第2話:10日間のタイムリミット
第2話をご覧いただきありがとうございます。
理不尽な地獄のシステムに放り込まれ、生き残るために荒野へと踏み出した由香。温もりを知らない彼女が、地獄の最底辺でどうやって最初の牙を剥くのかを描くサバイバル回です。
冷徹な生存本能と、容赦のないダークな世界観をお楽しみください!
足元を這う泥は、生暖かい血の匂いを放っていた。
振り返ってもそこにあるのは、どこまでも続く赤黒い荒野と、不気味にうねる瘴気だけだ。現世の記憶は遠く、いま由香を動かしているのは、「絶対に這いずり回るだけの奴隷にはならない」という剥き出しの執念だけだった。
「――おっと、新入りのガキじゃねえか」
低い足音とともに、前方の岩陰から不気味な影がぬっと現れた。
人間の形をしていながら、皮膚は青黒くただれ、口元からは鋭い獣の牙が覗いている。下級の「鬼人」だった。彼は濁った目で由香を品定めするように見据え、いやらしい笑みを浮かべた。
「鬼族としての猶予が10日だっけか? そんなヒョロガキじゃ、明日までもたねえよ。なぁ、その肉を少し分けてくれねえか。代わりに、この荒野の歩き方を教えてやるよ」
言葉の裏にあるのは、あからさまな侮りと略奪の意図だった。
現世でも、学校や街でこういう連中に何度も出会ってきた。弱みを見せれば食い物にされ、媚びればさらに踏み潰される。だから由香は、反射的に動いた。
「――うるさい」
低く冷たい声と同時に、由香は地面を蹴った。
手元にあるのはナイフの幻影――しかし、地獄の冷気を纏ったその刃は、現世の鉄よりも遥かに重く、鋭く実体化していた。
鬼人の男が驚愕に目を見開く。その喉元めがけて、由香は一切の迷いなくナイフを突き立てた。
ぐちゃり、と肉を断つ嫌な感触が手に伝わる。
黒い血が飛び散り、鬼人の男は断末魔の叫びを上げる間もなく、泥の中に崩れ落ちた。絶命したその瞬間、男の身体から微光を放つ赤い粒子が剥がれ落ち、由香の胸元へと吸い込まれていく。
『貢献度:上昇。鬼族としての残り時間、プラス24時間』
脳内に直接響くような冷徹なアナウンスが響いた。
由香は息を荒げながら、返り血に染まった手を自分の目でじっと見つめる。
奪わなければ、奪われる。
殺さなければ、殺される。現世の底辺で身につけた処世術は、この本物の地獄でも全く同じように通用した。いや、むしろこの世界では、その冷酷さこそが正義なのだ。
「……まだまだ足りない」
10日間の猶予を延ばすためには、こんな下級の鬼人では何十匹も狩る必要がある。さらに奥へ進めば、より強大な存在が待ち受けているはずだ。
恐怖心は不思議と微塵もなかった。彼女の心は、現世で凍りついたままの硬質な刃のようだったからだ。
由香は血に濡れたナイフを振るい、さらに深く、暗い地獄の荒野へと歩みを進める。
タイムリミットの時計は動き続けている。最底辺からの這い上がり、その第一歩を血で染め上げながら、少女はただ生きるために牙を研ぎ澄ませていった。
第2話「10日間のタイムリミット」をお読みいただきありがとうございます!
無機質に、そして容赦なく下級の鬼人を狩り、貢献度を稼いでいく由香の姿を描きました。人間だった頃の環境が彼女をここまで冷徹な戦闘狂へと育て上げてしまったわけですが、この「容赦のなさ」が今後の物語でどう響いてくるのか……。
次回、第3話では、さらに奥地へと足を踏み入れた由香の前に、いよいよ圧倒的な「強者」の影が忍び寄ります。
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それでは、第3話でお会いしましょう!




