬間――思考が飛んだ。
「おいおいおいおい……マジか?」
その姿を確認した時、俺は「領域を保持している」という確信があった。だからこそ、俺はハイロが厄災となったと判断したのである。しかし、目の前のハイロは違う。
「一体いつからジョブチェンジしたんだ?」
返事が来ることを期待していたわけではないが、ついついそんな言葉が出てしまう。そしてそれと同時に無数の魔力線がハイロに襲い掛かり、その攻撃を避けた先に放たれた一撃が部屋ごと目標を吹き飛ばす。
「あー、そりゃ抑えきれんわなぁ……」
俺が見たもの二つのギフト。「聖杯」に「犠牲」――即ち「魔王」を殺すための「勇者」である。召喚された勇者が本物の「勇者」になって帰ってくるとか流石に予想外である。
「申し訳ありませんお父様。思うように体を動かすことができず、戦闘の回避は不可能のようです」
「だろうなぁ」
こんなことならさっさとイデアとの接続を切っておくべきだった。
(あればあるで便利だからと放置したツケがこんな形で支払う羽目になるとは……)
しかしこれでわかったこともある。ハイロがイデアに取り込まれたのは確定。一体何をしようとしてしたのかは知る由もないが、少なくともイデアに干渉しようとした結果であることは間違いないだろう。
「葵を切り捨てたのは何処かでヒントを得たからか? だとしても……ってそう来たかー」
部屋を破壊した土煙から姿を現したのは二人のハイロ。これまでならばただのコピーで済む話だが、今はもう別の意味がある。
「ライム、可能な限り殺すな!」
恐らくわかっているのだろうが、それは「魔王」という役割が許さない。再び展開された魔力線に片方のハイロが引き裂かれ消滅する。同時に犠牲となったコピーが器へと力を注ぐ。
「酷いコンボだな、おい!」
要するにコピーハイロを倒すと「勇者」の能力で本体が劇的にパワーアップする。本来ならば仲間が殺されたことで発動するはずのものが、ほぼ無限に生み出せるコピーでOKなのだから恐らく改変が入ってる。ともあれ、このままライムを戦わせるわけにはいかない。俺は「転移」を発動させてライムを飛ばす。こいつの相手は俺がする――と思ったらハイロが消えた。
「ちょ、おま!」
飛んだ先は言わずもがな……俺は慌てて転移で追いかける。そして飛んだ先は空の上。空中戦は初めてである。
「ライム! わかっていると思うが……ダメだな、ありゃ聞こえていない」
荒い息遣いで親の仇でも見るかのような血走った眼でハイロと対峙するライム。互いに「何が何でも倒すべき敵」として存在する以上、制止は不可能と判断するしかない。つまり、ここに横槍を入れてハイロを始末しなくてはならないのだが……知っての通り、ほとんど残機無限の相手に決定打がなかったことは言うまでもなく、相性の都合上時間をかけ過ぎればライムが倒れる未来しかない。
(最悪は願いのオーブを切るしかないが……)
それが目的なのではないか、という疑念も拭えない。何故ならば、今のハイロでは俺を殺すことは不可能だからだ。ただ単に現状最大の脅威である俺に与する「魔王」を排除するために「勇者」をぶつけたと取れなくもないが、実に良い手である。そもそも、俺の基本攻撃は以前と変わらぬカード頼み。つまりはポイントがなければ攻撃手段が極端に限られてしまうという弱点がある。この有限で効率の悪い能力をカバーするのがライムだ。
つまり俺を攻略するならば、まず初めにライムを排除するというのは理に適っている。だからムカつくのである。ピンポイントにこちらの痛いところを突いてくるのが腹立たしい。例えるなら某電車のゲームでCPUがプレイヤーの手番を奪うカードを使用。手札を全て捨て去った挙句、所持金をゼロにしてくるくらいのレベルである。
とにかく今はハイロの転移を止めるなりしてライムから引き剥がす必要がある。現状の手札ではできることがすぐには思い浮かばない。交戦中のライムとハイロの妨害を行いつつ、何かないかと魔法の鞄を手元に召喚。飛んでくる流れ弾を食らいながらも取り出したるは一本の斧。
「いらん!」
記憶が確かなら風を操る系の能力を持った武器である。怪獣大決戦を前に手斧一つで何ができると言うのか?
「ああでもないこうでもない」と青い猫型ロボットよろしく鞄からアイテムを引っ張り出す。その間にも戦闘は激化し、三体目のコピーが倒されハイロがさらに強化される。恐らくだが後三体倒してしまえば戦況は拮抗し、それ以上となるとライムが押され始めるだろう。
「こっちからも攻撃……は意味がない! どうにかして本体の強化――ん、この場合はどうなるんだ?」
ハイロを倒してもコピーが新たな本体となる。ならば今の本体を倒せば現在の強化分はどうなるのか?
取り敢えずタイミングを見計らい「崩壊」を使用してまとめて殺す。一時的とは言え「勇者」が消えたことでライムが正気を取り戻す。「申し訳ありません、お父様」と頭を下げるライムを撫でてやり、ハイロが再び現れるのを待つ――が、何も起こらない。俺は首を傾げつつも、一先ず地上に降りようとライムの手を取った。
「……?」
見た目でわかる違和感。ライムの手が膨れており、反応が明らかにおかしい。そして俺が声をかけようとしたその瞬間――ライムが爆ぜた。
「え?」
血と肉片をまき散らし、空中で弾け飛んだライムの中から出てきた腕が俺の心臓を貫く。
「『蘇生』発動! ちょっと来てもらうぞ!」
全身が内側から吹き飛ばされたライムの肉片が、カード発動と同時に一瞬で集まりライムの姿を構築する。それを見届けると同時に「転移」を使用し、心臓を貫かれたままこの場から移動する。そして再び消えるハイロ。行先はわかっている。なので「転移」の効果を再現し追いかける。同時にライムへの攻撃をインターセプト。タネはわかったが予想以上に厄介だった。
「ふー……」
意識が戻っていないライムを確保し、一度「転移」で距離を取る。それからライムの体内にあるものを「変換」を利用し除去。能力で作られたものであるが故にポイントにはできないが、消すことはできるように急遽改変せざるを得なかった。
「ナノマシンとはな、やってくれる」
どうやら向こうの科学技術は想像以上に高いらしい。こっちの感知能力を潜り抜けることができていたのは想定を超えている。そして、再び俺の前に現れたハイロを見て答え合わせをする。
「要するに、だ。お前さんは自分の能力で生み出した兵器と位置を入れ替えることができるわけだ」
俺を倒すには及ばない。しかし先ほどの結果を見れば、ライムを殺すには十分過ぎると断言できる。流石は「勇者」とでも言うべきか?
「魔王」では「勇者」には勝てない。そうなるようにできているのだから。無表情のままのハイロを前に俺は大きく溜息を吐いた。守りきることはできない。ならば、切るしかない。
「一応褒めておいてやる。お前は、間違いなく俺を追い詰めた」
その気になってしまえば、後はもう簡単だ。願うことをシンプルに、そして確実に。手持ちのポイントのほとんどを使用し、生み出された最後の切り札。俺は願いを口にする。そのただ一言の前に――
「それを待っていた」
突如聞こえた声。なくなった腕と願いのオーブ。振り返ると隣にはパイロットスーツのよう恰好をしたハイロがおり、その手には俺の腕からもぎ取った願いのオーブがあった。そして俺の目に映る情報がある一つの事実を伝えている。
「……オリジナルのご登場かよ」
目の前にいるのは複製品ではない。最初で最後の、本物のハイロ・ライロである。
(´・ω・`)次回で終わり。




