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地獄の底の鬼嫁生活:人間を捨てた少女は、最凶の鬼に愛を知る  作者: 凪塩 未来


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第1話:現世の終わりと地獄の始まり

主人公の富士由香は、身寄りがなく、人間の温もりを知らないまま理不尽な現世で心を凍らせて生きてきた少女です。そんな彼女が死後に落ちたのは、貢献度と暴力が支配する過酷な「地獄」。

誰かを信じることも、優しさを知ることもないまま、生き残るために「奪うこと」だけを選んできた彼女が、圧倒的な強者である「鬼人」と出会い、絶対服従の婚姻という歪な関係を通じて、少しずつ人間性を取り戻していく――そんな物語を目指して執筆しています。


冷徹でトゲだらけだった少女が、命の重みと本当の意味での「愛」を知り、世界を敵に回してでも「守る」ために戦う姿を見守っていたら幸いです。

血と狂気、そして少しの温もりと溺愛が入り混じるダークな世界観を、どうぞ最後までお楽しみください!

富士由香は、いつだって世界から冷たく見放されていた。


どん底の貧困にあえぐ母は、酒と薬に溺れた末に冷たいアパートの一室で息を引き取った。母の死体を発見したその日、由香を待ち受けていたのは悲しみではなく、逃走資金欲しさに他人の家へ押し入った挙句に捕まった実の父親のニュースだった。

「犯罪者の娘」


その烙印を押された瞬間から、由香の周囲から温かな光はすべて消え去った。学校では容赦のないいじめの標的にされ、教師たちは面倒事を避けるように彼女から目を背けた。生きるためには、誰かを蹴落とし、奪い、利用するしかなかった。他人に優しくすれば踏みにじられる。だから由香は心を凍らせ、全身にトゲを纏う野良犬のようにして日々の泥水をすする生活を送った。


そして十五歳の冬。

いつものように買い物をした帰りの横断歩道で、目の前を突っ走ってきた暴走トラックが由香の小さな体を容赦なく跳ね飛ばした。宙を舞う瞬間、視界の端に映ったのは、灰色の冬空と、自分の人生と同じように何の意味も美しさもないアスファルトの冷たさだった。


――ああ、やっと終わる。

痛みのない意識の遠ざかりの中で、由香はどこか晴れやかな諦めを抱きながら、完全に闇へと落ちていった。


目を覚ました時、彼女は驚くほど静かな空間に立っていた。

そこは空がなく、ただ赤黒く燻る巨大な岩壁がどこまでも続く、底の見えない大峡谷のような場所だった。足元には不気味に脈打つ黒い泥が広がっており、遠くからは絶えず獣の咆哮と人々の悲鳴が混ざり合った異様なざわめきが聞こえてくる。


「――ようこそ、新入りの魂よ」


突然、耳元で低く這うような声が響いた。

振り返ると、そこに立っていたのは、人間とは似ても似つかない異形の存在だった。血のように赤い肌に、額から捻じ曲がった黒い角を突き出し、背中には煤けたボロ布を纏った巨大な男。その目は冷酷な光を湛え、虫けらを見るような目で由香を見下ろしている。


「ここはどこだ……?」

由香が掠れた声で問うと、男は乾いた笑い声を上げた。

「ここは現世の続きじゃねえ。魂の底、正真正銘の『地獄』だ。お前は死んだ。そして、このクソみたいな階層に放り込まれたってわけだ」


男が告げた地獄のルールは、由香の想像を絶するほどに理不尽で、残酷なものだった。

この地獄では、すべての魂に「貢献度」という名の数値が割り振られる。貢献度は日々の労働や暴力、あるいは他者からの略奪によってのみ変動し、その数値によって身分が厳格に固定される。


最下層の者は泥水を啜り、獣の餌となる「奴隷」そこから這い上がった者だけが、わずかに人間らしい衣食住を与えられる「鬼族」としての権利を手にできるという。


「ただし、現世から堕ちてきたばかりのガキに、最初から恩恵などねえよ。お前のような底辺の魂に与えられた『鬼族』としての猶予は、たったの『10日間』だ」


男は冷酷に言い放つ。


「10日間のうちに、自分の力で貢献度を稼ぎ、上の地位を買い続けられなければ、お前は問答無用で這い上がれぬ『奴隷』の身分に堕とされる。奴隷に落ちた者がどうなるか……まあ、知りたいなら明日を迎えてみることだ」


突きつけられた宣告に、由香は息を呑んだ。

10日間の猶予。生き残るためには、上位の存在になり続けなければならない。


男はそれだけ言い残すと、煙のように消え去った。

静まり返った赤黒い大地に、一人取り残される由香。手元にあるのは、現世の最後に握りしめていた折れたナイフの幻影のような、微かな冷たさだけだった。


「……ふざけんなよ」


由香の唇から、かすかな呟きが漏れた。

現世でも散々奪われ、踏みにじられ、虫けらのように扱われてきた。死んでなお、こんな理不尽なシステムの下で奴隷として這いずり回れと言うのか。ふざけるな。そんなもの、許すわけがない。


凍りついた瞳の奥で、かつてを生き抜くために磨き上げた狂気が再び鋭い光を帯びる。

守ってくれる者など最初からいない。愛なんてものがあるなら、それは弱い人間が見る幻覚にすぎない。生き残るため、この地獄で上に行くためには、かつての現世と同じように、すべてを奪い取るしかないのだ。


由香は足元に広がる泥を蹴り飛ばし、地獄の荒野へと踏み出した。

10日間のタイムリミットが、音を立てて動き始める。これは、地獄の底で生き抜くために牙を剥いた少女の、血塗られた戦いの始まりだった。

第1話「現世の終わりと地獄の始まり」をお読みいただき、本当にありがとうございます!


由香の過酷すぎる生い立ちと、死後に待ち受けていた理不尽な「地獄のシステム」、そして彼女の中に宿る野生の野獣のような生存本能を描かせていただきました。

「誰にも頼らない、すべてを奪ってでも生き残る」と決意した彼女が、今後どのように最強の鬼人と出会い、運命を狂わされていくのか……。次回の第2話では、いよいよ制限時間10日間のサバイバル、そして荒野での「鬼人狩り」が幕を開けます。


王道の「なろう系」のスピード感やざまぁ・成り上がりの爽快感を残しつつ、心を閉ざした少女と孤独な鬼人の重厚な人間ドラマ(あるいは鬼人ドラマ?)を丁寧に紡いでいければと思っています。


「面白そう」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の凄まじい励みになります。

それでは、第2話「10日間のタイムリミット」でお会いしましょう!

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