↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の底の鬼嫁生活:人間を捨てた少女は、最凶の鬼に愛を知る  作者: 凪塩 未来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/46

外伝 第1話:ガルドの回想――漆黒の王座と冷たい孤独

外伝第1話をご覧いただきありがとうございます。

本編では語られなかった、深層の王ガルドの過去に焦点を当てます。由香と出会う前、圧倒的な力だけがすべてだった冷酷な孤独の王が、どのようにしてその城で何を思いながら生きていたのかを描く、重厚な回です。

最強の鬼人が抱えていた凍てついた過去の物語をお楽しみください。

漆黒の夜空をそのまま固めたような、黒曜石の玉座。

その冷たい石の上に腰を下ろしていると、世界からすべての温度が奪われていくような錯覚に陥る。ガルドは微動だにせず、ただ赤く濁った瞳で眼下に広がる荒野を見下ろしていた。


地獄。その言葉が指し示す通り、この深層の世界には救いも、慈悲も、温もりも存在しない。あるのは「力」の多寡だけだ。強い者が弱い者を踏みにじり、生き残った者がさらに強大な者へと挑む。その残酷な連鎖の頂点に君臨しているのが、他ならぬこの自分――ガルドだった。


「王よ、東方の荒野にて下級鬼人どもが内紛を起こしております。鎮圧に向かいますか?」


玉座の広間の陰から、かつて忠誠を誓うふりをした配下の鬼人が進み出て、おべかを使った笑みを浮かべた。その濁った目には、忠義の色など微塵もない。


あるのは、恐怖と、いつかこの王座を引きずり下ろしてやろうという野心だけだ。

ガルドは冷ややかにその男を一瞥し、低く響く声で吐き捨てるように言った。

「勝手にさせろ。互いに潰し合うだけの雑魚の群れに、私の手を煩わせる価値はない」

「はっ……! さようでございますな!」


男はそそくさと頭を下げて去っていった。

背後で足音が遠ざかるのを聞きながら、ガルドは小さく息を吐き出した。吐息すら白い冷気となって、だだっ広い広間の空気に溶けて消えていく。

強い。誰よりも強く、この深層のすべてをねじ伏せるだけの圧倒的な暴力と魔力を、自分はこの体に宿している。


どんなに群れをなして反逆しようとも、指先一つで塵に変えることができる。それを分かっているからこそ、誰もが恐れ、誰もが敬い、そして――誰も近づかなくなった。


(孤独……か)


ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。

人間界の言葉だったか、あるいは遠い昔に耳にした誰かの戯言だったか。定かではない。だが、この底なしの闇に満ちた地獄において、その言葉ほど自分の現在地を正確に表しているものはない。


すべてを力でねじ伏せ、頂点に立った。その結果手に入れたのは、誰にも侵されない絶対の安全と、永遠に終わらない退屈、そして凍てつくような孤独だった。

裏切られるのが嫌ならば、最初から誰も信用しなければいい。傷つけられるのが嫌ならば、自ら心を閉ざし、絶対的な強者として君臨し続ければいい。それが、この地獄で生き延びるためにガルドが選んだ生存戦略だった。


だが、それは本当に「生きている」と言えるのだろうか。

ふと、そんな疑問が胸の奥をかすめては、すぐに冷たい泥の中に沈んでいく。

王としての責務を果たし、他の鬼人たちの見せしめとして逆らう者を処刑し、血塗られた玉座を守り抜く。


それがガルドの日常であり、それ以外の生き方など存在しないと信じ込んでいた。あの人間界からの小娘――富士由香が、あの荒野から這い上がってくるまでは。


あの日のことを、ガルドは鮮明に覚えている。

深層の境界付近で、身の程知らずにも単身で挑んできた人間の少女。泥と血にまみれ、ボロボロになりながらも、その瞳だけはまるで地獄の業火のように狂気と反逆の炎を宿していた。

(なんだ、あの目は……)

初めて見たとき、奇妙な既定感を覚えた。


それは、かつてガルド自身が心の奥底に秘めていた、世界に対する呪詛と、理不尽な運命に対する剥き出しの牙に酷似していたからだ。

殺すことなど容易かった。指二本でナイフを砕き、圧倒的な重圧で地面に這いつくばらせたとき、彼女は「さっさと殺せ」と捨て鉢な目を向けた。その姿は、周囲に怯えながらも誰にも屈まいと必死にトゲを立てていた、過去の自分そのものだった。


だからこそ、ガルドは気まぐれを起こした。

「死などという慈悲深い救いは与えない。我が妻として服従しろ」

そう告げたのは、支配者としての残酷さからだけではない。


どこかで、この冷え切った孤独な城に、自分と同じ「澱んだ目」をした野良犬のような存在を放り込んでみたかったのだ。彼女がどう足掻き、どう絶望し、そしてどう消えていくのかを高みの見物でもするつもりだったのかもしれない。


だが、結果はどうだったか。

城に連れ帰り、透明な檻に入れたつもりの少女は、いつの間にかガルドの予想を遥かに超える形で、その凍りついた心を内側から揺さぶり始めた。

無愛想に果実を投げつけてきた夜のこと。


自らの過去の傷と、「生きたかった」という泥臭い叫びを涙ながらにぶつけてきたときのこと。

誰にも見せたことのなかった弱さを、誰にも打ち明けたことのなかった孤独を、あの少女は拒絶するどころか、その小さな両手ですくい上げようとしてくれた。


(まさか、私が誰かに救われる日が来るとはな……)


ガルドは誰もいない玉座の広間で、自嘲するように、しかしどこか誇らしげに唇を緩ませた。

強さだけがすべてだった男が、一つの小さな命と、不器用で気性の激しい人間の女によって変えられていく。


それはかつての彼からすれば弱さの露呈であり、致命的な隙でしかなかったはずだ。だが今のガルドにとって、その変化こそが、この地獄の底で見つけた何よりも尊い「宝物」だった。


ふと、回想の海から引き戻されるように、城の廊下から足音が聞こえてきた。

重厚な扉の向こうから、少し歩幅の荒い、しかし紛れもない由香の足音が近づいてくる。

「ちょっとガルド、いつまで執務室にこもってるつもりよ。そろそろ夕飯の時間なんだけど!」


気だるげで、しかしどこか温かみを含んだ声が扉の向こうから響く。

ガルドの赤い瞳に、かつての冷徹な孤独の色はもう微塵も残っていなかった。彼は玉座からゆっくりと立ち上がり、重い扉を開けるために歩みを進める。

かつては漆黒の孤独しかなかったこの城は、いまや世界で一番温かい、家族の待つ「家」に変わっていたのだから。

外伝第1話「ガルドの回想――漆黒の王座と冷たい孤独」をお読みいただき、ありがとうございました!


本編では描かれなかった、ガルドの過去や由香に出会う前の心境を深く掘り下げたエピソードをお届けしました。最強の鬼人として孤独に君臨していた彼が、由香と出会い、どうやって心を開いていったのかその背景を感じていただければ幸いです。

そして次回、外伝第2話では、由香がガルドの城に連れてこられた直後の日々や、二人が初めて言葉を交わした知られざる裏側を描きます……!


「ガルド視点のお話最高に尊い」「孤独だった王が由香ちゃんに出会えて本当によかった」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをよろしくお願いいたします!

それでは、外伝第2話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。