シンデレラボーイの初心
グルメ・ヘルスがバカゲー認定されて数週間後。コナタは頭を抱えることになってしまった。
まず始まりは、学校の友人、佐倉浩二の一言だった。入学から意気投合してよく話すクラスメイトだ。
「そう言えばさ、コナタ。最近、変なゲームが出たの知ってる『グルメ・ヘルス』っていうんだけどさ」
「……ああ、確かセカンドっていうゲーム配信者が実況してたやつだっけ?」
佐倉から自分の作ったゲーム名が出てきたことにコナタは驚きよりも困惑していた。一時期は大会で入選したということもあって動画サイトなどの広告で出たことがあったが、今ではその広告もみることはなくなっている。
それに、自分の作ったゲームの売り上げもコナタは見たくなかった。別に金儲けをしたかったわけではなく、あくまで一回ゲームとして出してみようというものだった。しかし、実際にやってみれば実況者の玩具にされ、それ以降は目をそらし続けていたのだ。
近江においてもこの話題はしないようにと釘を刺しておいた。自分の恥ずかしい作品をよりにもよって佐倉が口にするとは思わなかったのである。
「そうそう。あれから随分と人気になったよな」
「……人気?」
「だってそうだろ。少なくともジュニアゲーム製作大会で出された中では一番売れたしな。それで俺も少しやろうと思ってたんだけど、ST2がなくてさ。コナタの家になかったっけ?」
「ST1はあるけど、2はないな」
「そうか。わかった」
そこで話題は変わったが、コナタの中には『グルメ・ヘルス』の現状について疑問が生まれたのだった。
――
放課後、近江の家でVR料理を振舞いながらコナタは質問してみる。
「そう言えばさ、グルメ・ヘルスって今どんなことになってるんだ?」
まず、嬉しそうな笑顔を向けられた。
そして次に近江は堪えていたものを発散させるように話し始める。
「10万ダウンロードおめでとう。動画実況者の影響もあるけど大ヒットしたよね」
「……10万ダウンロード?」
有名なゲームは発売すれば数百万本売り上げるのであんまりすごいイメージはないが、全体的で言えばかなり売り上げは高い。
ダウンロード版しかないのでこれが売り上げ総数となるが十分に大ヒットと言える。
「何でそんなに売れるんだ?」
「況者のネームバリューが大きな影響あったみたいだよ。他にもゲーム自体の値段が1000円で手が出しやすかったこともあるみたい」
動画実況者がしたゲームであれば視聴者は興味を持つ。そして、ゲームを買うのはこれまでの現実でもあった話だ。
しかし、ここからはこれまでの過去の事例と異なった。元々期待されていたビッグタイトルで中身も良い神ゲーであれば動画投稿されるだろうがいずれにしても大ヒットになる。そして、クソゲーと言われたゲームであれば動画実況者の影響で需要が増える。
そして、価格が高騰する。クソゲーと呼ばれるゲームは当たり前だが、発売当時は売れることがない。しかし、動画実況者が実況することで需要が増える。
ゲームを楽しみたい人間からクソゲーを面白半分でしてみたい人間にニーズが変わるのだ。そして、販売数が少ないこともあって高騰し、手が出しにくくなる。
だが、学生の大会で作られたゲームなので値段も商売として出しているゲームよりも比較的安い。また、新しくできたゲームでありダウンロード版のみの発売ということもあって値上げしにくくかった。
「本当に運が良かったよ。まあ、ゲームそのものを評価されたわけじゃないってことか」
『グルメ・ヘルス』が売れたことはわかった。しかし、コナタは喜ぶことはできなかった。今回の売り上げに貢献したのはコナタ自身の力量ではなく、動画実況者のネームバリューによるものだ。
偶々、有名人が取り上げてくれたおかげで成功したに過ぎない。購入者は製作者であるコナタのこと何て全然頭にないことだろう。
今回の大会は箔を付けることが目的だった。これ以上、自分のVR料理を誰にも奪われないようにするための牽制だった。しかし、この結果はどちらかというと実力があるゲームプログラマーには舐められるものではないだろうか。
苦笑しかしないコナタ。それを見て近江の顔が険しくなる。
「山県君って本当に卑屈なんだね」
「嫌、事実を述べているだけだよ」
「なら、世間知らずだよ。これを見てもそう言える?」
近江はパソコンで何かを調べてコナタに見せる。それは大手ゲームサイトのレビューだった。
そのサイトではゲームは最大五つ星で評価されるもので、グルメ・ヘルスは3.5の評価を得ている。
