第二章 第25話:明かされた過去と現世の毒牙
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平和な城に突如として現れた、現世の空気を持つ謎の男。彼が持ち込んだ「過去の残響」は、由香がずっと心の奥底に封じ込めていた忌まわしい記憶と、現世の醜い悪意を再び呼び覚ますものでした。緊迫が走る第25話をお楽しみください。
城のエントランスに響いた、掠れた男の笑い声。
ボロボロの外套をまとい、這うようにして侵入してきたその男を、ガルドは冷徹な眼下で見下ろしていた。その巨体から放たれる圧倒的な覇気だけで、男は全身の骨を軋ませるように震え上がっている。
「……裏切り者、だと?」
ガルドの低く響く声には、怒りよりもむしろ呆れと、不快感を露わにする冷ややかな響きがあった。
「こんな地獄の底まで這い上がってきて、開口一番に吐き捨てる言葉がそれか。お前は何者だ。その汚い言葉の意図を説明してもらおうか」
男は苦しそうに喉を押さえながらも、歪んだ笑みを消さなかった。
「げほっ……! ふ、ふざけやがって……。俺のことが分からないか、由香……お前の『元・上司』だった、佐伯だよ……!」
その名前を聞いた瞬間、由香の背筋に冷たいものが走った。
――佐伯。
現世にいた頃、由香が勤めていたブラック企業の、あのねっとりとした視線と理不尽なパワハラを繰り返していた最低の上司。自分の手柄を横取りし、逆らう者を精神的に追い詰めることしか頭になかったあの男が、なぜこの地獄の深層にいるのか。
「佐伯……っ、なんで、あんたがこんなところに……!?」
由香は赤ん坊のアルドをガルドの背中にしっかりと庇いながら、信じられないものを見る目で男を睨みつけた。
佐伯は這いつくばったまま、嘲笑うように血走った目を剥いた。
「なんで、だと……? お前が突然会社をバックレて、行方不明になったせいで、俺がどれだけ上の連中から詰められたと思ってるんだ……! お前のせいで俺のキャリアはめちゃくちゃだ!」
佐伯の目は、狂気に満ちていた。人間界での自分の失態や落ちぶれた現実をすべて由香のせいにし、執念だけでオカルト的な手段や闇のルートを伝って、この深層の境界までたどり着いたのだという。
「お前みたいな底辺の役立たずが、こんな地獄の王様と結ばれていい思いをしてやがる……そんなの許されるわけがないだろう! おい、そこの化け物王! こいつはな、現世じゃ会社の金をちょろまかそうとした嘘つきの泥棒女だぞ! そんな女に騙されて――」
佐伯が喚き散らしたその瞬間。
ゴウンッ!! と、城の空気が一瞬で凍りついた。
ガルドが動いたわけではない。ただ、ガルドの怒りが限界を超えたとき、周囲の空間そのものが恐怖で悲鳴を上げたのだ。
「……泥棒、だと?」
ガルドの赤い瞳が、地獄の業火のように凄まじい光を放った。その声は低く、地底から這い出る死神のそれよりも冷たかった。
「我が妻を侮辱し、その過去の泥を塗りたくろうとは……。生きてこの城から帰れると思うなよ、虫けらが」
ガルドが指先をわずかに動かしただけで、佐伯の周囲の重力が何倍にも跳ね上がり、彼の巨体は地面へと叩きつけられた。
「ぎゃあぁぁっ……!? 重い、体が潰れる……っ!!」
佐伯は圧倒的な恐怖に顔を歪め、初めて自分が踏み込んではならない「本物の怪物」の領域に足を踏み入れたことを悟り、絶叫した。
しかし、由香は静かにその場に進み出ると、ガルドの大きな袖をそっと引き、冷ややかな瞳で佐伯を見下ろした。
「待って、ガルド。こいつを今すぐ殺すのは簡単だけど……それじゃあ、あまりにも生ぬるいわ」
由香の声には、かつて現世で理不尽に耐え続けていた頃の怯えは一切なかった。あるのは、すべてを自らの力で乗り越えた者だけが持つ、圧倒的な強さと気高さだった。
「佐伯。あんたは自分の無能さを私のせいにし、ここまで這い上がってきたんでしょ? ならば見せてあげるわ。あんたが嫉妬し、踏みにじろうとしたこの世界で、私たちがどれほど誇らしく生きているかをね」
現世の毒牙が持ち込んだ過去の残響は、かえってガルドと由香の絆を揺るぎないものとして証明する最高の舞台と化そうとしていた。
第二章第25話「明かされた過去と現世の毒牙」をお読みいただき、ありがとうございます!
突然現れた謎の男の正体が、由香の元上司・佐伯であったことが判明し、現世の悪意が地獄にまで持ち込まれる緊迫のエピソードを描きました。由香の過去のトラウマを真正面から打ち破る強さと、ガルドの怒りが爆発する展開を楽しんでいただけたら幸いです!
そして次回、第26話では、佐伯の企みを完全に打ち砕き、由香が自らの過去に完全に決別する爽快なクライマックスを描きます……!
「元上司クズすぎて胸糞だけど、由香ちゃんが強すぎて惚れ直した!」「ガルドの怒りゲージがマックスなの最高」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをよろしくお願いいたします!
それでは、第26話でお会いしましょう!




