地面に数式を書く老人と、歴史の強制力(修正力)
長政が連れてこられたのは、ある橋の下でした。そこにはホームレスの人たちがいました。
「長政さんも、みんなに弁当配って」
「あ…ああ」
長政と翔太はホームレスの人たちに弁当を配り始めました。みんなは口々にお礼を言ってくれました。そう言えば、元の世界でも、こうして礼を言ってくれた人々がいたなあ。しかし、これほど豊かな世界でも、このような暮らしをしてる者がいるのか。
と、長政は、みんなから離れてブツブツと木の枝で地面に何かを書いている老人に気がつきました。
「ご老人、弁当を」
「ああ、ありがとうよ」
長政は老人が地面に書いている数式を見ました。
「ご老人、これは?」
「あんた、これがわかるのか」
「いや、さっぱり」
「そうじゃろな。これを理解できるもんはおらん。みなはタイムマシーンなど夢物語だといいよる。じゃが、必ずできるはずなんじゃ」
「ま、まさか、ご老人は佐川教授?」
「何じゃ、お若いの。わしを知っておるのか」
「も…もちろん、探していたのです」
「探して?わしをか?」
「長政さん、俺らも、こっちで弁当にしようぜ」
「翔太殿、今、行く。ご老人、いや、佐川教授、ご一緒にどうかな」
「そうじゃな」
「長政さん、そっちは?」
「佐川教授だ」
「何だって!」
三人は河川敷で弁当を広げました。
「今日はシャケ弁当か。翔太さんの弁当はいつも豪勢だな」
「会社の社員食堂の残りを詰めたものだけどな」
「なに、わしらにはありがたいもんじゃ」
「それより、全く、灯台下暗しとはこのことだ。まさか、じいちゃんが佐川教授だったなんて、気がつかなかったよ」
「はは…」
「ところで、教授はどうして、こんなところに」
「わしか、わしはな、大学に嫌気がしてな。わしの研究に興味も示さず、派閥争いばかりしておる」
「だ…だい…がくとはなんじゃ」
「え?」
「ああ…じいちゃん、いや…佐川教授、実は?」
「じいちゃんで構わんよ」
翔太はかいつまんで、佐川教授に長政が戦国時代から21世紀に飛ばされたことを話しました。
「ふむう…不思議なことも…いや、そうではない。お前さん、信長の首を獲ったと言ったな」
「ああ、そうだが、今、思うに、あれは信長の影武者ではなかったのかと思っているのだが」
「いや、違う。歴史の強制力が働いたんじゃ。わしの理論では、歴史が歪められるようなことがおこれば正しい歴史に修正されてしまうんじゃ」
「では、わしが元の世界に戻れたとしても叡山焼き討ちはおこってしまうということか」




