出来ること出来ないこと
(女性兵士が馬に乗る姿は見たことはありますが、わたしは今まで許可されたことがなかったんですよね!)
レルワニからは、イクストゥーラは騎馬の民なのだと聞いている。ある程度の地位にある者であれば、男でも女でも馬には乗れるものだと。
これから外の世界に出て行くのにあたり、セリスはこれぞまさに「できない」とは言えないことだとみなし、意気込んで前のめりになりながらゼファードに訴えかけた。
「乗れたらいいなって思っていたんです! 乗ってもいいですか?」
ゼファードは緑色の目を大きく見開き、口元に笑みを浮かべて「そうだね……」と考える口ぶりとなる。同じく足を止めていたラムウィンドスが、鋭い視線を向けてきた。
「訓練したことがなければ、乗ることはできない。『やってみたい』でできるものじゃない、無駄に怪我をするだけだ。おとなしく馬車に乗るように」
またもや飛び出した感じの悪すぎる発言を耳にして、セリスは呆気にとられてラムウィンドスを見返した。
(「やらせてもらえないから、やりませんでした」で済ませる人間を見下すようなことを言っていたのに? いざ「やりたい」と言っても一蹴するだなんて。あなたは、わたしにいったいどうしろというの)
セリスはラムウィンドスに真っ向から向き合って意見した。
「では、教えてください。怪我をしない馬の乗り方について」
ラムウィンドスが、眼鏡の奥の目を細めて応じてくる。
「必要ないのでは?」
セリスが王宮に呼ばれるのは「選ぶ」ためだ。
そして「選んだ後」は、決して「選び直すこと」がないように隔離される可能性が高い、とセリスは仮説を立てていた。
(やっぱりそういうことなのかしら。だから移動手段なんて無駄だと思われている? むしろ与えるべきではないと)
ゼファードが馬に乗れるか確認してきたのは、セリスの能力を知るためだったのかもしれない。
――私は未来視をさほど信じない性質なんだ。ここだけの話、預言についても半信半疑だ。か弱き姫に『選ばれた』だけでこの動乱の時代に世界の覇者となれるなんて、そんな簡単な話も信じない。だから君は、好きに生きればいい。
その言葉を丸ごと信じて良いか、現在のセリスには判断がつかない。
(……「ここだけの話」をしてくれたからと言って、果たして兄様は本当にわたしの味方でいてくださる方なのでしょうか)
しかしこれから外の世界で生きていくにあたり「誰か」を信じなければいけないというのは、直感的にわかる。どうあっても、現時点においてセリスが「ひとりでは何もできない」のは動かしようもない事実であるからだ。
「必要かどうかはわたしが決めることです。わたしが必要だと考えてあなたに命じたことに関して、あなたには拒否権があるのでしょうか?」
果たして彼は「月の王家の姫」の命令をはねのけることができるのか?
無言のまま、ラムウィンドスが見返してくる。
負けじとセリスは睨み返した。
ラムウィンドスは、ふっと息を吐き出した。
「そもそも姫は、何が出来て何が出来ないのか。まずそこからだ」
「何が出来て……? レルワニが生きていくために最低限必要と教えてくださったことは、一通り学んでいます。出来ないのは、離宮内で禁じられていたことです。無断でひとりで外に出ることですとか、厨房に足を運んで料理を手伝おうとすることですとか。あとは火を起こしたり、水を汲んだりするのもだめで」
セリスが指折り数えて禁止事項を並べ立てている間、ラムウィンドスはまったく「無」の表情で耳を傾けていた。
やがて、言葉が途切れたところで「もういい」と言い放った。
「例えば賊の襲撃を受け、ひとりではぐれたとする。そのとき、あなたは何もできないということだ。余計なことには手を出さず、置物のようにおとなしくしているのがいいだろう」
その状況を思い浮かべ、セリスは咄嗟に言い返す。
「もしかして、あなたはご自分の剣の腕や護衛としての能力にさほど自信が無いのではないでしょうか。だからわたしに対し、何もするなと言っているのではないですか?」




