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悪いわけではないのだが

 ジュニアゲーム開発大会の入選の結果をコナタたちは自宅において知らされた。


「……よし、入選!!」

「おめでとう。それにしても随分嬉しいんだね」


 声を荒げて喜ぶコナタに対して近江の反応は喜んでいないわけではないが薄い。


「だってそうだろ。ゲームの構成とか結構杜撰だったし」

「そうかな。ゲームとして遊べたと思うけど」

「遊べなかったら、それクソゲー未満だから」

 

 予想していたよりも他端末連動のプログラミングに時間をかけてしまい地獄を見た。他端末の接続はスマホ以外にもPCやタブレットもできるように設定し、複数端末でもできるようにするなど、こだわってすることが多かった。


 結果、他端末連動とVR料理以外は設定が満足にできず、最低限の状態で提出したのである。これで入るか難しいとコナタは思っていたが、何とか入り込めたらしい。


「だけど、ゲームとしては売れないだろうな」

「何で?」


素直に疑問に思って、作品を評価している近江をコナタは嬉しいと思いつつ、理由を説明する。


「人気ジャンルではないし、ゲームとしても普段ゲームをしているユーザーが望んでいる物じゃない」

「なるほどね。まあ、ゲームと言ったらFPSとかアクションになっちゃうよね」


 近江も納得し、少し悲しそうな表情をしていた。自分を救ってくれたVR料理が正当に評価されないことは決して快いものではない。

 また、だからこそ彼女はVR料理がヒットすると最初は思っていた。それほどまでに食事をすることが出来なかった彼女にとってVR料理は素晴らしい技術だったのだろう。


 しかしながら、普通の人はそうではない。食事で困っている人はかなり少ないし、珍しいと思うこともないだろう。

 コナタとしても入選して拍はついたので、それだけでも十分なのだが自分で作ったのだからできるだけ売れては欲しいと思うものである。


――


 そんな入選結果から数日後、事件は起こった。


『皆さん、こんにちは! セカンドちゃんです。今回はジュニアゲーム開発大会に入選したけどクソゲーの匂いがする『グルメ・ヘルス』を実況していきます』

「……」

「その……お気の毒様」


 発売されて早速、ある動画投稿者によってコナタの『グルメ・ヘルス』は世に出された。

セカンドと呼ばれた動画投稿者は所謂クソゲーを主にプレイしているブイチューバ―である。正確にはクソゲーの匂いがするゲームを発売初日に買いプレイするというもの。


 無論、定価で買うので視聴者からは哀れまれている。また、買ったゲームは悉くクソゲーを決める大会でノミネートされていることから命中率も高い。


 ゲーム製作者からすれば死神のような存在だ。


 コナタも入選早々こんな奴に目を付けられるとは思ってもいなかったのである。


「嫌だ。もう本当に嫌だ」

「クソゲー認定されるって決まったわけではないから」

「認定されるって、ゲームとしてどうかと思ってたし」


 考えていなかった最悪の展開に気分が下がりきるコナタ。拍を付けるために大会に出たのに、これでは他の人に舐められるのではないだろうか。


 しかし、一途の望みを持って配信は切らずに二人は見守ることにした。


『それじゃ、始めていきます。一応、大会で入選してはいるから評価はされているんだろうけどな……ごめん、ちょっと期待できないや』


 セカンドのキャラクターが申し訳なさそうにしており、その反応に視聴者の全てが同調する。『仕方ない食べ物題材のゲームって時点で怪しいもん』とか『これだけ絶対裏の事情で入選したやろ』とか書かれてしまっている。


 ゲームとしては粗悪もいい所なので反論できず胃が締め付けられる思いだった。


『それじゃあ、プレイしていくんですけど。その前にこれスマホ連動できるらしいのでしてみます』


 セカンドは最初にスマホの連動に目を付ける。コナタとしては嬉しいようで緊張もしている。


 VR料理以外でコナタが製作に力を入れた所はここだ。それを貶されでもしたら立ち直れる気がしない。

 それでも、自信がないわけではない。ユーザーのことを考えて自分でも便利だと思って搭載した機能だ。ここで指摘された点は改良すればよりよくなるし、称賛されれば喜ぶだけだ。既にプロの人間からは審査されている。セカンドに評価される覚悟をコナタは決めた。


「連動し終わりました。それではVR空間に入ります」


 セカンドが宣言して、VR空間へと移動した。


「おお、結構本格的な部屋。思ったよりも期待できそうです。そして、矢印マークがタブレットの上にあるので使ってみます」


 外装を褒められたが油断はできない。セカンドがVR空間のタブレットを取る所をコナタは見守った。


「おお、説明が書かれてる。やっぱりスマホと連動して、遠隔操作できるんだ。スマホのアプリとかホーム画面とかも見えるのね……え、ちょっと待って、それって画面が晒されちゃうじゃん!?」


