決まった道
ゲームの構成において一週間考えると決め、コナタたちは案を出し合った。
休日は丸一日。平日は放課後。
しかしながら、納得する案は出てこない。
あっという間に時間は過ぎ、最終日までやって来る。
諦め半分、緊張半分で近江がコナタの家を訪れた。
「こんにちは。ゲームの進捗はどう?」
「まずまず。ガチャに関してはシステムは作成できたし、大会に出す時のVR空間の構成も順調に進んでる」
「そう。それは良かった」
近江は笑顔でコナタを称賛するが、少しもの寂しさもあった。
VR料理に関しては今の近江では協力できることはほとんどない。コナタだけの技術であり、彼女が作るように教えることは大会のゲーム制作では邪魔になるだけだった。しかし、ゲームのプログラミングにおいては力になれるかもしれないと思っていた。コナタはゲームを作ることに関しては不安がっていたし、自分も力になれるだろうかと。
しかし、ゲームのあらゆるプログラミング技術で近江はコナタよりも劣っていた。ゲームのあらゆるプログラミングの基礎をコナタはできており、VR料理を除けば、特にVR空間の構築に優れプロレベルに達している。圧倒的な差に近江は益々コナタが遠い存在だった。
「もし良かったら、作ったVR空間の感想を聞きたいんだ。入ってみてくれない」
「わかった」
近江はST1のヘッドギアを付けて、製作中の空間の中に入る。
待っていたのはお洒落かつ落ち着く個室だった。先日コナタが自分やヴイスに出したものは民家の一室だったが、こちらはより飲食店の雰囲気に寄せている。
4人ほどが座れ、空間に置かれている窓は外の景色があるかのように作られている。高層ビルの中という設定のようで、外の景色は下に車や歩く人の姿が映し出され、綺麗な夜空と並び立つビルが高級感を演出する。
テーブルや座席の質感も違和感はない。
「どうかな?」
「すごいと思うよ。何も問題はない」
近江ではこんな空間を一週間で作ることは不可能であり、2か月全てを使っても難しい。それをコナタは難なくやってのける。
自分はアイデアを出すだけというのが現状で、それが最善だと近江は判断した。
結果のためには仕方がないが、何もできない近江は情けないと思ってしまう。
「山県くんってさ、どこでVR空間の作成とか覚えたの?」
コナタの技術の秘訣が知りたいし、可能であれば模倣しすぐにでも力になりたい。近江は素直にコナタへと聞いてみた。
「子どもの頃からしてただけだよ。別に何か特別なことをしたわけじゃない。強いて言うなら地道な努力が大事なんだ」
「子どもの頃ってどれくらい」
「大体5歳くらいかな。両親がそれ関係の仕事をしててさ。その影響を受けて俺もしてたってだけ」
5歳頃に始めていたことにも驚いたが、近江にとっては追い付くまでに10年間ほどの時間がかかることで気を落としてしまう。コナタは両親の影響で同じ道を辿った。近江は同じような境遇の両親がいたがそんなことはしていない。中学生ぐらいに人並みよりはできるようにしただけだ。
近江自身、そんな自分を責める気にはなれない。しかし、コナタを助けられないことからこれまでの自分の行いをとても後悔している。
幸い、これから彼女がゲーム制作の技術を高める環境は他者と比べて整っていた。後は努力するだけだと自分を心の中で奮い立たせたのだ。
「さて、本題に入ろう。抽選アイテムの入手方法はどうしようか?」
「この期間で思いついた『ログインボーナス』は一日一回抽選できるようにするってことで確定。他には必要かって話だよね」
抽選アイテム入手方法として二人が考えたのは、一つ目に『待つ』というものがあった。その最たる例が他のゲームでも採用されているログインボーナスだ。ゲームを起動するだけで報酬がもらえるシステムであり、主にソーシャルゲームで使われている手法でユーザーを引き留める効果がある。
ログインボーナスについてはあまり考えずに納得して採用することにした。問題はそれ以外に抽選アイテムを作る方法が見つからなかったということ。
コナタたちのゲームの神髄はVR料理を食べさせるということにある。ログインボーナスでも十分にゲームとしては機能するのだ。しかし、もっと抽選したいというユーザーもいるだろう。そんな彼らに寄り添い、簡単かつ誰でもしているようなことは何か。
意見を出し合うが今一つ二人とも納得いく案が出ていなかった。
「できれば欲しいよな」
「そうね。これまで出した案で決める?」
コナタも近江も半ば新しい案を決めることは諦めていた。新しい案では思案する時間が難しいし、この一週間で出てきた案でも有用だと思えるものがあるのだ。
しかし、いざプログラミングする上で難しいものがあったのである。
「そうだね」
「やっぱりさ、『歩数計』でガチャアイテムを獲得する方法がいいと思う」
人間において当たり前にやっている行動の一つが『歩く』だ。元々、フィットネス系のゲームをしようという案を省みて出てきた方法だ。歩けば歩くほどにガチャアイテムを獲得させる。
「良いとは思うんだけどな。歩数を登録する方法がな」
「一番簡単なのは自分で押してもらうことだけど不正しやすいよね」