正直言って、ゲームとしては凡作もいい所だった。4であれば普通に評価されるし、4.5であればこれまで出てきた数百万本ヒットしたゲームと並ぶ。それらには明らかに見劣りすると言われているのだ。
「そこまで良い評価ではないね。悪いわけでもないけど」
「待ってよ。私が見せたいのはそこじゃない」
近江はそう言うと、とあるレビューを一つだけ見せてきた。コナタも気乗りはしなかったが、見ないわけにも行かず無気力に文字を目でなぞる。
『新しい面白さがあるゲーム』
星5で投稿した評価者の一文。そこから詳細な文章が書かれている。
『結構噂になっていたので購入してみたものです。報酬で出てくる料理が良く再現されていて美味しかったです。これまでのゲームとは毛色が違うものでしたが、VRで再現された料理を食べてみるという面白さがありました。他のゲームでも是非ともこんな料理を食べられるようになってほしいものです。欠点としては料理にだけ力を入れているので他の要素では遊べないことでしょうか。これまでのゲームを楽しみたいという人には少し合わないと思います』
星5の評価なので基本的に肯定してくれてはいるが、このゲームの注意点もしっかりと説明している。
コナタの思いは晴れることはない。
「星5の評価だから、こんなものだろ」
「なら低い評価も見て」
次に見せられたのは星1。所謂最低の評価だった。
『ゲームじゃない』
『ゲームとして買うならお勧めしない。仮想空間で食事をしたい人向け。出される料理は美味しかったが、ゲームシステムは崩壊していて評価するところは一切ない。料理でごり押しているゲーム。でも、料理に力を入れずにゲームシステムを充実したからと言って面白くなるようなものではない。大ヒットした理由は動画投稿者のおかげ』
自分の自虐を端的にあらわされたようなレビューにコナタの心は沈んだ。自分では思っていても相手に言われたら嫌なことがある。コナタが辛いことを話そうと思ったのだが、
「他にもあるけど、皆料理については山県君をしっかりと評価してくれているよ」
近江が先に話し、その一言にコナタはハッとしたのだ。
コナタは元々ゲームプログラマーになんかなろうとは思っていなかった。VR料理だけを作りたかったし、VR料理が美味しいと思われればそれで十分だった。しかし、ジュニアゲーム製作大会に出てゲームとして見られたことで自分を見失っていた。
ゲームとしては評価されなくて当然なのだ。何故なら、コナタにはゲームプログラミングの知識はゲームプログラマーを目指す同年代の人間ぐらいしかないのだから。
それがVR料理におかげでプロでも通じるぐらいのゲーム評価を受けている。例え、ゲームを評価していなくてもVR料理が美味しいと言われればコナタの勝ちではないか。
思えば、近江は今回の大会でもコナタのVR料理だけ自信を持っていた。ゲームとしてのシステムは何も言わなかった。だからこそ彼女はこのゲーム全体を肯定したと思ったが、本当にそうなのだろうか。
「あのさ、近江さん」
「何?」
「グルメ・ヘルスからVR料理を抜いたら。どれくらいの評価になるかな?」
「クソゲーでしょ。間違いなく」
「……だよな」
辛辣な言葉にコナタは笑った。
自分はゲームをたくさん作ってきた経験も面白いゲームを作りたいという志があったわけではないのだ。
VR料理を世間に出して誰かに奪われない予防線を張るために選んだ場所がゲームだっただけのこと。それでここまで多くの人間が手に取り、VR料理については評価してくれたのだから目標は達成されているのだ。
「ごちそうさま。今日も美味しかったよ」
「うん、ありがとう」
コナタは畑違いの仕事に取り組んで自分もゲームプログラマーであると錯覚していた。しかし、そうではない。コナタはVR料理を作れる言わばVR料理人であった。他の人間がゲームプログラマーであると言おうと自分が誰かを見失ってはいけないのだ。
この大会で大きなものをコナタは二つ手に入れた。一つは大ヒットゲームを作ったという功績。
もう一つはゲームを作っているのではなく、VR料理を作っているという意識を持つこと。
特に二つ目はコナタが世間にVR料理を出さなければ得られなかったものだった。近江がごちそうさまと言った時のありがとうには自分を初心に戻してくれた感謝も含まれていた。素直に言えないのは御愛嬌だ。
「あとさ、山県君。味覚開発部門の新チームが出来たって。早速、次の土曜日来てほしいみたいだよ」
「わかった」
そして、これから更にVR料理を世界に広める活動が始まる。