 セカンドは慌てていた。どうやら、自分のスマホの画面が見えることが動画配信で不都合だったらしい。


 当然だ。スマホは個人情報の塊であり、ホーム画面が見えただけでも不快に思うし、犯罪に巻き込まれてしまう可能性もある。だからこそ、


「右下にある」

『……ああ、良かった。配信者用にスマホ画面が見えなくなるモードがあるっぽいです』


 動画配信する人間のために視聴者から連動タブレットの画面が見えなくなる設定もプログラミングしておいた。


「良かったね」

「ああ、念には念を入れた甲斐がある。動画配信されても今の時代は不思議じゃないから」


 スマホを連動させる上で考えられる心配は全て対策した。

 そのおかげでセカンドの動画が炎上することはないようである。


『配信者用の設定もあるんですね。製作者さんポイント高いですよ』


 褒められたことでコナタも悪い気はしなかった。正直、必要ないかもしれないがもしもの時のためにとプログラミングしたものだ。

 当時の自分自身を自画自賛したくもなり、自然と笑みがこぼれる。


『歩数計のアプリと連携してゲームをするようですね。何ででしょう? それを知るために私はグルメ・ヘルスへの奥地へと向かいます』


 そうして安心するコナタは動画を受け流す。

 VR料理については問題ないだろう。このまま行けば、クソゲー認定されることはない。


 と、勝手に思っていた。


『えっと、ガチャで料理が出てくるんですね。ガチャアイテムの入手方法は毎日ログインと歩数計の歩数でもらえるんですか。……これは匂いますね』


 セカンドの口癖である『これは匂いますね』が炸裂してしまった。そこからは視聴者からの書き込みも盛んになる。


 『有料ゲームなのにガチャかよ』『アイテムの入手方法を歩数計に丸投げするゲームww』

『ニートだとつまんないゲームやないかい。有料でもいいからガチャさせろや』など。


 罵倒されることも想像していなかったわけではないが、実際に見てしまうと心が軋む。すると、悪い方向に物事は考えてしまうものだった。


 もしかしたら、このまま料理を満足するまで食べられることなくクソゲー認定されるのではないか。


 そんな不安が頭をよぎりコナタの額に汗が流れる。


 せめて、最後まではゲームをやってくれとコナタはただひたすらに祈った。


『ううん。でも、連動は複数端末でもできるみたいですね。なら、家にいる家族に頼んでみようかな。少し配信切ります』


 運よくセカンドが接続連動は複数端末でできることに気づき、家族に歩かせる方向で相談してくるらしい。


 その間はチャットでの話し合いが繰り広げられた。その内容は決して良いものとは言えない。

 入選はしたものの、やはり普通のゲームじゃなければ皆には受け入れられないのだろうか。コナタはゲームが専門ではなくVR料理だけ作れればそれだけで良い。しかし、ゲームとしてコナタが作ったものを罵倒する視聴者の書き込みを見るだけで心が痛んだ。


「大丈夫、最後までやってくれるよ」

「近江さん」

「VR料理はそれだけの力があるもの。貴方が信じなくてどうするの?」


 VR料理には力があり、それを誰よりも体感したのが近江だった。だから、食べずに終わることはないと確信している。コナタもそんな彼女にメンタルを助けられた。


 VR料理を食べてくれるなら大丈夫だとは思っていた。しかし、食べてくれないかもと想像してしまっていた。


 そんなことはない。VR料理という興味心をそそるものを口に入れないで終わるものか。


「だな。食べてくれるに決まってるよな」


 コナタも口に出して、視聴者の暴言など気にせずにセカンドを待った。


 そうして10分くらい待っただろうか。書き込みも収まり、視聴者も少なくなっている時にセカンドは帰ってきた。


『皆さんお待たせいたしました。家族が用事あるらしくて歩数計登録して行ってくれています。私はその間にVR料理を一つだけ食べてみますね』


 配信は再会し、視聴者も段々と増えてくる。そんな中、セカンドがガチャを回して食べる料理を決めた。


『出てきた料理は、タコスですね』


 その反応は前向きではなくどこか影がある。苦手な料理だったかとコナタは不運を呪いそうになったがそうではないらしい。


『私、タコス食べたことないんですよね。タコス味のスナック菓子なら食べたことあって好きなんですけど。まさか、初タコスがVR料理になるとは。それではいただきます』


 ようやくコナタが待ち望んでいた瞬間が来た。セカンドは慣れない手つきで出てきたタコスを口の中へと入れる。咀嚼し、数回頷きながら目を少し開いた。表情も微笑になっており、美味しいことが伺える。

 

 一口を飲み込み終わり、感想を口にした。


「……これがタコスなんですか。本物と似ているかはわかりませんけど、美味しいですね。料理も本当に食べているみたいに感じます」


 それから、家族が帰ってきたらしく歩数でアイテムを手に入れてガチャを回し、あらゆる料理を彼女は堪能した。どれも評価は悪くなく、クソゲー認定されるとはコナタも前向きに思うようになった。


 料理に満足したのか、セカンドは動画配信を締めくくる。


 それは同時にグルメ・ヘルスの評価を言い渡す瞬間だった。


『皆さん、ありがとうございました。今回はグルメ・ヘルスをプレイしてみました。その結果は……バカゲーに認定します。普通のゲームとは毛色が違うけど、出てくる料理は全部本当に美味しかったです。ジュニアゲーム開発大会のゲームなので結構安いので興味があったら買っても損はしないと思います。それではまたね』

「……バカゲーね」

「まあ、いんじゃないかな。VR料理自体は褒めてくれていたし」


 ゲームとしては名誉なのか不名誉なのかわからない認定をされてしまった。落胆すれば良いのか喜べが良いのか微妙な所である。


 だから、この配信が大きな渦のきっかけになるとはコナタも近江も考えてもみなかった。


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