ST2にはゲーム機なので当然のことだが歩数を自動でカウントする方法なんてない。故にどのように歩数を反映させるかが課題だった。ユーザーに直接登録すれば実際は歩いていないのに登録する輩が出てくるだろう。
VR料理を堪能させることが根幹なのでいっそのことユーザーが歩数の偽造登録を許容することも考えたが、ゲームとしてそれは味気ない。
「なら、VR空間で歩かせようと言っても」
「歩くための空間を町規模にすれば作る手間が膨大になる。変に手を抜いてグラウンドレベルにしてもユーザーに不快感を与えるだろう」
VR空間を作って、そこで歩いた歩数を登録しようとする方法も考えたが、即座に問題点に気づく。
歩く空間を作るとして、町規模の大きさを作るのであれば外観を考えても2か月では到底できることではない。せめて、グラウンドぐらいの大きさにとどめようとしてもVR空間で歩くことをユーザーが喜ぶかどうか。既にVR空間で歩くという体験をは容易にできる。
日常のしていることで気軽にガチャアイテムを入手させようというコンセプトなのにユーザーに日常生活を通じてではなく、VR料理を食べさせるために歩かせるのでは本末転倒だ。
「どうしようかな」
別の方法を考えるべきかと、コナタは頭を悩ませる。やはり、歩数の偽造登録を認めるべきかとすら思っていた。
「ユーザーに歩数を登録してもらうか。結局、それが一番簡単だ」
「そうね……あ!」
意見を出すと、近江が少し考えて何かを閃いたかのように大きな声を出す。コナタは今の問題を解決するために直ぐにでも聞きたかった。
「何か思いついたの?」
「うん。上手くいけば大丈夫だと思う。でも、少し待ってて」
近江はそう言うと、誰かに電話をかけた。コナタはソワソワしながらも解決の糸口を信じてじっと待つ。
「もしもし、父さん。今大丈夫?」
電話をかけた相手は近江の父親である仁志だった。要件だけ話して短い会話で終了する。
一体、その時間で近江は何を確認したというのだろうか。
「仁志さんに何を聞いたの?」
「ヴイスのアプリを流用するゲームシステムにしていいかって。それで今回の問題は解決できると思う」
アプリという言葉にコナタは突発性を感じる。表情でその思いが出ていたらしく近江が説明を始めた。
「ねえ、山県くん。私たちは歩数を登録する時、歩いてもいない歩数を登録することを問題にしていたよね」
「そうだ」
「それじゃあ聞くけどさ。実際に歩いた数を登録する人がいたとして、その人はどうやって自分が歩いた歩数を確認するのかな?」
質問にコナタは考えてしまった。自分が歩いている歩数を自分の頭で一々数えるなんて余程の変わり者だ。不正をすることばかり考えてしまっていたが、正当な方法でカウントする方法がわからないのは情けない。
しかし、簡単に方法は思いつく。
「……歩数計を持って歩けばいいだろ。そもそも、スマホやケータイに歩数を数える機能はあるはずじゃないか?」
「正解。スマホには歩数計アプリ何て山のようにある。ヴイスも独自で開発して無料版も提供されている」
「……ん。もしかして――」
歩数計アプリの存在が出ていたことと、近江の言葉でコナタは彼女の案を察した。確かにその方法が可能であれば、手間もかからずに歩数で抽選アイテムを入手する仕組みが完成する。
「わかったんだね。そうだよ。因みに、連携していたゲームは既にあるからアプリ自体は問題ないと思う。後は大会で反則にならないか。そこは父さんが確認するって」
近江の案は大会において通るかは不明瞭だった。絶対に無理と言う訳ではないが、規定で違反とされている可能性もある。
同人のゲームや同じ会社のゲームであれば行われていること。しかし、コナタたちの立場から、部外者が大会主催者のものを使うことになる。
光明が見えて希望が持った束の間、近江のスマホに通知音が鳴った。
「……え、嘘」
「仁志さんから?」
「うん。こんなに早く来るとは」
「それで、どうだった?」
命運がかかっている回答を近江は笑顔で答えた。
「いいって」
「……よし!」
コナタも喜び、方針が決まったことですることが次々と頭の中に浮かんでくる。ユーザーによりよく遊んでもらうためには自分たちでも工夫する必要があった。
「方針は決まったね。これからどうする?」
「まずは考えた方法をプログラミングでできるようにすることだな。それ以外に――」
「それ以外に?」
「登録する歩数を何人分にするかとか、そもそもアプリを入手する方法とかもゲームで説明した方がいいと思う。歩数計アプリに縁がない人もいることを想定して」
「いいね。それじゃ、始めよう。基本的に山県くんだけですることにはなるだろうけど、私にできることがあったら手伝うから」
「よろしく頼む」
早速仕事にとりかかろうとするコナタ。その肩に手が置かれる。
「ひと段落着いたよね。なら、報酬をいただこうかしら」
「……そうだったね。今出す」
方針が決まったこともあり、コナタは近江にパンケーキを振舞った。
そして、数週間の製作を経てコナタたちの作品は予選に出されたのであった。




